Java開発は揺るぎない基盤を手に入れた、2004年は.NETが本腰へ
Javaを中心とするWebアプリケーション開発環境は、「個々のテクノロジーを問う段階からプロダクトベースへと変化した」とボーランド、代表取締役社長の小手川清氏。複雑化するアプリケーション開発環境において、要件定義や開発工程のフィードバック体制などは、ますます重視されていく。

 Javaと.NET、2つの異なる開発アプリケーションを揃えるボーランド。2003年は、開発手法提案としてアプリケーション・ライフサイクル・マネージメント(ALM)を国内でも掲げ、効率的な開発環境を提唱してきた。その2003年末には、Javaアプリケーション開発で核となるJBuilderの最新版「Borland JBuilder X日本語版」を発表。2004年には、.NET開発ソフトの最新版「Borland Delphi 8日本語版」のリリースを控えている。いっそうの統合環境整備へと拍車をかけていく。

 開発アプリケーションベンダー代表として、ボーランドの代表取締役社長、小手川清氏に業界の移り変わりを聞いた。

ITmedia 2003年のソフトウェア開発業界にはどのような変化がありましたか。

小手川 多くの開発ベンダーが個々のテクノロジーにこだわらず、開発プロセス全体として見られるようになってきました。これは、やり取りする顧客からの意見として実感したものです。2002年までは、取り組むべきリサーチが先行し、まずはコストから生産性を問うことが多かったといえます。

 当然ながらコストの問題、品質管理、品質向上なども課題となっていますが、開発全体を考えた個別のテクノロジーに執着しない傾向が強くなっているのです。開発そのものをどのように行えば円滑に進められるのか? と、見つめる段階になってきました。

 また、開発環境の1つとして拠点を海外に置いて中国などに任せれば、コストは下がるものの社内のノウハウ流出を嫌うという意見を多く聞きます。結局のところ人件費や気苦労などを考えれば、外注することに疑問が出てしまうともいいます。そして、昨今の国内事情からも、まずは国内に基盤を築きたいという傾向なのも事実です。

 エンジニアへの負担が増え続けている、という実情も大変気になっています。


「プロジェクト成功の鍵は、しっかりとした要件定義やアジャイル開発可能な体制などにある」と小手川氏

 年々複雑さを増すプロジェクトの中で、顧客とプロジェクトマネージャ間などの意思疎通は難しくなりがちです。それぞれのイメージだけでプロジェクトが進んでいけば、ある時点で思い違いが表面化してしまい結果的には受注元が泣き寝入りをして修正、といったことが多いでしょう。このような土壇場でのシステム変更は、最終的な作業を行うエンジニアへの負担です。

 一部のエンジニアでは、メンタルな病気になってしまう人も多く、やり取りするさまざまなソフトウェア開発企業でも、必ず1人や2人は社内にいると聞きます。従来のように物理的な健康不純ではなくメンタルな面のため、その上司は対応に戸惑うと口を揃えたように言います。

ITmedia 開発環境としての.NETには、どのような変化がありましたか。

小手川 日本国内での.NET環境は、まだまだ要件が少ないというのが実情です。一般紙の社会面にまでセキュリティ問題が載ったことも影響し、断定的に嫌うという意見も聞きます。しかし、金融関係などでは、依然強い関心があるのも事実です。

 先ごろ、既存ユーザー向けのセミナー「Delphi Developers Day 2003」を開催したのですが、その席のアンケートでは、現在、.NETでの開発に取り組んでいるという意見は15%でした。.NETを今すぐに取り組むべき、と捉えているユーザーは少ないといえます。

 しかし、きっかけのひとつとなるよう2004年はボーランドとして動き始めます。これまでは、2003年に日本語最新版のDelphi 8をリリースできなかったのが本腰を入れられなかった大きな理由だと考えています。この次期Delphiでは、現段階から取り組んでいけるよう、ソースコード互換を実現します。現状のコードを変更することなく、.NET対応のバイナリ生成をサポートするのです。

 今後の.NETがどこへ向かっていくかと考えてみれば、3つ考えられます。まず1つに、Longhornのような次世代環境でマイグレーションしていけるという点、実情を見ていけばASP.NETを利用することで効率よくWeb機能実装が行えるというのも1つ、そしてサーバサイドな既存のWindows 2000 Serverでも動作可能という観点でしょう。そして次世代環境が整ってくれば、従来Win16からWin32へと移行してきたように、特に.NETと問われることもなくなるでしょう。

ITmedia 2003年のJava環境で印象となったできごとがあれば挙げてください。

小手川 Javaについては、金融基幹(UFJ銀行)で採用されたのが大きなできごとでした。この事例では、Borland Togetherが使われたことも自信のひとつとなっています。このような大規模なシステムであれば、今後、.NETへと乗せ替えるのは現実的でありません。このことからも揺るぎない事例だと捉えています。

 4、5年前では金融機関の基幹システムとして採用されるなど考えられなかったことです。社会問題にもなってしまうため保守的ですからね。

 そして、このような背景が影響してか最近では、基幹とつなげるという考えが一般化してきています。.NETと比べ、Javaではこのような採用事例としても進んでいますが、いずれは.NETにおいても同じような事例が増えてくることでしょう。そして、これまではJava、.NETと個別のプロジェクトとして進むことが多かったのですが、前で挙げたように「つながる」という前提事例が見られるようになるはずです。

ITmedia 複雑化する現在のプロジェクト開発では、何をいちばんに重要視すべきでしょうか。

小手川 プロジェクトスタート時点における定義付けが重要ですね。現状では、何となく仕様が煮詰まらないうちにスタートするというプロジェクトが多いはずです。最終形を見据えてクリアな状態で進めなければ、問題が起きるのは当然かもしれません。従来であれば問題視されなかったかもしれませんが、複雑さが増す現在では十分に定義していかなければならないでしょう。

 そして、それでも定義変更が起きる事態を想定し、開発しながら定期的なデバックを行ったり、プロセスの連動、そしてフィードバックを行うといった配慮は必須です。定義の基となる設計図にまでにもフィードバックすることも可能ですから、エンジニアリングそのものが向上していくという期待もあるわけです。

 このことは、プロジェクトが大規模なほど重要視していくべきです。そして、コンポーネントの再利用も行うことができれば、さらに効率的なエンジニアリング環境が構築できるはずです。このような背景も、前で触れたようにこの1年間で変わってきたと実感しています。

2004年、今年のお正月は?
休みの最初には下田へ行ってゴルフをしたり、夜には読書をしたいと思います。後半は子供たちが孫を連れてきますので、ゆっくりと東京で過ごす予定です。

2004年に求められる人材像とは?
自己啓発できる人が好ましいですね。ビットバイトの世界に閉じることなく、課題、命題を利用シーンを考えて広範囲で見つめることが重要です。そして、特に一生涯尽くすようなことは求めず、他社でも認められるような人物になってほしいですね。ある意味ではドライだといえますが、そのような考えの人の方が強いです。

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[聞き手:木田佳克,ITmedia]