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2位でもいいから大量のスパコンを伴大作の木漏れ日(2/2 ページ)

日本のスーパコンピュータ「京」が世界1位を獲得したのは読者も記憶に新しいことだろう。しかし、手離しで喜んでばかりもいられないと僕は見ている。

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コンピュータ利用の底辺を大きくする

 スーパーコンピュータが一般に浸透するきっかけになったのは、間違いなく米国・Cray社の製品だ。やがて、同社製品の需要が一巡し、同社製品を価格、性能で上回るNECの製品が市場シェアを高め、一般の高性能サーバも性能を高めると、Crayは市場での存在感が薄まっていった。

 勝ったはずのNECもIBMを代表とするスカラー型グリッドの登場により、次第にその存在感が薄れてきた。スーパーコンピュータ間の競争だけではなく、PCクラスター・グリッドの登場は高性能科学技術計算市場を一変させた。

 一般の企業はコストパーフォーマンスに優れたクラスター・グリッドの導入を本格化させた。その結果、科学技術計算市場はサイト数、ユーザー数で増加しているにもかかわらず、金額ベースの市場規模は縮小する傾向にある(この件に関しては、NECのスーパーコンピュータ開発担当者とのインタビューで彼らもこの傾向を認めていた)。

 日本を代表するスーパーコンピュータベンダーであるNECもそうであるように、GRAPEプロジェクトにおいてスカラー型超並列で実績を積み、今回、京でめでたく世界一の座を獲得した富士通も基本的に政府系研究機関(大学を含む)を販売の中心に据えている。

 一般の企業向け納入実績もそれなりにあるが、最近はPCを多数接続してグリッド型としてアプリケーションを処理する企業が増加している。そのような現状では、どうしても官公庁中心にならざるを得ないようだ。

 そこには世界のランキングへの野望があり、大学に代表されるように予算の厳しい制約があり、研究者などユーザーの自由にはならない制度面の障壁があることを意味している。つまり、日本のスーパーコンピュータを巡る「見えざる壁」が、さまざまな部門の研究者の欲求を少数の高性能スーパーコンピュータ導入でかわしているともいえる。この図式はいまや一般の企業でもかなり顕在化したエンドユーザーと情報システム部門の対立構図とほとんど同じだ。

 では、この状態は日本全体の科学技術計算の世界にメリットがあるのだろうか。僕は、京は予算の無駄遣いとはいわないが、その恩恵を授かる研究者は少数に限られるのではないか、その結果、多くの研究者は高性能スーパーコンピュータの利用を諦めてしまう結果になりかねないと危惧する。

 それこそが、日本の「ものづくり」の本当の危機なのだ。そのことを十分認識して、京の次世代機の企画開発に取り組んでもらいたい。

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