ITは進化し続ける、人間はどう進化できるか――NEC・新野社長:特集「Connect 2018」
「共創」によって、企業のデジタル変革を進めるNEC。全てのものがつながり、AIの普及によって「進化し続けるIT」が当たり前になりつつある今、「人間が進化できるか」が今後の課題になると新野社長は考える。
――2017年を振り返ってみて、どんな1年でしたか?
新野社長: 2016年ぐらいから進み始めたデジタル化の波が、いろいろなところで本格的に動き出してきたことを感じた1年でした。
今はいい製品を単体で売るのではなく、いろんなものを使って、どう価値を生み出せるかという方向にビジネスが変わってきています。今年は社内でも働き方改革など、さまざまな実証実験を行いました。NECグループには約10万人の社員がいて、工場もたくさんある。壮大な実験場になれるんです。そこでたまった知見やノウハウをお客さまに提供することで、その価値はさらに磨かれる。そう考えれば、社内を使わない手はないですよ。
しかし一方で、このトレンドの変化に追従しきれていない部分もあると考えています。いろいろなお客さまと一緒に実証実験を行っていますが、それはまだ1つ1つやっているような状態で、その価値を集約してグローバルに通用するような、大きくスケールするサービスとして展開しきれていません。
デジタルトランスフォーメーションに必要なアセットを持ち、進めているにもかかわらず、それがわれわれのビジネスの成長に十分に直結できていないというのは、私自身、反省しているポイントです。今まさに新たな中期経営計画を検討しているところですが、ビジネスの成長も含め、どうすればそれを実行できるのかという点を、徹底的に落とし込んでいく必要があると考えています。
――それでは、2018年の展望を教えてください。
新野社長: これまで生み出してきた価値が、実証されて次々と広がっていくのだと思います。今のところ、私たちが実証実験をする際は、お客さまのデータを使って価値を出しています。しかし、それが食料の廃棄問題といった大きな社会問題を解決しようと思えば、製造から小売までのサプライチェーンでデータを全て連携させなければいけません。1つ1つのデータがあってもダメで、それを全て統合したものが必要になる。そういう世界がこれから間違いなく来るでしょう。
医療分野も、全てのカルテと薬と検査の情報が使えるならば、もしかすると国全体の医療費が今までの半分で済むかもしれない。今は規制の影響もあって実現できませんが、日本の財政が厳しくなれば、人工知能などを使って予防医療に力を入れるなど、全体を最適化せざるを得なくなる。今は日本も規制緩和が進んでいますし、NECとしては、そのときに日本ですぐ展開できるよう、セーフティ領域などにおいて、シンガポールで最先端の実証実験を含めた研究を進めています。
昨年行われたUEFAチャンピオンズリーグの決勝戦では、NECの顔認証を使った防犯システムが使われました。カメラに映った人の顔を認識して、監視リストに登録された要注意人物と照合する。当然プライバシーのリスクもありますが、これでより安全が守れるのであれば、認めてくれる人も多いはずです。
日本は2020年の東京オリンピック・パラリンピック競技大会に向けて、国を挙げて安全であることを示していく必要があると思いますが、今の状態で本当にそれができるのか。予防に対して、もっとITを使える環境を作らなければいけないと考えています。
――今後、NECはどのような企業と組んでいきたいですか?
新野社長: いろいろな企業と組めればいいと思っていますが、いいデータをしっかりと提供してくれるところがいいですね。データは競争力の源泉でもあるので、提供してもらうのはとても難しいことです。だから、そこはわれわれを信用してもらって、持っているいいデータをたくさん出してもらい、一緒に新しい価値を創造していく。そんなパートナーシップを組むことで、われわれNECの良さも出てくると思うんです。
世の中のいろいろな事象をデジタル化し、それを分析して、少し先の未来を予知して、対処するといったときには、もちろんAIの技術も必要ですが、コンピュータの技術も必要ですし、それらをつなげるネットワークの技術もセキュリティの技術も必要です。こういうものが組み合わさって、初めて価値が生まれる。こうした技術を全て持っているのがNECの強みだと考えていますし、われわれが一番やらなくてはいけない領域だと思っています。
――2018年、NECはITで何とつながりますか?
新野社長: 今、お話ししたことのさらに上位のレイヤーで考えれば、これからもっといろいろな企業がつながりますよ。
モバイルにしても何にしても、全てがネットワークでつながっていく。そしてサービスが全て均等に受けられる世界というのはどんどん進展していくでしょう。デバイス1つあれば、何でもできてしまうという世界が近づいてきているわけです。例えば、マイナンバ−カード1つあれば、他のカードは何もいらない――という状態は、理屈だけで言えば、今の技術でできないこともありません。
既に電子政府が進んでいるエストニアでは、自分のID1つで全てのことが完結できるようになりつつあります。もちろん、本当にそれがいいことなのかという議論はあると思いますが、そういう世界は必ず来るでしょう。それが「つながる」ということなのだと思います。
今後も技術は発展していくと思いますが、今の技術でできることもたくさんあるので、何かにチャレンジしてみることが大切です。特にAIの世界は、1度システムを作って終わりというわけではなく、やり続けることで、どんどん進化していくというのが、今までのシステムと大きく異なる点です。早くやればやるほど、いいデータがどんどん集まってきて、それがまた新たな価値につながっていくわけです。
――「進化するシステム」が当たり前になれば、それを使う人間のマインドや資質の重要性が高まるように感じます。
新野社長: そうですね。今人間がやっている仕事の半分から8割くらいは、ITで代替されるでしょう。その中で、本当に人間は何をするのか。社会の中でITを活用していく以上、AIもIoTも人間が幸せに生きていくための道具でなくてはならない。
ITの行きつく先を考えるとき、私たちはどんな状態になっていたいか、何が幸せなのかということを考えなければいけないと思うんですよ。NECでは有識者を集めて、技術発展を踏まえながら、実現すべき未来像と解決すべき課題、そして、その解決方法を考える「未来創造会議」という活動を行っています。
技術というのは究極、黙っていても進化していくものですが、人間は黙っていたら進化しません。私たち自身が幸せになるために、ITの進化に合わせて人間も、意識的に変わっていかなくてはならない。日本では人口減少が叫ばれていますが、世界に目を向ければ、人口は増え続けています。単純労働者の労働がITによってなくなったときに、彼らは何をするのか。これは人類全体の大きな課題になるでしょうね。
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