日本酒造りにディープラーニング 岩手の銘酒「南部美人」の挑戦:杜氏の経験や勘をデータ化(1/2 ページ)
人工知能を活用した酒造り。岩手県にある「南部美人」は、そんな“おいしい”取り組みに挑戦している。5代目蔵元がその背景と狙いを語った。
属人化した熟練のワザを、何とかITを使って次世代に継承できないか――。高齢化が進む日本では、製造業を中心に喫緊の課題になりつつあるが、最近では、日本酒の世界でも技術継承を目指したIT活用が進んでいる。岩手にある「南部美人」も、そんな取り組みに挑む酒蔵の1つだ。
日本酒では、杜氏(とうじ)と呼ばれる責任者が酒造りの工程を監督するのが一般的だが、各工程における判断の多くが、勘と膨大な経験に支えられた“職人芸”の域に達しており、属人化が進んでいる。そのため、杜氏が辞めたり、倒れたりすると、そのノウハウは消えてしまう。南部美人5代目蔵元の久慈浩介さんは、その現状についてこう語る。
「確かに酒造りにおける“教科書”のようなものは存在しますが、それは50年から70年前における常識で、現代においてはあまり通用しません。だからこそ勘と経験に頼らざるを得ない部分がありました。われわれとしては、酒造りで取れたデータを会社(蔵)の財産にしたいと考えています」(久慈さん)
酒造りに必要な人間の「目」をAIに
最近ではデータ収集を進め、あえて杜氏を置かずに酒造りを進める「獺祭(だっさい)」のような例もあるが、南部美人では人工知能(AI)を使い、人間をサポートするというアプローチでデータを活用しようと考えているという。
「日本酒造りを全てAIに任せるのは、現時点では不可能でしょう。工程の多くが人間の鼻と舌を使うものであり、それに該当するセンサーがないためです。しかし、その中でも1カ所だけAIが使えそうな部分がありました。人間の目を使う“浸漬”と呼ばれる工程です」(久慈さん)
浸漬というのは、酒米を洗った後に水に浸す作業だ。水に浸す時間の長短で、こうじ菌の繁殖度や酒米の溶けやすさが変化する。杜氏は酒米の種類や精米歩合、気温といった複数の条件を総合して、吸水時間を決めるという。久慈さんは「吸水率が1%でも変わると、酒の仕上がりは大きく異なる。ここで失敗するとリカバリーができない」と話す。
仕上がりへの影響が大きい一方で、一度米を水に浸してしまえば、もう元には戻せない。文字通り“一発勝負”の世界であり、杜氏の判断が全てだともいえるだろう。久慈さんが目指すのは、画像解析を基にした機械学習によって「AIを人間の目にする」ことだ。
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