アステルのPHS網は何に使われたのか?──鷹山

“無線LANを使ったIP電話を作る”,という鷹山の構想のなかで,実現のキーとなったのは実はPHSだった。各種ネットワークのメリットを生かした鷹山のサービスの中で,評価されたPHSの意外なメリットとは?

【国内記事】 2002年4月2日更新

 東京電話アステルのPHS事業を買収すると共に,ページャー(いわゆるポケベル),無線LAN,PHS,ADSLのネットワークを組み合わせた「総合モバイルインターネットサービス」を発表した鷹山(4月2日の記事参照)。

 ページャーの「020」番号を使い,無線LANなどでIP電話を実現しよう──という戦略の中で,アステルのPHSは何に生かされるのだろうか。


鷹山の高取直社長

各ネットワークの長所を生かした組み合わせ

 鷹山のシステムは,各ネットワークの長所をうまく生かすという点に特徴がある。

 まず無線LANは,コストが安く,次世代通信の標準であるIPベースであるというメリットがある。鷹山は都内に無線LANのアクセスポイント「BitStand」を4000個設置する計画だが,「わずかに12億円。(FOMAなど)従来の設備投資に比べて1万分の1で済む」(高取氏)

 無線LANを主役におけば「日本全国やっても300億円以下でできてしまう」(高取氏)と,1兆円以上かかるといわれる第3世代携帯電話に対してコストメリットが大きい。

 さらに,「今の携帯電話システムは土管(ネットワークシステム)に合わせてデータを変えているが,流れるものに合わせて土管を設計するべき」(高取氏)と,世界の潮流であるIPをベースにしたネットワークの強みを語る。

 ちなみにBitStandではIEEE802.11bを利用するが,通信速度は2Mbps。高取氏は,到達距離や干渉への強さを挙げ,敢えて2Mbpsを選択したと語る。もちろん「2Mbpsじゃ使えない,と言われたら,どうせ光ファイルバーにつながっているのだから,12M,30M,100Mbpsを考えていく」(高取氏)

見直されるページャー

 しかし無線LANだけでは,IP電話の実現には課題が多い。電話番号の割り当てや呼び出しの問題などだ。鷹山では,ページャーのネットワークを活用することでこれを解決する。

 「日本全国で利用できる電波網で,空いているものの1つに280MHz帯を使うページャーがある。素晴らしい電波だ」(高取氏)

 ページャーには「020」から始まる番号が付与されており,IP電話に付き物の電話番号の問題も,ページャーの番号を利用することで解決できる。「今のIP電話は警察や消防にかけれられないが,こうした問題も解決できる」と高取氏。

 ページャーが使う280MHz帯は,データ通信速度が低い代わりに,電波到達力が高いのが特徴の1つ。「地下室でも,普通の人が行くようなところなら電波が入る」(高取氏)

 さらに周波数が低いため,電池の持ちもいい。「ボタン電池1つで1カ月から2カ月もつ。充電方式にすれば,充電を忘れるくらい長く利用できる」(高取氏)

 現在の第3世代携帯電話でも,連続待受時間が極端に短いのが課題の1つ(2月8日の記事参照)。呼び出しにページャーのネットワークを利用することで,高速だが消費電力の大きな通信方式(無線LANなど)と,低速だが低消費電力の通信方式(ページャー)の利点を組み合わせた。

 ページャーが利用する「POCSAG通信方式」は,世界中で利用できる方式であり,「世界中どこにいてもメールだけは届くという状況になるのではないか」と高取氏はページャーの復活を予言する。

3つのメリットを持つPHS

 もう1つ,今回のネットワークでなくてはならなかったのがPHS網だ。高取氏は「PHSに一番の魅力を感じたのは80メートルおきに基地局があることだ」と説明する。

 無線LANを使ってIP電話を実現するには「面をいかに制圧するか」(高取氏)が重要な点。高取氏はPHSの魅力は3つあるという。

 1つは無線LANアクセスポイントの設置権だ。盛り上がる無線LANのホットスポットだが,今からアクセスポイントの設置を個別に交渉していくのは難しい。PHSの基地局に無線LANアクセスポイントを併設していけば,簡単に無線LANで面をカバーできる。

 2つ目はラックだ。アステルの基地局は電柱の上に設置してあるが,「802.11bのアクセスポイントは,2メートルの高さに設置できれば電波が80メートルは飛ぶ」(高取氏)。PHSと無線LANの電波到達距離が似通っているのも,この置き換えに有利に働く。

 3つ目は電力供給ライン。アクセスポイントに新たに電気を引いてメーターを設置して……というのは大変な手間。既存のPHS基地局を利用すれば,これらの課題がすべて解決する。

 既存のアステルユーザーにはそのままサービスを継続する鷹山だが,「PHSのインフラを高度化するつもりはない。現行の設備のままコケの生えるまで頑張ってほしい」(高取氏)という。

 PHSという技術そのものではなく,「PHSが歴史的に築いてきたロケーションという資産」(高取氏)を買い取った,というのが今回の買収の真意のようだ。

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[斎藤健二,ITmedia]

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