Mobile:NEWS 2002年10月21日 07:29 PM 更新

発売前に先行公開〜「シンプリー・パーム」プロローグ(1/2)


 10月28日にソフトバンク パブリッシングから発売されるPalmのインサイドストーリー、「シンプリー・パーム ―― 理想のPDAを目指して」。発売に先駆けて、本書のプロローグをご紹介しよう。


プロローグ

「そうか――そうだったのか!」

 ジェフ・ホーキンスは、息もできないほど興奮して机から離れると、書斎として使っている小さな部屋のなかを歩き回りだした。

 半年前の1985年12月、ホーキンスはごく典型的なシリコン・バレーの技術屋の一人だった。ひょろっとした長身、社交性を身につけたはにかみ屋の若者という印象で愛想のいいホーキンスには、妻があり、コーネル大の電気工学の学位があり、ハイテク企業での将来を約束された仕事があった。しかし、それも彼が突拍子もない夢、人間の脳の謎を解くという夢を追求するために仕事を捨てるまでのことだった。ホーキンスは、何年にもわたり脳の働きについて興味を持っていたが、人間の知性の謎を解読し、どうやって脳が世界を理解するのかを勉強したくてたまらなくなっていた。時間の許す限り、手に入る本や雑誌を片っ端から読んだが、知りたいことのほんの一部も見つけることはできなかった。

 集中するにはもっと時間が必要だ。9時から5時まで働いていては作りだせないような時間、それに良い図書館も。結局、安定した仕事と収入を捨てて、ホーキンスはカリフォルニア大バークレー校の大学院で生理物理学を専攻することにした。

 妻のジャネットは、この決断について悩んでいた。ジェフの父親、ロバートは、やたらと作品を作りたがる発明家で、夢を追うことに人生を費やした。ロバートがエンジニアの職を辞し、発明にかかりきりになると、一家は教師をしていたジェフの母親の給料でやりくりせざるを得なかった。

 ロバート・ホーキンスの発明は商業的にはほとんど成功しなかったが、ジェフの心に忘れ難い印象を残した。ロバートの発明品でささやかながら名声をもたらしたのは、イルカのコミュニケーション解読機と一連の屋根付きボートくらいだった。

 その後、ロバートは3人の息子の助けを借り、何年もかけて、格納式の八本の足のついた16面体の巨大なボートを建造した。地上で見ると、それは巨大で不恰好な蜘蛛のようだった。直径15.5メートル、重さは50トン。正式には「シースペース」という名だったが、バブルモンスターという綽名がつけられたそのボートは、当時世界最大のエアクッション式船舶であり、真空掃除機のファンの作用で水に浮かぶ、たぶん唯一のものだった。最終的に、ホーキンス一家はそのボートを巡業オーケストラに売却し、その指揮者は夏の間、ホーキンス兄弟を航海士として雇った。

 少年時代のジェフ・ホーキンスは、父ロバートの生き方から強烈な影響を受けた。十代の頃に読んだ数学的パズルの本は、他の人たちには難しかったが、ホーキンスには解くことができた。今、彼は数学の問題を解くように、精神の問題を解き明かすことに生きがいを感じていた。と同時に、大人になるまでの間に、父親の面の皮の厚さも持ちあわせるようになっていた。他人が自分の考えをどう思おうとたいして気に留めなかったし、世間の常識に逆らって行動することをものともしなかった。

 ホーキンスは、大学院の授業の合間は、ほとんど図書館にこもっていた。「それは大がかりなパズルのようだった。僕は科学者たちの論文をしらみつぶしに読み、誰が面白い研究をしているかを知ると、その人物は他にどんな研究をしているか、また、他の人間がどんなふうに評価しているかを調べた。そして、その何もかもをひとつにまとめようとしていた。何千という手がかりのある殺人物のミステリーを解こうとしているようだった」彼はそう言う。

 結局、多くの人々が脳の研究をしたが、なによりも大切な、脳の働きを明らかにした人は誰もいないということがわかった。人間の脳がどのようにして理解し、学び、記憶するのか、誰も説明できなかった。

[ITmedia]

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