Mobile:NEWS 2003年1月9日 11:03 PM 更新

「EV-DOで完全定額制は可能」とクアルコム

3G端末に順調に推移するKDDIは、さらに高速なデータ通信方式「CDMA2000 1x EV-DO」の試験サービスを今年4月から開始する。しかし「EV-DOでも完全定額料金は非現実的」というのがKDDIの最近のコメント。クアルコムは「技術的には定額制は可能」と言うが……

 KDDIは今年4月からCDMA2000 1x EV-DOの試験サービスを開始。秋には800MHz帯を使って本サービスを行う予定だ(2002年7月の記事参照)。CDMA2000 1x EV-DO(EV-DO)は米Qualcommが開発したデータ専用の高速通信方式。最大2.4Mbpsの通信速度を持つといわれており、特にインターネットとの相性がいい。

 EV-DOへの技術的な期待は大きいが、気になるのはその価格──料金体系だ。KDDIはこれまで「定額ライクな料金体系」を目指すと話していたが、このところ「完全定額は難しい」と言うことが多くなってきている。

技術的には完全定額が可能──クアルコム

 しかし、クアルコムジャパン事業戦略部長の山田純氏は「自信を持って、定額制が実現できる無線通信技術だと思っている」と言い切る。

 EV-DOで定額制が可能な理由はシンプルだ。従来のネットワークでは、ユーザー数やトラフィックが増加すると設備を増強する必要があった。EV-DOでは、トラフィックが増えても品質(通信速度)低下させることで対応できる。特に音声回線の場合、夜10時から11時の間だけでも「つながらない」となったら基地局を増設しなくてはならなかった。EV-DOならばその間パフォーマンスが落ちるだけで済む

 通信速度の高速性が強調されることが多いが、この柔軟性の高さがEV-DOの特徴だ。

 「基本的には垂れ流し方式のインフラなので、いったんネットワークを作ってしまうと、その維持コストは、ユーザーや、トラフィックの多い少ないに関係なく一定。これが従来の電話の交換機のインフラと異なる部分」だと、山田氏は説明する。

 無線区間から後ろも、IPルータを介してIP専用線につながりインターネットに出ていくため、インターネット接続と同じくコストは一定と思われる。

 いったんインフラを作ってしまえばコストは一定。ならば、利用量に応じて課金する従量制は合理的ではない。これはADSLなど、インターネット接続で使われているモデルと同じだとも言える。

 月額料金が高ければユーザーが減って結果的に品質は良くなる。安ければ増えて悪くなる。インターネットの世界ではよくある話だ。「素直に、今のインターネットの延長線上のものを素直に作れば、定額はそんなに難しい話じゃない」と、クアルコムジャパンでEV-DOを担当する前田修作ビジネス開発担当部長は話す。

つなぎっぱなしでも公平さを保つEV-DO

 完全定額料金の無線通信の場合、気になるのは“つなぎっぱなしで利用するユーザーが出るのではないか”ということだ。

 「複数のユーザーがいると、時分割、順番待ち方式でサービスされる」と山田氏。順番付には工夫がされていて、過去(約1.6秒単位)にたくさんサービスを受けたユーザーの順番は下げられ、あまりサービスを受けていないユーザーの順番は上げられる。ユーザー数に応じて通信速度を可変させることで、電波状況が異なっても公平性が維持されるようになっているという。これが、EV-DOのスケジューリングという仕組みだ(2001年7月の記事参照)。

 基地局1つ当たりが扱える通信容量も、他方式に比べて高い。「1セクター(基地局)あたりのスループットは、1.25MHzの帯域幅でだいたい1Mbps。無線LANでは20MHz幅くらいの帯域を使って10Mbps程度のスピードだから、MHz単位ではEV-DOのほうが効率がいい」(山田氏)。

 EV-DOは最大2.4Mbpsといわれるが、これは電波状況にもよる。「通しやすいところでは最大2.4Mbps出るが、通りにくいところでは速度を落として通信を確立させる」(前田氏)。だいたい平均すると1Mbpsになり、これをエリア内のユーザーでシェアする。

 データ通信の場合、実際にパケットのやり取りが行われる時間は10%程度といわれており、ここから計算すると1つの基地局の下で300人が利用してもPHS並の速度が出る。「300人もぶら下がるのはめったにないことで、十分なキャパシティがあると思っている」(山田氏)。

 ちなみに音声通話の場合、1セクター当たり同時通話できるのは20人程度だという。現在、KDDIがデータ通信に利用しているCDMA2000 1xに比べても、効率の良さは桁違いだ。「1xと比べると、セクタースループットが3分の1。スケジューリングも違う。1xよりEV-DOのほうが30倍くらい効率がよくなる」(山田氏)。

KDDIが完全定額に踏み切れないのは、EV-DO以外の影響?

 KDDIでは、「料金が高額になってもいいのなら定額も可能かもしれないが、現実的ではない」(広報部)とEV-DOの価格体系について説明している。

 しかし、これについても「サービスの品質と収入を月額料金でコントロールするのが合理的だ」と山田氏。つまり低価格な定額にすればユーザー数が増え速度が落ちるし、高額にすればユーザー数が減って速度が上がる。そのバランスで調整すべきだということだ。

 KDDIが定額制に踏み切れないのは、EV-DO技術以外のところに原因があるのではないかとも考えられる。

 例えば、音声通話のARPU(ユーザー1人当たりの料金)は世界的に減少が続いており、KDDIでも年々下がっている。音声ARPUの減少をデータ通信需要でカバーするというのが、通信キャリア共通のプランだ。しかしEV-DOと共に定額制を導入してしまうと、ユーザー1人当たりのデータARPUの伸びも止まってしまう。

 「今のキャリアさんはレガシーなネットワークを抱えながらやっているので、(定額制は)そのあたりのコスト構造にもよるはず」と前田氏。

 技術的には「PHSで定額制が提供できているのに、EV-DOで提供できないわけがない」(山田氏)が、KDDIはまだ完全定額に踏み込めないでいる。



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▼ KDDI

[斎藤健二, ITmedia]

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