Mobile:NEWS 2003年9月16日 07:15 PM 更新

リッジレーサー、携帯版開発の舞台裏

もはや初期プレイステーションのゲームですら遊べるほど進化した携帯電話。さまざまなタイトルがリリースされる中、注目を集めたのがJ-SH53向けに登場したリッジレーサーだ。膨大な量の情報を256Kに収めるために、どんな工夫があったのか。

 携帯電話の機能進化の早さには目を見張るものがある。ケータイゲームも初期はファミリーコンピュータ級のゲームが話題になったが、今や初代プレイステーション級のゲームまでもが出てくるようになった。

 中でも注目を集めたのが、J-SH53の256Kアプリとして登場したナムコのリッジレーサー。初の本格派3Dレースゲームとしてゲームセンターに登場、その後プレイステーションに移植された人気ゲームだ。

 プレイステーションと携帯電話では、画面の大きさもボタン配置も異なる上、データ量も256Kサイズに抑えなければならない。さまざまな制限がある中、どのような工夫を経て携帯電話版リッジレーサーが生まれたのだろう。

 ナムコのWWC事業グループ コンテンツ開発チームの石井岳ディレクターと、リッジレーサーの開発を担当したインタラクティブブレインズの武田政樹CEOに話を聞いた。


ナムコのWWC事業グループ コンテンツ開発チームの石井岳ディレクター(左)と、インタラクティブブレインズの武田政樹CEO(右)

当初は「256Kに入りきらないのでは」との懸念も

 ナムコと開発会社のインタラクティブブレインズでは、携帯電話で3D表現が可能になるのが見え始めた2002年の8月からPCのJava「Java 2 Standard Edition」で、携帯電話版リッジレーサーの試作を始めた。この時点では、プレイステーション版では浮動小数点だった部分を固定小数点に置き換えるなど、携帯版への移植が決まった時に移植しやすい形にもっていこうとしていたという。

 ナムコの3Dゲームといえばほかにも鉄拳などが有名だが、開発陣の間では、「やっぱり最初にやるのはリッジレーサーだよね」という暗黙の了解があったそうだ。

 また基本的には左右ボタンとワンボタンという操作でできるため、フライトシミュレーションや格闘ゲームに比べて、「3Dゲームの中では操作面でも一番シンプルだった」(石井氏)というもの移植理由の一つだ。

問題となったのは、容量とスピード、API、納期

 携帯電話への移植が始まってから持ち上がった問題は、容量とスピード。「容量は大幅にオーバーしていて、スピードも足りない。グラフィックもがたがただった」(武田氏)。例えばスタート直後の高速道路のシーンが壊れたように表示されたり、走行時に道が迫ってくるようなシーンではテクスチャに大きなゆがみが出てしまって道がどこかがまったくわからないほどだったという。

 ポリゴンのゆがみは、プレイステーションならポリゴンを細かく割って目立たないようにできたが「携帯版には現状、こうした目的で使えるAPIがなく、その改善もスケジュール面から無理そうだった」。

 またエンジン音やスキール音についても問題が持ち上がった。「これらの音は、元になる音を用意して、アクセルの踏み込み具合などに応じて直接ハードウェアをいじって音程を変える。携帯電話はそれが出せない」(石井氏)。

 当初4〜5カ月とられていた開発スケジュールが繰り上げられたこともあり、一時は「楕円のコース一つだけで車も1種類というミニ版を出すことも検討した」(石井氏・武田氏)そうだ。

 これらの問題は、端末メーカーの協力や、データを減らすための「ドット絵職人」の活躍、開発を担当した武田氏がリッジレーサーのアーケード版からかかわっており、開発過程で得てきたノウハウを生かせたことなどで解決し、予定した発売に間に合わせた。

 「いわゆる『ドット絵職人』の方にポリゴンのゆがみや車のデカール部分のドットを最適に置きなおしてもらうことで容量を減らした。往年のゲームのノウハウがこんな所でも生きるとは思わなかった」(武田氏)。10Kぐらい一気に容量が減ったため、車種もPS版で13車種のところを携帯版で9車種入ったという。

 涙をのんだのは、最適なスピードとエンジン音の部分。スピードは「最低でも秒間10コマ」という目標には少し及ばなかったと言い、スキール音はゲーム音楽とのトレードオフで今回は見送られた。とはいえスキール音は「音の代わりに携帯電話のバイブ機能を使っているのでユーザには車の挙動がきちんとわかるように作ってある」(武田氏)と、携帯ならではの部分を生かしている。

 結果、携帯電話版のリッジレーサーは、プレイステーション版の全コースを搭載、ドリフトやスピンは完全にプレイステーション版と同じ挙動で動かせる9車種の車で遊べるものに仕上がったという。操作面では携帯電話のキー操作でも簡単に遊べる操作モードが1つ追加されている。

大容量アプリが抱える問題

 リッジレーサーは従量課金で500円のアプリだが、データをダウンロードするのに通信料が約600円かかる。この部分が細かい機能の改良を行いにくくしている面があると武田氏は話す。

 50Kバイトぐらいのアプリなら、この部分が細かい機能の改良を行ったバージョンを配信してもユーザーの負担にならないが、大容量アプリでは、多額の通信料金をユーザーに強いることになるため、そうしたアフターケアがやりにくい。「細かいバージョンアップだけでなく、プラスアルファの機能を付けないと割に合わなくなってしまう。少しずつ機能を向上させられるのが携帯アプリのいいところなのにそれが生かせないのは残念」。

 これはアプリの大容量化に伴う課金体系の限界を示すもの。ゲームメーカーが新しい携帯ならではのコンテンツの開発を可能にしていくためにも、通信キャリアの対応に期待したいところのようだ。

気になるリッジレーサーの次は

 リッジレーサーは、課金面での難しさを抱えながらも、「多くのユーザーに受け入れられた」(石井氏・武田氏)と成功を収めた。当然、次の3Dゲームの移植に向けて動いている。「次のタイトルとして、ちょっとユーザーが意外に思うかもしれないものを準備している」(武田氏)。



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関連リンク
▼ ナムコ
▼ インタラクティブブレインズ
▼ J-フォン

[後藤祥子, ITmedia]

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