ドコモが発売した「AQUOS ZETA SH-01G」は、カメラがひときわ高画質であることをリコーが認める“GR certified”認定スマホ。モバイル向けカメラで実績あるシャープはなぜ、リコーの協力を仰いだのか? 両社の開発陣に聞いた。
NTTドコモが発売した「AQUOS ZETA SH-01G」は、省電力に優れたIGZO液晶、大画面なのに持ちやすい三辺狭額縁の「EDGEST」スタイル、持っただけでさまざまな操作ができる「グリップマジック」など、シャープの最先端技術を満載したフラッグシップモデルだ。
その一方で、状況を認知してユーザーにタイミングよく話しかけたり情報を表示したりする機能「エモパー」を搭載し、持つ人に愛着を感じさせる情緒的な機能も持っている。カラーバリエーションは4色を用意し、それぞれの背面で異なる触感を採用するなど、デザインにもこだわりを持った端末だ。
さらに、今回はカメラの性能を格段にアップさせた。従来機種から誰でも失敗せずに撮れるカメラとして好評だったが、SH-01Gはカメラの本質を再度追求し、リコー「GRシリーズ」開発メンバーによる画質改善認証プログラム「GR certified」を取得した。
今回はシャープ開発陣に「GR certified」のプログラム担当メンバーを交えて、スマホカメラのさらなる画質向上を目指した背景と「GR certified」取得の狙い、その結果SH-01Gのカメラがいかに進化したのかを聞いた。
――(聞き手、ITmedia) 今回のAQUOS ZETA SH-01Gは、「GR certified」というリコーの認証プログラムを取得しています。「GR certified」については後ほどうかがいますが、その前にどういった経緯でリコーとタッグを組むことになったのでしょうか。
シャープ中田氏 SNSの登場によって、スマートフォンで撮った写真はウェブにアップされ、共有されるようになりました。それだけに、今まで以上に高い画質が求められています。SH-01Gの開発にあたり、まずはカメラ性能の引き上げが懸案となりました。
シャープ大野氏 SH-04Fのときには、誰が撮っても失敗しないようにと、ガイドに合わせるだけで構図のいい写真が撮れる「フレーミングアドバイザー」を始め、さまざまなアシスト機能を入れました。今回はそうした機能をより際立たせるために、ベースとなる画質を極めることを目指しました。
スマホカメラの性能を上げるといっても、サイズの制約上、光学ズームなどの機能は搭載できません。スマホはあくまで単焦点レンズのカメラといえます。であれば、その中で一番いい画質を追求していこうということになりました。そのとき浮かんできたのが、単焦点カメラの頂点に存在している、リコーさんのハイエンドコンパクトカメラ「GR」でした。GRを目標に、そのエッセンスを取り入れられないかと考えました。
シャープ中田氏 そこで、我々の方からリコーさんにコンタクトを取らせていただきましたところ、たまたまリコーさんも同じようなこと(「GR certified」認証プログラム)を考えておられた。そこで、一緒にやってみましょうということで、今回の話がスタートしました。
カメラのGRはセンサーが大きく、スマホとは条件がまったく違うので、同じ画質を目指すことは技術上、難しいことは分かっています。スマホのカメラにとっての最高峰はどうやって実現できるかという点からリコーさんと話し合い、目指すところを大きく2つ決めました。
まずはレンズです。光が入ってくる一番肝心なところなので、ここの性能をしっかり上げようと決めました。もう1つが画像処理です。いかにレンズがよくても、撮った写真を美しく出力できなければユーザーは満足しません。この2つについて、厳しい条件を満たしていくことになりました。
シャープ高橋氏 レンズの性能を評価する指標の1つに、被写体をいかにくっきりと映し出せるかを表す「MTF曲線」があります。レンズの中心部から周辺部まで、均一で高いコントラストと解像力を持っているかを調べたものですね。
もちろんスマホカメラのレンズも、単体(部品)ごとにMTFで性能を判断しています。MTFで比較すると、SH-01GのレンズはSH-04Fから5〜10%ほど性能が上がっています。もともとSH-04Fのレンズもそんなに悪い数値ではないのですが、SH-01Gではレンズ周辺部の写りをさらにアップさせました。
MTFのグラフには4本の曲線がありますが、簡単に説明すると、上の2本でコントラストの善しあし、下の2本で解像感の善しあしを判断します。どの曲線も数値が“1”に近いほど成績が良い。また点線と実線が近いほど、バラ付きのない、安定した画質といえます。SH-01Gのレンズは中心部でほぼ0.9、周辺にいっても0.7という数値です。また全体を通して実線と点線が離れておらず、差がそんなにありません。
―― MTF曲線では周辺部のグラフの落ち込みを気にされるユーザーが多いと思います。こうしてみるとSH-01GのMTFはかなり良くなっていますね。具体的にはどのように改善されたのでしょうか。
シャープ高橋氏 弊社ではレンズを含め、カメラユニットの開発・製造もしています。そのため常にレンズの性能アップをしてきたのですが、今回リコーさんが要求されたレベルは、我々の予想より一段高かった。そのため、設計段階のシミュレーションからすべての行程を見直しました。
―― おそらくリコーにとってもスマホのカメラレンズを評価する機会はこれまでなかったと思うのですが、シャープのレンズについてどう思われましたか?
リコー岩崎氏 このプログラムを開始した時点でシャープさんからレンズの設計データを出してもらいましたが、残念ながらそのままでは認証できないものでした。「どうしますか」と聞いたら「一から設計し直します」とおっしゃったんですね。
リコー大橋氏 スマホのカメラとデジタル一眼レフなどのカメラとの一番の違いは、「絞り」がないということです。一眼レフのレンズは絞って収差を低減することができますが、スマホは絞りがなく常に開放で使い続けなければならない。
開放時の性能が高くないとどうやっても高画質にはならないのですが、これにはレンズを良くしていただくしかなかったわけです。
シャープ中田氏 「分かりました、できました」と、簡単に出せるようなものではなくて(笑)、最初は「これは無理じゃないのか?」というところからの挑戦でした。
シャープ高橋氏 最初は従来カメラの性能と変わらないレベルのものしかできませんでした。レンズを少し厚くしたり、画角を広げて焦点距離を短くしたりして対処しました。今回は焦点距離(35ミリ換算)が29ミリから28ミリになっています。
シャープ中田氏 レンズの厚みを増やすと性能を上げられますが、スマホは厚さに制約があります。現状の厚みのままレンズ性能を上げていかなくてはいけないのが、もう1つの大きな課題でした。
シャープ高橋氏 正直、「GR certified」を取らずに従来と同じレベルで作るならコンマ2ミリはさらに薄くできただろうと思います。
―― レンズの見直しをされたとのことですが、例えばガラスなど材質も変えたりしたのでしょうか。
シャープ高橋氏 ガラスレンズは使っていません。小型化やオートフォーカスを動かすためにもレンズは軽くないと難しいんです。特に今回は光学式手ブレ補正を搭載しているので、レンズを軽くしないとシステム全体が大きくなります。その点も考慮して、樹脂で追求する設計手法をとっています。そこはリコーさんも驚かれたと思います。お互いに「無理ちゃうの?」と思ったところだったのですが(笑)
リコー大橋氏 樹脂レンズは光学的な特性として、設計性能と生産したときの性能にばらつきが出やすい――と思っていました。しかし試作品のMTF測定結果や、実写した解像チャート画像などを確認させていただくと、私が樹脂レンズに持っていた印象よりもずっといいものでした。これにはちょっと驚きました。
―― レンズをガラス製にしたら、もっとよくなるでしょうか。
リコー大橋氏 それがそうとも言えないのです。小型化と高性能化を両立させるために必須の非球面レンズは、ガラスで製作する場合、形状の自由度が限られます。樹脂レンズは射出成形で作りますから、ガラスではできないような形状が可能です。そういう意味で、ガラスだから高画質、樹脂だからダメ、とは言えません。
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提供:シャープ株式会社
アイティメディア営業企画/制作:ITmedia Mobile 編集部/掲載内容有効期限:2014年11月30日