News 2000年11月13日 09:27 PM 更新

Transmetaへの死刑宣告は早すぎる

超低電圧モバイルPentium IIIがマイクロプロセッサフォーラムでデモされたあと,何人もの人がTransmetaは死んだと考えたらしい。しかし,CrusoeとモバイルPentium IIIは,目指す市場が違う。

 1時間半を越えるBill Gates氏の基調講演を聞き終えたとき「しまった。早めに会場を出てシーザースパレスへと移動するべきだった」と後悔した。Gates氏の講演は.NETの目指すところとマイクロソフトの取り組みを示す上で重要なメッセージを含んでいたが,「Forum 2000」(6月23日の記事を参照)以来,同様のプレゼンテーションを何度も聞いている身からすると,インテルから耳打ちされていた別のイベントの方が興味深かったからだ。

 その興味深いイベントとは,別記事でもレポートされている「Mobile Focus」である。この中でIBMのマシンに搭載した超低電圧モバイルPentium III/500-300MHz(SpeedStepテクノロジにより,最高動作クロックは500MHz,低消費電力モード時には300MHz)が展示されるとの情報を仕入れていたが,その時間はGates氏の講演と重なっていたのだ。

 まぁいい。その代わり,Whistlerが動作しているペンコンピュータの「Tablet PC」のデモを見ることができた。Tablet PCの登場はまだ先の事になりそうだが,多くの人が思っているように,低消費電力x86プロセッサの主戦場はPCベースの技術をアプライアンス化した製品になるだろう。その姿を一足先に拝むのも悪くはない話だった。

超低電圧モバイルPentium IIIでCrusoeは死んだか

 超低電圧モバイルPentium IIIがマイクロプロセッサフォーラムでデモされたあと,何人もの人がTransmetaは死んだと考えたようだ。インテルはこの製品に大きな自信を持っており,人づてには「日本でCrusoeの旗振りをやっている本田さんにもプッシュしたい」と聞いた。大変光栄なことだ。

 超低電圧モバイルPentium IIIが登場すれば,消費電力あたりのパワーの面でCrusoeを上回る可能性がある。しかし私は,これでCrusoeが死んだとは思っていない。

 断っておくが,私はインテルの低消費電力化に関する半導体技術は世界一だと思っている。インテルのチップほど低い電圧で高クロック動作が可能なものは,私の知識の中には存在しない。その上,電圧を動的に変化させることで熱設計電力を下げる技術など,ユニークかつ有効な技術がモバイルPentium IIIには詰め込まれている。

 しかし,モバイルPentium IIIの設計が,消費電力を下げるのにあまり向いていないというのも,一方の事実である。トランジスタ数の多いモバイルPentium IIIは,インテルの世界一の半導体技術をもってして(平たく言えば,製造面でがんばって)消費電力を下げているわけだ。

 現在,この分野のプロセッサは,サブノートPCにおいて注目されているが,これは一時的なものだろう。「VAIO C1」や「BIBLO LOOX」に代表されるミニノートPCにはCrusoeが有利な面もあるが,B5クラスはモバイルPentium IIIの方が優れる部分もある。

 その違いは,熱設計電力の上限を設定しているか否かだ。インテルはこれまでも,消費電力の低いモバイルプロセッサを何度か投入しているが,いずれも単発に終わっている。PCベンダーにしてみれば,一度設計したフォームファクタは,なるべく長く使いたいと思うはずだが,熱設計電力の上限を設定した長期的なプロセッサの計画がなければ,いくら低消費電力でもコミットすることが難しい。

 B5サブノートPC程度であれば,Pentium IIIの熱設計電力でもさほど大きな問題にはならない。これがB5サブノートでCrusoeが不利な理由だ。

 インテルは0.13ミクロンプロセスのモバイルPentium III以降,熱設計電力の上限を設定した低電圧版プロセッサのロードマップを示しているという噂もある。これが本当ならば,ミニノートPCでの立場も危ういかもしれない。火曜日にインテルのモバイルプロセッサ担当役員とのミーティングも設定されているため,詳しくはそちらで報告することにしたい。

アプライアンス化されたPCが主戦場に

 しかし,Transmetaはそれほど焦ってはいないようだ。今,シリコンバレーで最も社員数が増加しているといわれる同社は,もう誰も名を知らぬベンチャーではない。既に社員数は400人を大きく上回っているほどだ。

 彼らの狙うのは冷却ファンレスで動作する低価格なPCベースのネットアプライアンスである。別記事にも書いてあるように,ゲートウェイとAOLが共同開発するCrusoe搭載アプライアンスも開発が完了に近付いているようだ。

 この分野では熱設計電力の低さと,チップの統合度が問われる。熱設計電力の低さは,Gates氏がデモを行ったTablet PCのような小型フォームファクタはもちろん,リビングに置くような小型のデスクトップタイプでも有効だろう。冷却ファンを完全に排除することができるからだ。

 またチップ点数もできる限り減らしたい。Crusoeは,PCチップセットのノースブリッジに相当する機能を内蔵しているが,来年の後半以降に投入が予定されているチップには,サウスブリッジに相当する部分を含めたものも登場する。

 こうした統合度の高いチップで差別化を行える製品の場合は,プロセッサコアの回路規模が段違いに小さいCrusoeのメリットを活かすことができる。モバイルPentium IIIとCrusoeを直接比較するのは意味がない。両者は複雑さも目的も,全く異なる設計がなされた製品なのだ。

 おそらくインテルは,低消費電力プロセッサをアプライアンス化されたPCにも猛烈に売り込むだろう。インテルが低消費電力に目を向け始めたきっかけはTransmetaだろうが,理由はアプライアンス市場への売り込みだと考えられる。

 Transmetaが低消費電力にコンピートしたプロセッサベンダーとして,その真価が問われるのはこの時だ。主戦場がそこに移るまで,Crusoeに死の宣告を行うのは早すぎる。

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[本田雅一, ITmedia]

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