News 2000年12月21日 05:56 PM 更新

PHSに本当に未来はあるのか?(1)

低料金で高音質,そして当初から高速なデータ通信を見据えていたPHS。競って3グループが同時に参入するなど,その未来はバラ色に見えた。しかし現在は……。

 サービス開始から約5年が経過した現在,PHS陣営はバラ色の未来どころか,その存続すら危うい状況にある。現実に,NTTパーソナルがNTTドコモに吸収され,アステルもまた経営母体に当たる地域系電話会社に吸収されつつある。唯一,1998年度に単年度黒字化したDDIポケットだけが全国1社体制に移行し,昨年の新ブランド「H"」の投入と共にその存在をアピールしているが,それも決して楽な状況ではない。

 わずか半年後の2001年5月には,携帯電話最大手であるNTTドコモが次世代携帯電話規格「IMT-2000」(DS-CDMA)でのサービス「FOMA」を開始する。IMT-2000では,高品質な通話に加え,サービス開始時から下り384Kbps,上り64Kbps(それぞれ最大値)の高速なパケット通信サービスも提供する。コスト面の問題はともかく,PHSは現行の携帯電話(PDC方式)に対する高音質,高速データ通信というアドバンテージを確実に奪われるのだ。

 PHSは,なぜバラ色の未来を失ったのだろうか。そしてPHSに本当に未来はあるのだろうか?

「使えない」レッテルを貼られたPHS

 PHSの総契約件数は,1997年夏の約700万件をピークに,1999年秋には約550万件まで落ち込んだ。低料金化を進める携帯電話に,PHSは主なターゲットであった若年層や主婦層のユーザーまで奪われた形だ。もちろん,実際にPHSを利用して不満を感じ,携帯電話に乗り換えたユーザーも多いだろう。しかし,PHSが携帯電話に契約者を奪われた理由は「使えない」というレッテルではないだろうか。

 PHSに張られたレッテルは「通話エリアは狭いし,一見安そうに見えるけど携帯電話への通話料は高いし,車や電車の中では使えない」というものだ。これは,かつて事実であったこともあるが,現状とは合わない部分も多い。

 通話エリアに関しては,今もって携帯電話に比べて確かに狭い。しかし,都市部を中心に大幅なエリア拡大が済んでおり,携帯電話のそれに遜色ないレベルにまで到達している。ただ,PHSの契約者数が減少傾向に転じた1997年当時,もっとも通話エリアの広かったDDIポケットでも,人口カバー率は76%(1997年3月現在)でしかなかったのだから,90%以上(当時)のカバー率を誇った携帯電話とは比較にならなかっただろう。しかし皮肉なことに,既にPHSの契約者離れが進行し始めた1998年度あたりまでには,どのPHSキャリアも基地局の大幅な増強を行っており,最大手のDDIポケットでは,全国の人口カバー率が90%に達していた。事実,都市部では携帯電話とほとんど変わらない通話エリアを確保している。問題なのは,PHSの通話エリアが広がっていることが周知されず,今もってPHSは「使えない」と形容されるほど,通話エリアが狭いと思われていることだ。

 かつては事実だった携帯電話への割高な通話料金,高速移動中に使えないというデメリットも,現在は改善されている。携帯電話への通話は,平日の昼間で40円/分程度まで下がり,これは基本料金を低く抑えた携帯電話の料金プランとほとんど変わらないか,逆に安いくらいだ。さらに,高速移動時の問題も,端末と固定網の改善でほぼ解消された。現在では高速なハンドオーバーを実現し,車中でもほぼ問題なく通話が可能になっている。

 PHSは,携帯電話に比較すると地域やキャリアごとに通話エリアの格差が大きく,特に地方部ではその傾向が顕著だ。1つの基地局がカバーできる通話エリアに致命的な差もあり,今後もこの傾向が変わることはないだろう。ただし注意しなければならないのは,地方部では携帯電話の通話エリアに,民家も道路もないような部分がかなり含まれているということだ。携帯電話の通話エリアが円で構成されているとするなら,PHSの通話エリアは点で構成されており,道路沿線や人口密集地をつなぐように通話エリアを構成している。実際,地方部でも主要都市を結ぶ幹線道路沿いなら,ほぼ100%通話可能だ。従って,エリアマップでみた通話エリアが,そのまま携帯電話の優位性になるわけではない。こうした点まで考慮すれば,PHSは「使えない」と形容されるほど不便ではないことが分かる。

 しかし,PHSに張られてしまったレッテルは,契約者の減少傾向が始まった後もさまざまな点で改善を施したPHS陣営の努力をほとんど無にしてしまった。PHSの利用者が増加しない理由は,ユーザーにとって便利か不便かなのではなく,PHS全体が背負ってしまったイメージなのだ。もっとも,携帯電話と共存するはずであったPHSを,通話エリアの拡大もまだ不十分なうちに,あたかも携帯電話と同じように使えるがごとく乱売してしまった各PHSキャリアにも責任はある。

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