News 2000年12月21日 05:56 PM 更新

PHSに本当に未来はあるのか?(2)

生き残りへの選択で2つに分かれたPHSキャリア

 前述のとおり,NTTパーソナルはNTTドコモへ吸収され,アステルは地域系電話会社への統合が進行している。この2キャリアに関していえば,単独での生き残りを諦めたということになるだろう。携帯電話とPHSの両方を擁するNTTドコモは,PHSを高速データ通信向けと位置付け,以後,契約者数を伸ばしているのは随分と皮肉な話だ。もっとも,これは携帯電話とPHSの両方の契約者に対して魅力的な料金プランを提供し,データ通信の苦手な携帯電話を補完する形でPHSを活用したNTTドコモの勝利だろう。一方,アステルは地域電話会社のインフラを活用し,データ通信に定額制や低通信料金を導入することに活路を見出そうとしている。東京電話アステルを皮切りに開始される「ドット・i」も,高速データ通信を生かしたインターネット利用を当てこんだものだ。

 全国1社体制とし,通話利用とデータ通信の両面で生き残ろうとしたのがDDIポケット。もともとPHSでは最大手であり,通話エリアが広く,H"という新ブランドも定着している。ただし,地方部での契約者減少には歯止めが掛かっておらず,H"投入後も全体での契約者数はほぼ横ばい状態となっている。

負のイメージを払拭する事が生き残りへの道

 PHSキャリアが生き残る条件は,まず背負ってしまった負のイメージを正しく払拭し,PHSの実情をもっとアピールする事だ。携帯電話と同じではなく,利用方法によってはPHSの方がずっと割安で,通話エリアも必要十分という正しいイメージを周知させるのだ。都市生活者を中心に,PHSでも困らない,あるいは携帯電話よりも便利に利用できる潜在的なユーザー層は,現状のPHS契約者数よりずっと多いはずだ。この点で,DDIポケットがH"で行ったプロモーション活動は正しいといえる。「PHS」という言葉を排除し,「ハイブリッド携帯」という宣伝文句で通した同社だが,結局,H"がPHSベースである事を知った瞬間に選択肢から外す人も多いようだ。それほどPHSの負のイメージは強い。それでも実情をアピールし続け,PHSの認知度を再び上げることが生き残りにつながる道だろう。

feel H"とデータ通信で失地回復を図るDDIポケット

 H"のDDIポケットは,PHSの低コストな高速データ通信を活用した新端末「feel H"」を投入する。feel H"は,全機種でカラー液晶を搭載し,ワンタッチ接続の小型カメラで撮影した画像をメールで送信したり,サンプリング音源によってリアルな音楽再生を可能にしたりといった特徴がある。絵と音という,分りやすい楽しさを追求した製品だ。ただし,携帯電話ユーザーの目は,どちらかと言えばiモードに代表される端末単体でのコンテンツサービスやインターネット接続,安価なメール送受信に向いており,これらの層をfeel H"が取り込むのは容易ではない。また,IMT-2000のサービスが開始されれば,携帯電話キャリアもfeel H"のような端末を続々と投入することになるだろう。feel H"に期待すべきなのは,コスト面でPHSしか実現できない魅力的な端末を発売し,今一度ユーザーの目をPHSに向けてもらうことにあると思える。

 DDIポケットでは,NTTも採用を検討していたAODI(Always On Dynamic ISDN)の仕掛けを利用し,時間課金とパケット課金を使い分ける理想的なデータ通信サービスを開始する予定だ。これを活用する形で,1通あたりでは割高感のある今のメール送受信料金を低料金化する予定もある。128Kbpsやそれ以上の高速データ通信も現状のインフラを活用する形で提供するとしているし,単体でインターネット接続可能な端末の投入も公言している。IMT-2000でのデータ通信料金がまだ見えない現状では非常に魅力的だが,これで大幅に契約者が増加するかどうかはやはりH"が音声通話サービスとしても受け入れられるかどうかだろう。

 現状のPHSのライバルは現行方式の携帯電話だ。しかしPHSが通話品質や高速データ通信を武器にする限り,半年後には登場するIMT-2000にも打ち勝たなければならない。IMT-2000では,データ通信速度が大幅に向上する。データ通信はパケット課金が主流になるが,現状のパケット単価(DoPa,PacketOne)を多少下げた程度では,映像配信など話にならないほど高くなるため,パケット単価を大幅に引き下げることが予想される。既にNTTドコモはFOMAで時間課金(64Kbpsに限る)を提供することも明らかにしているし,auでもパケット単価の引き下げや時間課金の導入などを検討している。2002年以降,携帯電話全キャリアでIMT-2000サービスが開始されれば,競争原理が働いてデータ通信料金が大幅に下がる可能性が高い。半年後のIMT-2000導入を前に,NTTドコモがPHSでの映像配信サービス「M-stage Visial」を開始したのは,データ通信コストではIMT-2000より当面PHSのほうに分があるということを暗示しているのかもしれない。しかし,携帯電話キャリアのほうが地力で勝るだけに,今後,高速データ通信分野でDDIポケットがどれだけ優位性を保てるかは全く見えない。IMT-2000の開始によって,データ通信での優位性を失った場合,やはり音声通話サービスとして受け入れられていなければ,契約者数は減少の一歩を辿ることだろう。

 各PHSキャリアがデータ通信での優位性を生かし,生き残りの道を歩むのも正しい選択だ。NTTドコモを除けば,体力を失ったPHSキャリアが現状のメリットを生かす方向性に向くのは致し方ないともいえる。しかしそれだけでは,そう遠くない未来にIMT-2000に取って代わられるだけではないだろうか。もっとも,NTTドコモだけは,それでも困らないことだろう。

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関連リンク
▼ NTTドコモ
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[坪山博貴, ITmedia]