News 2001年1月31日 08:35 PM 更新

重い腰をやっと上げたインテル,Transmetaに反撃

インテルがULV版モバイルPentium IIIを発表,米TransmetaのCrusoeに対抗する。今回ばかりは,価格をクロック周波数に見合った,戦略性の高いレンジに抑えている。

 昨年10月の「Microprocessor Forum」で技術発表「COMDEX/Fall 2000」でデモンストレーションされ,今年第1四半期の出荷が約束されていた超低消費電力(ULV)モバイルPentium III/500MHzが発表された。この発表に伴い,IBMは「ThinkPad iSeries 1124」(ThinkPad 240のコンシューマー版)に早速採用した。

 ULVモバイルPentium IIIそのものは,既に昨年中にニュースとして流れていたため技術的な驚きというものはない。1ボルトを切る電圧で300MHzの高速動作をするのだから,インテルの半導体技術には恐れ入る。しかし,ULVモバイルPentium IIIそのものに驚きはなくとも,その価格には驚きがある。1000個ロット時の価格は2万4570円なのだ。同時に発表されたULVモバイルCeleronに至っては1万3940円である。

 この価格は,500M/300MHzで動作するプロセッサとしては,少々高いといわざるを得ない。しかし,これだけ低電圧,すなわち低消費電力で動作するのだから,少しぐらいのプレミアムは大目に見よう。というのも,ULVモバイルPentium III/500MHzはモバイルPentium IIIの中から選別された優秀なダイなのだから。

 半導体は電圧が低くなると動作速度が遅くなるという性質を持っている。インテルが正式に発表しているわけではないが,ULVモバイルPentium III/500MHzは1.6ボルト動作時ならば850MHzでも動作するほど優秀なチップだと思われる。モバイルPentium III/850MHzが現時点でいくらなのかは資料がないのだが,おそらくは数倍の価格で売れるチップを,より安価に提供していることになる。

 インテルは,これまでにも低消費電力を謳うプロセッサを出荷してきたが,いずれも価格面で問題を抱えてきた。たとえば,低電圧版Pentium II/266MHz,たとえば低電圧版MMX Pentium/120MHz。そのほかにも存在するが,これらのプロセッサが世の中でもてはやされることはなかった。クロック周波数に比して価格が高すぎたためだ。クロック周波数こそキングであったPC業界の中にあって,“低クロックかつ高価格”は致命的欠陥だった。

 しかし,今ではいくつか異なる事情がある。ULVモバイルPentium IIIの価格設定が,十分に競争力を持つものであること。以前と比べ,プロセッサパワーに対する要求が小さくなっていること。そしてTransmetaが昨年,世論を地ならししたことだ。

 そもそも,クロック周波数にのみ価値があるかのようなマーケティング手法でライバルを蹴散らしてきたのは,ほかならぬインテルである。これに乗じたPCベンダー,そしてわれわれマスコミも反省すべきだが,インテルもこれまでの反省を踏まえ,クロック周波数に合った価格をULVプロセッサに付ける必要があった。その期待に応えたのだから,今回ばかりはインテルに賛辞を送ってもいいだろう。

Crusoeにどう対抗する?

 もっとも,今回の発表でインテルがTransmetaを叩きのめすことができるか? と言えば,まだ不確定な部分もある。まずプロセッサの消費電力は下がったものの,インテル製のチップセットは古い設計のものが主流であり,チップセットの分だけ消費電力面で不利であること(Crusoeはノースブリッジが統合されている)。次にTransmetaが2月にサンプル出荷を予定している(本当は1月後半の予定だった)0.13μメートル版Crusoe(TM5800)と比較する必要があること。将来のロードマップに一抹の不安が残ること……などだ。

 ただし,ライバルのTransmetaも順風満帆ではない。昨年末に起こったリコール騒ぎ(その内容を考えると同情的にならざるを得ない)が,問題解決後も尾を引いていること。本来,既にサンプルが出ているハズのTM5800がまだ出てこないこと。予定では800MHzまで動作するハズだったTM5600が,未だに最高600MHzであること。今年の1月にサンプルが出ると言われていた台湾TSMC製造のCrusoeが遅れ気味なこと。など,特に製造面での不安が再燃している。

 願わくば,にわかに起き始めた低消費電力プロセッサの戦いが,しばらくの間続いて欲しいものだ。そこから,新しい市場と製品が生まれるかもしれない。PCベンダー各社は,ULVモバイルPentium III/500MHzの採用を見送ったところも少なくない。しかし,関係者の話を総合すると,600MHzにクロックアップする次期ULVモバイルPentium IIIで採用を検討しているPCベンダーが多いという。

 ULVモバイルPentium III/600MHzが登場する頃までに,TransmetaもTM5800の生産を軌道にのせ,さらに1GHzの動作クロック周波数を実現している可能性もある(Transmetaの予定ではそうなるハズなのだ)。早ければ夏商戦,遅くとも冬商戦には,インテルとTransmetaの製品が正面からぶつかることになりそうだ。

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[本田雅一, ITmedia]

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