News 2001年2月27日 11:25 PM 更新

GeForce 3のPC版登場,ライバルはゲームの不在?

DirectX 8のあらゆる機能をハードウェアで備えるという新GPU「GeForce 3」がnVIDIAから発表された。しかし,その価格はメインストリーム製品とは言い難いようだ。

 「MacWorld Expo/Tokyo」でMac版が発表されたnVIDIA の「GeForce 3」だが,2月26日には「Intel Developers Forum 2001」近くに設けられた会場でPC版が正式に発表された。最新のx86マイクロプロセッサを超える5700万トランジスタを集積した新チップは,76GFLOPSものジオメトリ計算パワーを持ち,新アルゴリズムによる強力なフルシーンアンチエイリアス機能,「DirectX 8」完全互換機能などを持つ。

DirectX 8完全対応

 GeForce 3の最大の特徴は,DirectX 8でサポートされているあらゆる機能をハードウェアで備えていることだ。これまでハードウェアを抽象化するDirectXの仕様とハードウェアそのものの仕様は異なっており,ソフトウェアによってその間を埋める必要があった。

 しかし,GeForce 3では一切それが不要になる。DirectXの機能が呼び出されると,そのまま1対1で対応するGeForceの機能へと変換されるだけだ。

 DirectX 8には,プログラム可能なバーテックスシェーダーとピクセルシェーダーが規定されており,これもGeForce 3にネイティブ実装され,大きな特徴の1つとなっている。

 nVIDIAは,特にバーテックスのプログラミングを中心にデモしていた。バーテックスは,オブジェクトの変形処理を行うプロセスで,通常はいくつかの変形タイプが定義され,それぞれにパラメータを与えることで動作する。しかし,DirectX 8(すなわちGeForce 3)ではバーテックスの定義をプログラムできるため,より柔軟性の高い動きやモデリングをサポートすることが可能になる。

 たとえば,デモプログラムでは髪の毛がそよぐ様子をバーテックスのプログラムで実現していた。髪の毛の特性をプログラムしておき,パラメータを与えることでリアルな髪の毛の動きを再現するわけだ。


髪の毛がそよぐデモプログラム


顔の表情をプログラマブルピクセルシェーダーを用いて描画

 nVIDIAはこのプログラマブルバーテックスシェーダーと,同時6種類のテクスチャを貼り込み,ピクセルごとにシェーディング可能なプログラマブルピクセルシェーダーを用いて,よりリアルな画像をレンダリング可能にした。

高速なアンチエイリアス機能を搭載

 3D技術の進歩とともに,画質は飛躍的に向上しているが,ピクセルごとのシェーディングを行ったとしても,ポリゴンのエッジに発生するジャギー(ギザギザ)を抑えることはできない。そこで行われるのがアンチエイリアス処理だ。仕上がりのフル画像に対してアンチエイリアス処理を行うことをフルシーンアンチエイリアス処理(FSAA)という。

 FSAAは,かつての3D FXが,複数のレンダリングチップを用いた「VooDoo 5」で実現,GeForceシリーズも対応していた。基本的には,3D画像をオーバーサンプリングし,縮小処理を行う課程でジャギーを取り除く。

 しかし,十分な効果を得るためには,出力する画像の4倍ものサイズをレンダリングせねばならず,画質向上の効果は明らかなものの,メモリ帯域不足などから十分なパフォーマンスを得られず,また高解像度でのFSAAは難しいという問題があった。

 GeForce 3では,Quincunxアンチエイリアスモードという新しいFSAAのアルゴリズムを組み込むことで,この問題に取り組んでいる。Quincunxモードでは,オーバーサンプリングを行わずにFSAAを実現可能で,その効果は4倍サンプリングに匹敵するという。一方,2倍サンプリング程度の負荷で済み,また高解像度のFSAAも行うことができる。「Quake III」を用いたテストでは,1024×768ピクセル/32ビットカラーモードで毎秒70フレーム以上の性能を叩き出すという。

 nVIDIAによると,チップの高速化も合わせ,GeForce 2 Ultraでは毎秒2億5000万ピクセルだったFSAA使用時のフィルレートが,GeForce 3では毎秒8億ピクセルにまで達するという。これだけの性能であれば,常にFSAAを有効にした状態でも,十分にゲームを楽しむことができるだろう。

GeForce 3の性能を支えるメモリアーキテクチャ

 GeForce 3の高速処理は,高速かつ利用効率の高いメモリアーキテクチャにある。3Dレンダリングではフレームバッファのメモリ帯域が性能の上限を決めてしまうケースが多い。そこで,nVIDIAはメモリの実効帯域を広げるための技術に取り組んだ。

 クロスバーメモリコントローラは,メモリコントローラを複数チャネル用意し,複数にパーティショニングしたメモリに対して,スイッチング技術で直結する。たとえば,テクスチャを読みながら,レンダリング結果をフレームバッファに書き込むという処理を並行でこなす必要があるが,このときにクロスバーメモリコントローラを用いれば,それぞれのメモリアクセスを同時に行うことができる。

 クロスバーはメモリとコントローラを直結し,デバイスが空いている限り同時に接続することができるため,メモリトラフィックが分散し,ボトルネックが解消されるというわけだ。さらにZバッファの圧縮も行うため,ここでもさらにメモリ帯域を節約できる。

誰がそれを必要とするのか

 デモを見る限り,GeForce 3が高性能であることに疑いの余地はないが,問題はその価格だろう。nVIDIAによると,64MバイトのDDR SDRAMを搭載したカードは399〜499ドル程度になるという。日本で販売する際には,5万円を超える高価なビデオカードになりそうだ。メインストリームのPCが10万円で購入できる現在,この価格はあまりにも高い。すなわち,メインストリーム製品の条件を逸脱している。


MSIのGeForce 3搭載ボード「StarForce822」

 もちろん,価格は時間が解決してくれるのかもしれないが,問題はそれだけではない。最近のゲーム不況からも分かる通り,優秀な3Dアクセラレータの性能を生かしたゲームを作るのは非常に難しいのだ。アプリケーションが少なければ,当然それを求めるユーザーにも限りがあり,さらにゲーム不況を助長させてしまう。

 これだけの3D機能を使いこなすということは,それだけで大きな予算を必要としてしまう。「GeForce 256」が登場してかなりの時間が経過しているが,それすら完全に使い切らないゲームが多いのは,デベロッパーにとって,最新の3D機能を使いこなすための財政的なリスクが大きすぎるからだろう。

 マイクロソフトの「Xbox」と同じ3Dアーキテクチャを持つGeForce 3は,あるいはそのリスクを軽減させてくれるかもしれないが,Xboxそのものの市場が立ち上がっていない現在,予測するのは非常に難しい。

 急激に進んだ高性能化は,アプリケーションの進化を追い越し,置き去りにしているように思うのは気のせいだろうか。GeForce 3のOEM先を見ても,グラフィックカードベンダーは欧州の一部を除き,そのほとんどがASUSTek,GIGABYTE,Leadtek,MSIなどの台湾ベンダーである。GeForce搭載ボードの発売では常に先行してきたクリエイティブは,今回のローンチパートナーに名を連ねていない。

 デスクトップPC向けのグラフィックチップとしては圧倒的な地位を確保しているnVIDIA。そのライバルは,もはやほかのグラフィックチップではない。ユーザーが高価なカードを購入したいと考えるほどのキラーアプリケーションが登場するかどうか,またXboxの成功でDirextXゲームの開発に投資を行う環境ができるかどうかにかかっていると言えそうだ。

関連記事
▼ Mac市場に登場した「GeForce 3」の機能とは?

関連リンク
▼ NVIDIA
▼ MSI

[本田雅一, ITmedia]

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.