News 2001年4月12日 11:48 PM 更新

初めて欲しいと思ったPocket PC──iPAQ

欧米での発売から10カ月。やっと日本に登場した「iPAQ Pocket PC」は,魅力的だった。そのプロセッサパワーは携帯デバイスに必要な“軽快さ”を実現し,Pocket PCの使い道を広げてくれる。

 昨日,発表されたコンパックの「iPAQ Pocket PC」は,Pocket PCの本命といわれながら,欧米での発売から10カ月も経過してやっと日本に登場した“新しくない”新製品だ。しかし,ワールドワイドでのバックオーダーが50万台とも70万台ともいわれるiPAQは,市場投入後10カ月を経てもなお,魅力的な製品として僕の目に映った。

 実はそのiPAQ日本語版を,先月中旬に10日ほど利用する機会があったので,その使用感を速報として入れることにしたい。使ったのは日本語ベータ版の32Mバイトモデル(H3630)だが,ROMに納められたバンドルソフトウェア以外は基本的に製品版と同一のものだ。


コンパックの「iPAQ Pocket PC」。写真は発表会でのもの

Pocket PCで一番の軽快さ

 実は,iPAQに触れるまで,Pocket PC規格の製品をあまり高く評価していなかった。それは軽快さに乏しかったからだ。文房具のように持ち歩くには大きく重く,そして操作レスポンスも今ひとつ。ライトな重宝ツールとして利用するには,もっと割り切ってモノクロのPalmの方がいいと思えた。

 しかしiPAQは,そうしたPocket PCのイメージを大きく変えるものだった。あらゆる操作のレスポンスは軽快で,重さも約180グラム。「Palm Vx」と比較すれば大きく重いかもしれないが,この程度の軽快さがあれば「できることが多い分だけiPAQがいいか」と思えてくる。

 そう。iPAQはPalmよりもできることが多い。その理由の1つは,206MHzのStrongARM搭載によるプロセッサパワー。Palm-size PC時代はなかなかアプリケーションが増えなかったが,iPAQの登場により,欧米ではプロセッサパワーを生かした魅力的なアプリケーションが増えてきている。

 標準搭載される「Beatnik Player for Pocket PC」(MP3やMIDIに対応したオーディオプレーヤー)や「PVPlayer v2.0」(MPEG-4に対応したビデオプレーヤー)などは,高速プロセッサがなければ実現できないアプリケーションだ。また,アンダーグラウンドの世界ではファミリーコンピュータやゲームボーイといったゲーム機のエミュレータをiPAQで動かすことが流行している(ただしiPAQはキーの同時押しができないため,速度は十分だが本当にゲーム機として利用するのには向いていない)。

 もちろん,単に個人情報ブラウザとして利用するだけなら,パワーがあればいいという問題ではなく,使いやすいシェアウェアやフリーウェアが充実し,よりコンパクトなモデルの多いPalm OS系のデバイスの方が使いやすい場合も多いだろう。こうして記事を書いている僕自身,そうした目的で「Visor」を利用しているからだ。

 しかし,そこから一歩踏み出して,別のこと(マルチメディア系のアプリケーションを利用したり,インターネットの活用)をしたいと思った瞬間,Palmではまかないきれなくなる。そう,実際に使っている人は分かるだろうが,PalmとPocket PCは全く別の世界の機械なのだ。

 これまでPocket PCが,今ひとつブレークしきれなかった理由は,PDA市場そのものの限界という説もあるが,携帯デバイスとして最低限必要な軽快さがなかったことが最大の原因ではないだろうか。そしてその問題を乗り越えているのがiPAQだと思う。

拡張コンセプトは賛否両論

 iPAQのメリットでもあり,デメリットでもあるのが,ジャケットコンセプトと呼ばれる拡張コンセプトだ。小型デバイスの拡張性というと,どんな拡張スロットを装備しているのか? という視点で見ることがほとんど。しかし,iPAQは拡張スロットを本体に一切装備していない(だからこそ小型軽量化できたともいえる)。

 その代わりに,iPAQ自身がジャケットと呼ばれる一種のスロットに収まる。たとえば,標準で添付されるCFジャケットは,コンパクトフラッシュType IIのスロットを備えるジャケット。このジャケットにiPAQを差し込むわけだ。

 このコンセプトは,サイズに囚われずにさまざまなデバイスをiPAQと組み合わせて利用できるという点で画期的だ。発表会では,iPAQを差し込んで動作するクレジットカードのCAT端末がデモされたが,作ろうと思えばあらゆる種類のデジタルデバイスと合体できるというのがジャケットコンセプトの魅力だろう(もちろん,そうした周辺デバイスが開発されなければ意味はない)。


クレジットカードのCAT端末として動作するジャケット

 ただし,現実に立ち返ってCF Type IIのPHS通信カードを使いたい,あるいはコンパクトフラッシュを使いたいといったとき,本体に直接差し込めず,70グラムあるCFジャケットを取り付けなければならないという不利もある。CFジャケットを取り付けたiPAQはサイズもNTTドコモが販売するヘビーデューティなPocket PC「GFORT」とほとんど同じになる。

 僕の場合,iPAQ本体を上着のポケットに入れて情報参照ツールとして利用し,PHSによる通信を行いたいときだけ鞄からCFジャケットを取り出して通信していたが,常にジャケットを付けたままで持ち歩きたい人には,本体にCFスロットを備えてもらっていた方がいいと考える人もいるだろう。

 一方,ヘビーな使い方をする人には,うってつけのオプションが用意されている。PCカードジャケットとターガス製の折り畳みキーボードだ。折り畳みキーボードは,フルサイズキーボードを4つ折りにしたもので,HPの「Jornada」「Visor」用のものが販売されているのでご存じの方も多いだろう。PCカードジャケットは名前の通りだが,ジャケット内にPCカードに電源供給するためのリチウムポリマー電池が内蔵されているのが特徴だ。


iPAQ用の周辺機器いろいろ。中央にあるのがターガスの折り畳みキーボード

 これらに「C@rd H"」などの通信カードを組み合わせれば,本体の高速性と合わせて,かなり快適な文章入力環境を実現できる。仕事のメールで長文を返信する必要があるときも,外出先で資料の草稿を作るときも,(キーボードにiPAQを載せた独特のスタイルが少々照れくさいということを除けば)大きなキーを備えたハンドヘルドPC並みに快適な操作が可能になる。

日本市場に合わせた周辺機器展開を期待

 海外では数多くのバックオーダーを抱えるほど大人気のiPAQに対して,さまざまな周辺デバイスが登場しつつある。CFジャケットは純正よりも遙かにコンパクトなものが登場しているし,今後は普及した本体に対してアイデア勝負の周辺機器がいろいろと登場するだろう。米国では大量の企業向け需要のため,店頭で全くその姿を見かけない状態だが,今後バックオーダーが解消され,店頭販売にも回るようになれば,周辺デバイスのバリエーションも広がるはずだ。

 一方,日本市場ではこれから販売を開始するスタート地点に立ったばかりだ。発表会で紹介されたデバイス類の多くは,Pocket PCに対応したPCカードやCFカードであり,iPAQ専用の製品はない。ジャケットコンセプトを生かし,iPAQの魅力を引き出すためには,iPAQ専用デバイスの開発をサードパーティに働きかける必要があるだろう。

 出遅れた日本市場で,iPAQが欧米と同じような成功を収めるためには,サードパーティを巻き込む,巧みさと力業(ちからわざ)を合わせたマーケティング戦略を実践できるかどうかにかかっているといえる。魅力的な“ハードウェア”を魅力的な“商品”とするための,コンパックの努力に期待したい。

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関連リンク
▼ コンパック
▼ iPAQ Pocket PC製品情報
▼ iPAQfan.com

[本田雅一, ITmedia]

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