News 2001年6月28日 07:48 PM 更新

鬼才・水口氏の新作ゲームはサイバードラッグ?(2)

 この日,水口氏に直接話を聞くことはできなかったが,おそらくそれは同氏の狙ったものでもあるのだろう。同氏はゲームデザインについて,「人間の快楽曲線をデザインしていくこと」といった趣旨の発言をしたことがある(AXIS Forum Report 第3回)。それは同氏のヒット作,「スペースチャンネル5」(いわゆる音ゲーだ)についてのことだったが,ゲームデザインについてのこの考え方をより先鋭化させ,強力に表現したのが,この「Rez」なのではないか。


この日ビデオプリントで提供された「Rez」の画面

 この日,最後に登場したソニー・コンピュータエンタテインメントの丸山茂雄会長は,音楽畑出身なだけに,そのことに直ぐに気が付いたのだろう。ある種の音楽もまたトランス感覚をもたらすものだからだ。強力タイトルが居並ぶ中で,あえてこのタイトルに触れ,「この秋以降,“クラブ”では,DJのラップから,こういうソフトをコントローラで操作するのに変わっていくかもしれない」と言っていた。

ゲームは「パンドラの箱」を開けた?

 ゲームはハードとソフトの提供する仮想世界に,プレイヤーがアグレッシブに関わっていくことだ。ゆえに,ゲームユーザーは,その仮想世界をより高精度に構築することを求め,マシンパワーはそれに注がれてきた。

 それはそれで素晴らしいことだし,20年以上に渡ってゲームユーザーが夢想してきたことでもあった。だが,そのレベルを上げる手間隙に比べ,生み出される「刺激の閾値」は確実に下がってきている。

 しかし,「Rez」は違う。「Rez」では,プレイヤーはゲームの提供する決して“リアル”とはいえない世界に,引きずり込まれるように浸っていく。プレイヤーがこれほど受動的になるゲームは,正直,初めて経験した。

 そしてこれはまた,ゲーム製作者側が,これまで主として力を注いできた仮想世界の構築ではなく,ゲームが人間にどんな生理的な効果を及ぼすのか,という「ゲームと人間のインタラクティブな部分」に,マシンパワーやプログラミングテクニック,そしてゲーム製作者の智恵と計算を注ぎ込むという,新しい可能性を提示している――これはゲーム関係者なら誰でも心のうちで気がついていたが,しかし,あえて踏み込まなかった領域だ。

 ゲームにとってこれは「パンドラの箱」かもしれない。だが,次のレベルにいけなくて「最後の謎解き」をやっていた昨今の“ゲーム世界”に,これで突然,広大で未知の領域が拓かれる。

 「Rez」が最終的にどんなゲームとして製品化されるのか,この日のデモだけでは,断言できない。しかし,この日,見た限りでは,「ヘッドギア」でもつけて外界をシャットアウトし,存分に浸りこんでみたい――そんなゲームになりそうだ。

 もっともそんなことをすると,“こっち”の世界に戻れなくなりそうで,ちょっと怖いのだが。

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[中川純一, ITmedia]