News 2001年7月13日 11:50 PM 更新

パブリックスペースにおける通信の未来


無線LANを内蔵したThinkPad s30

 日本アイ・ビー・エムが,無線LANを内蔵したThinkPad s30シリーズの発売を機に,新宿・京王プラザホテル,新宿・センチェリーハイアット東京,成田・日本航空成田空港サクララウンジの3カ所で,ワイヤレス・ブロードバンド・サービスの実験を開始している。

 取材の機会があって,このうち,新宿のセンチェリーハイアット東京をのぞいてきた。

 無線LANが使えるのは,約800平方メートルの広大なフロントロビー全域だ。奥まったところにコーヒーショップがあるが,そこでもなんとか利用できる程度に電波が届いているようだ。ただ,実験期間ということもあって,館内のどこを見ても,無線LANが使えるという案内はない。というのも,客がネットワークやパソコンに対して全くの素人の場合,問い合わせを受けても十分なサポート体制がホテル側にないからなのだそうだ。

 それでも,IEEE802.11b準拠のカードを装着したノートパソコンでユーティリティを使って検索すると,アクセスポイントは簡単に見つかり,すぐにインターネットに接続することができた。料金は,嬉しいことに,今のところタダだ。

 同ホテルでは,すでに99年から,HOME PNAを使い,客室からインターネットを利用できるサービスを提供している。これは,国内では最初の試みだったという。既存の電話線のインフラを使ったイーサネット接続サービスで,客室から約1Mbpsでのインターネット接続が可能だ。24時間2200円と,それなりの値段はするのだが,営業成績は悪くないという。

 同ホテルは宿泊客の6割が外国人だが,このLANサービスの利用者に至っては,ほぼ100%が海外からの旅行者であるという。彼らは,パソコンをインターネットにつなぎっぱなしにして,母国の本社ネットワークにVPNでアクセスするらしい。ちなみに,部屋の電話を2回線対応にしたのも,かなり早い時期だったそうで,快適なITインフラを宿泊客に提供しようというホテル側の姿勢を感じる。

 今回の無線LANサービスは,このHOME PNAのインフラを利用し,その末端にアクセスポイントをつないだだけという簡単なものだ。内線電話が使えるところであれば,どこでもLANのノードになるという点が,HOME PNAの強みだ。今回は,フロントわきのコンシェルジェデスクの下に,隠すような形でアクセスポイントを設置したという。当初は,アンテナが見えるところに出ていないと「うまくいかないのでは」と懸念されていたそうだが,実際に運用を始めてみると,アンテナが見えていなくても,かなり広い範囲をカバーできたという。これは,天井の高さも大きく影響しているらしい。

 ただし,無線LANが11Mbpsをサポートしていても,HOME PNA自体が1Mbpsの帯域しかもたないことがボトルネックとなって,ブロードバンドとは名ばかりのスピードになっている。もっとも,同サービスそのものが,外に対して,現時点では128Kbpsでしかつながっていないので,今はバックボーンの増速が急務だ。また,HOME PNAの部分もVDSLの導入などで,高速化を検討しているとのことだった。

 ただ,ADSLや光などを利用した廉価なサービスを使おうにも,今のところ,大量のグローバルIPアドレスを割り当ててくれるプロバイダが,なかなか見つからないのが悩みなのだそうだ。VPNを利用する際に,プライベートアドレスではうまく接続できないケースが多く,客側もグローバルIPアドレスを必須と考えているようなのだ。

 同ホテルには,客室が766室あるが,そのすべてがインターネットに接続することはないとはいえ,クラスCネットワークではとても足りない。が,そのクラスCでさえ,割り当ててもらえる日本のプロバイダは見当たらないのだという。

 いずれにしても,携帯電話などで接続するよりも,圧倒的に快適に,しかも無償でインターネットが利用できるインフラが手に入るのはうれしい。今のところは,8月いっぱいで実験期間は終了の予定だが,必要に応じて延長することも考えているらしい。

 東京都内には,たくさんのホテルがあり,仕事がら,カンファレンスや記者会見などで,あちこちを利用するが,中には,館内でいっさいの携帯デバイスが使えないところもある。パブリックスペースでは他の利用客の迷惑になるから遠慮しろというだけではなく,シールド電波で通信をシャットアウトしているような印象さえある。音声の電話を遠慮するのは仕方がないとしても,これではメールのチェックさえできない。

 センチェリーハイアット東京の場合は,コーヒーショップのテーブルに「電話はマナーモードでお使いください」という札が置かれている。つまり,着信音がけたたましく鳴らない限りは,席で話をしてもかまわないのだ。その秘密は,館内に設置された,たくさんのアンテナにある。これによって,通話品質が向上し,大声を出さなくても十分に話ができるのだ。

 やみくもに全て禁止してしまうのではなく,何がいけないのかを冷静に考えた結果だ。これは,他のホテルも見習ってほしい。

 パブリックスペースにおけるコミュニケーション手段は,いろんな問題を秘めている。電車の中で電話を使ってはいけないとアナウンスするのは,考えようによっては,営業妨害ともいえる。ここまで利用者が増えた以上,共存の方法を考えるようにしていかなければならないんじゃないかとも思う。心臓のペースメーカーをつけた方に被害を及ぼさないようなことを含め,共存の道を探ってほしいものだ。

 まして,無線インターネットのあり方にも,まだまだ,解決しなければならない問題がある。その費用を誰が負担するのか。各プロバイダが各所でサービスを展開し,客はローミングによってインターネットに接続するという方法も“あり”だろう。この場合,ホテルは場所を貸すだけという形になる。あるいは,サービスチャージを何らかの認証で得るのもひとつの方法だ。が,そのためには,インフラそのものに費用がかかり,設備投資も必要になる。また,ホテル自体が業務として使うインターネット接続と,顧客サービスとしてのインターネット利用を,はっきりと分割するのかしないのか,しないとすれば,セキュリティはどうするのか,といったところも考えなくてはなるまい。

 いずれにしても,パブリックスペースでのインターネット接続インフラは,無線LANが優勢という点は,もはや揺るぎのないものとなりそうだ。願わくば,早く,ワールドワイドで使えるインフラに成長してほしい。いつになったらワールドワイドで何不自由なく使えるかも分からない“携帯電話のインフラ”を待っているわけにはいかないのだ。

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関連リンク
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[山田祥平, ITmedia]

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