News 2001年7月23日 11:55 PM 更新

「つながり感」はネットで伝えられるか――NTTが実証実験

離れていても,常に存在感を感じられる? NTTが富山県山田村で実施する「つながり感通信」の実証実験は,孤立し,愛情に飢えた現代人の心を癒してくれるかもしれない。

 足音や物音。家族で暮らしていると,言葉を交わさなくても誰が何をしているのかだいたい想像がつく。何も音がしなければ,勉強や仕事をしているのかもしれないし,寝てしまったのかもしれない。このような情報のことを,社会学的には「手がかり情報」と呼ぶ――。NTT生活環境研究所では,この手がかり情報を,ネットワークを通じて離れて住む家族に伝えることができるかどうか,8月から「つながり感通信」の実証実験をスタートさせる。

 “つながり感通信”などと言うと,ついテレパシーでもするのかと考えたくなるが,もちろんそうではない。専用の通信端末を使い,同居していたときと同じように家族の“存在感”を感じられるかを試すのだ。「最近の凶悪事件は,個人の孤立化やコミュニティの崩壊が要因の1つだと考えられる。もっとコミュニケーションが必要だ」(NTT生活環境研究所 エコ・コミュニティ社会実験プロジェクトの渡邊琢実氏)

 実験の舞台となるのは,富山県山田村。山田村といえば,1996年に過疎対策として全世帯の7割にPCが導入されたことで注目を集めたほか,「電脳村ふれあい祭り」の開催地としても知られる。ITとは関わりの深い村なのだ。実験には,村を出て都心で働く息子・娘夫婦がいるという条件で,4組8家族が参加することになった。

熱源移動体を感知できる「FammilyPlanter」

 写真の端末が,実験で使用される「FammilyPlanter」。移動熱源センサーと距離測定センサーを内蔵し,半径3メートル以内の移動体(周囲との温度差が3度以上のもの)を認識することができる。

 すると,ペアになっているもう1台のFamilyPlanter側にその情報が伝わり(端末同士は専用線で接続している。通信速度は64Kbps),本体上部に刺さっている光ファイバーが光りながら回転する。センサーの前を素早く通過すると,回転速度が上がり,センサーの前で静止するとゆっくり回ってから停止するという仕掛けも備える(ただ,人間だけでなくネコやイヌなど,条件を満たせばなんでも反応してしまうらしい)。

 基本的に,FamilyPlanterが伝える情報は「手がかり情報」だけだ。つまり,「無意識に発信する情報を伝達する」(渡邊氏)のがその役割なのだが,それだけでは満足できない場合もあるだろう。そんな時は,黒い台座に設置された接触センサーに触れれば,お互いの端末からメロディーが流れるようになっており,より積極的に存在をアピールすることができる(同居している時なら,ドアをノックされて返事をするようなものだろうか)。

 機能はこれで全部。手がかり情報の伝達に特化しているため,非常にシンプルな装置で,実際,渡邊氏も「技術的なチャレンジはほとんどない」と話す。

 しかしながら,このFamilyPlanterの場合,あえて機能を絞り込んだという側面もある。「普段はほとんどコミュニケーションがなかったのに,つながり感通信をきっかけにして,電話や電子メールといった能動的なコミュニケーションを望むようになるかもしれない」(同氏)。


サービスのイメージ図。ただ,実際には娘が元気かどうかまで分かるわけではない

“さりげなさ”でつながり感を醸成

 それにしても,観葉植物のような外観のFamilyPlanterは,通信端末という割にはずいぶんと和み系だ。

 渡邊氏は,このデザインになった理由を,「手がかり情報は,“さりげなさ”が重要。相手のことが何となく分かったり,というような。そのため,インテリア感覚で部屋に置けて,意識の片隅にあるくらいの存在のほうがいい」と説明する。

 「さりげないコミュニケーションを積み重ねることで,家族のつながり感が醸成される」(同氏)。便りがないのはいい知らせというが,全く連絡がないのも寂しすぎる。とりあえず,存在していることだけでも伝われば,離れて暮らしていても安心というわけだ。

 今回の実験は,こうしたつながり感通信の有効性,ならびに需要を確かめるためのものだが,今後の計画について,渡邊氏は「特に商用化を目指しているわけではない」と話す。

 ただ,山田村のようなケースだけではなく,遠距離恋愛の恋人たちであったり,単身赴任のお父さんであったり,つながり感を体験したい人々は大勢いるはず。「社内にも遠距離恋愛をしている人はいる」という渡邊氏。まずは,実験の第2フェーズとして,社内公募をかけてみてはいかがだろうか──。

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[中村琢磨, ITmedia]

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