News 2001年9月7日 09:08 PM 更新

やっと「全国区」になる電波時計

正確な時を刻む電波時計は以前から製品化されてたが,電波が届かない一部地域では使えなかった。それが,今年10月に九州送信所が開局し,電波時計が全国で使えるようになる。

 日本で1番正確な時を刻んでいる場所をご存知だろうか。

 日本の時刻の基準となる「日本標準時」は,東京都小金井市の独立行政法人通信総合研究所(CRL)の中にある原子時計「セシウムビーム型原子周波数標準器」を基準にして決められている。

 この日本標準時をのせた電波を受信して,時刻の誤差を自動修正するのが電波時計だ。通常は内蔵のクォーツ時計で動いており,1日に数回,電波を受信して日本標準時と比べ合わせ,正確な時間に修正していく。現在は,腕時計型から壁掛け,置時計などさまざまなタイプの電波時計を購入することができる。


さまざまな電波時計がある

 我々が使う普通のクォーツ時計は,カタログに「月差15〜20秒」などと書かれている。これは「一カ月に15〜20秒は誤差があるかもしれません」という意味だ。しかし,一般的な原子時計は30万年に1秒以下という誤差しかなく,その精度たるやクォーツ時計とは雲泥の差だ。

 CRLにある原子時計はさらに高精度で,170万年に1秒以下しか誤差が生じない。CRL内には,この原子時計が10台設置されており,全て磁気シールドで覆われ,温湿度管理や停電対策がなされた原器室の中で運用されている。

 この日本標準時は,福島県にある「おおたかどや山標準電波送信所」に送られる。この送信所にも原子時計が6台あり,日本標準時と同期を取りながら電波にのせて送信するという仕組みだ。

 おおたかどや山から送られる電波の強さは50Kワットあり,電波が届く距離は半径1000キロまでに及ぶ。この距離は,北は北海道全域までカバーするが,南は九州の福岡・大分県あたりまでとなる。

 さらに,実際には500キロを超えると電波が弱くなってしまうため,中部地方から西側では受信しづらいという欠点があった。つまり,全国で使うことができないことが,電波時計普及の妨げになっていたというわけだ。

九州送信所の10月開局で,電波時計が全国区に

 この問題を解決するため,九州に新たな電波送信所が建設され,今年10月1日に開局する予定となっている。佐賀県富士町と福岡県前原市の境界にある羽金山の山頂に設置された「はがね山標準電波送信所」がそれだ。

 ここから送信される電波の強さは,福島送信所と同じ50Kワットで,やはり半径1000キロをカバーする。これによって,今まで受信しづらかった中部以西エリアはもちろんのこと,まったく受信できなかった九州南部や沖縄地方まで電波の受信エリアが広がった。つまり,やっと日本全国で電波時計が使えるようになったというわけだ。


2つの電波送信所がカバーする電波時計の受信範囲。はがね山への設置で,九州や沖縄も含む全国をカバーした

 ただし,問題点が1つある。福島送信所は40KHzで九州送信所は60KHzと,送信電波の周波数帯が違うのだ。富士川を挟んで50Hzと60Hzに電気の周波数が分かれているため使えない電化製品があるのと同じように,住んでいる地域ごとに受信できる周波数帯に合った電波時計を用意しなければならない。現在発売されている電波時計は,ほとんどが40KHz帯用となっている。

 ただし,年末にかけて時計メーカーも60KHz帯用の電波時計をリリースしていく予定だ。特にカシオ計算機は,電波時計を“次世代の時計”と位置付け,今年秋冬の腕時計や壁掛け時計の新作でもラインアップを充実させ,積極的な製品展開を図るという。40KHzと60KHzの両方に対応した「東西電波対応モデル」も今年12月に発売する予定だ。


東西電波に対応したカシオの電波時計SLEEP BUSTERシリーズ

 “正確な時間”は,現代社会には必要不可欠なものとなっている。例えば,キー局とローカル局が次々と切り替わっていく全国ネットのTV/ラジオ局では,基準となる時計の同期が取れていないと局の切り替えの際にずれが生じて不快なノイズが発生してしまう。また,オンラインで結ばれた銀行間では,時刻の同期が必須条件だ。このように,高度情報通信社会では,情報を管理するコンピュータ間の時刻同期が重要な課題となっている。

 今年4月からは,インターネットの時刻情報提供用標準プロトコル「Network Time Protocol」(NTP)を利用したNTPサーバが公開され,一般ユーザーがPCを介して日本標準時を利用できるようになっている。フリーソフトでも,この日本標準時を利用して,インターネット上からPCの時刻を設定できるツールが数多く出回っている。

 我々のまわりには数多くの時計があるが,正確な時間を知りたいとなると,結局はTVを見たり,117にダイヤルして時報を聞いたりしている。それは,身のまわりの時計があてにならないからだ。電波時計で,常に正確な時間を手に入れるのは,精神衛生上からもよいことではないだろうか。

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関連リンク
▼ 通信総合研究所日本標準時グループ

[西坂真人, ITmedia]

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