News 2001年12月17日 10:07 PM 更新

注目の「オーディオPC」――各社の取り組みを振り返る

本格オーディオ機能を売りにしたPCが注目を集めている。しかし,オーディオとPCの両分野に長けたメーカーは意外と少ない。そうなると,専業メーカー同士の協業というスタイルが生まれる。

 本格オーディオ機能を売りにしたPCが注目を集めている。

 CDからリッピングした音楽データをHDDに保存しPC経由で聴いたり,貯めた音楽をシリコンオーディオプレーヤーに転送して楽しむといったことが一般的になってきた。また,ブロードバンドを利用したEMD(電子音楽配信)が普及し始めてきたことも,PCのオーディオ化を後押ししている。

 このように,PCで音楽を“高音質で楽しむ”というニーズの高まりが,“オーディオPC”という新ジャンルを形成している。

 オーディオに力を入れたPCとしては,最近ではソニーのバイオMXがある。サウンド回路をワンチップのデジタル回路に集約した「Sony Digital Audio System」や,6バンドのデジタルパラメトリックイコライザ,NetMDへの対応など充実したオーディオ機能が売りだ。


充実したオーディオ機能が売りのバイオMX

 また,12月1日に発売したbitPlayのように,PC部分を隠してAV機器感覚で操作できるようにした変り種もある。フルデジタルオーディオシステムの採用,S-Masterデジタルアンプ搭載,オーディオ専用の32ビットDSPなど,マニアも納得のオーディオスペックだ。これもソニーである。


マニアも納得のオーディオスペックを装備しbitPlay

 ソニーがこのように,本格的なオーディオ機能を盛り込んだPCを市場に次々と投入できるのは,両分野に関する技術ノウハウの蓄積があるからだ。同社のように,PC分野でもオーディオ分野でもトップグループに名を連ねるメーカーは意外と少ない。

 かつて,NECがCDプレーヤーを出していた時期もあったが,今ではオーディオから撤退している。松下電器が現在でもオーディオとPCの両市場に製品を投入しているが,両分野ともにトップグループで活躍しているとは言い難い。

 過去を振り返ってみると,ヤマハや日本ビクターといったオーディオメーカーが,国産8ビットPC規格“MSX”マシンを出していた時代があったが,現在はPC分野から撤退している(日本ビクターはWindows CE機を出してはいるが…)。

 自社だけでの取り組みが困難となると,先週発表されたケンウッドとイーヤマによるオーディオPC「AVENUE」のように,専業メーカー同士の協業というスタイルが生まれる。


専業メーカー同士のコラボレーションモデル「AVENUE」

 両社による新製品開発がスタートしたのは,約1年半前。当時はというと,現在のようなIT不況など考えられないほどにPC販売が好調な時期だった。「しかし,PCの世帯普及率は50%を超え,いつかは頭打ちになるという危機感が当時からあった」(イーヤマ)。

 一方,オーディオ分野が低迷する中でケンウッドも「AVだけでは生きていけない」との思いを強めており,PC分野への取り組みを模索していたという。

 かつて,ミニコンポを中心にしたオーディオの一大ブームがあった。「17,18年前は,入進学祝いに20万円前後のミニコンポを買ってもらうというのが定番となっていた」(ケンウッド)。つまり,“お祝い需要”がオーディオブームを下支えしていたのである。

 高価な製品を手にすれば,なんとか楽しもうと積極的に取り組むもの。「当時のユーザーは,8バンドのイコライザーで好みの音質に変えてカセットに編集したり,スピーカーケーブルを交換して音を良くしたりと,“能動的”にオーディオに関わっていた」(ケンウッド)。

 しかし,当時は高嶺の花だったミニコンポも,今では2,3万円から買うことができる。CDからMDへの録音はボタン1つで行われ,“音を創る”という楽しみはテクノロジーの進歩とともにユーザーの手から消えていってしまった。「今のユーザーはオーディオ機器に受動的になっている」(ケンウッド)。

 今回のAVENUEは,オーディオの能動的な楽しみをユーザーに提案するPCを目指しているという。

 「ライフサイクル3カ月」といわれるPC業界では,1年半前から新製品の開発を行うというAVENUEのケースは非常に珍しい。しかし,「オーディオ40数年の歴史の中では,製品発売前に綿密な調査を行うのは当たり前のこと」(ケンウッド)。今回の新製品投入にあたっても,多くのユーザーからヒアリング調査を行ったという。製品寿命が短いPC業界へアンチテーゼを投げかけた事例といえるだろう。

 PCにオーディオという能動的な楽しみを付加する「オーディオPC」。PC/オーディオ両分野のメーカーにとってもよい刺激となり,相乗効果で新たな製品につながっていくことを期待したい。

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[西坂真人, ITmedia]

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