News:ウェストコースト通信 2001年12月20日 11:36 AM 更新

ウェストコースト通信:今はまだブロードバンドよりアナクロなサービス

猫も杓子もブロードバンドというご時世。だが,実際に映像などのコンテンツを利用する場合,配信サービスは現実的なメリットを提供してくれるだろうか。国土の広いアメリカで,本当に高品位な映像を楽しもうと思ったら,役に立つのは意外にもアナクロなサービスだったりする。

 なんと便利なサービスだろう。Netflixを利用し始めて,そう思った。同社は,オンラインのDVDレンタルサイトだ。

 ネットでのDVDレンタルなんて聞くと,なんだか今どきアナクロに聞こえるかもしれない。

 でも,ついうっかりしたり,仕事で忙しくて期日までに返却に行けない,なんてこともある。そんなときに取られる延滞料ほど,腹立たしいものはない。レンタル料金そのものよりも延滞料金のほうが高くついてしまったりすることもある。それに,期日を気にかけていること自体わずらわしい。

 また,ハリウッド映画ばかりでなく,メインストリームには乗らないちょっとマイナーな外国映画やインディーズの映画を見たいこともある。そんな映画を探しに,レンタル店に行っても,まず見つからない。

 ところが,このNetflixを使うとそういう心配が要らないのだ。

 同社は,1998年に営業を開始した全米最大のDVDレンタルサイト。30万人以上の会員を有し,米国でDVD化されているものは,ほとんどすべてという1万タイトル以上を揃えている。

 カテゴリーからブラウズしたり,専門家のお奨めやほかのメンバーのレビューを参考にしたりして,自分が見たいDVDをウェブ上で選び,"RENT"というボタンを押す。そうすると2-4日以内に普通郵便でDVDが手元に届く。

 一度に3枚までDVDを手元に置いておくことができ,1枚返送するごとに,自分が選んでおいたリスト上から優先順位の高い順に次のDVDが送られてくる。貸し出し期限や延滞料金はないので,いつまででも手元においておくことができる。

 料金は,月額19.95ドル(税抜)だけ。ほかに一切費用はかからない。手元においておくのが3枚までなら,その月に何枚借りても同じ料金。DVDの往復の郵送料もすべて料金に含まれている。新たなDVDが届いたらすぐに見て返送し,また次のDVDを送ってもらうも良し,そのまま好きな期間だけ手元においておくのも良し。唯一掛かるのは毎月19.95ドルのみだ。

 DVDは薄い紙のカバーに入れられ,普通郵便で1枚づつ別便で送られてくる。自分の宛先が書かれている表面の紙を1枚剥がすと,そのまま返送用の封筒になっているという,きわめてシンプルで合理的な送り方だ。見終われば,この返送用の封筒にいれて,ポストに投函するだけで,選んでおいた次のDVDが新たに送られてくると仕組みとなっている。(ただし同社のサービスは米国内のみ。)

 筆者は,サンフランシスコに居住しているので,Netflixのあるサンノゼからも近い。同社から発送通知を電子メールで受け取ると,その翌日には希望のDVDが我が家の郵便受けに届く。

 こんなNetflixのサービスも,ありとあらゆるものがすぐにネットに置き換わるような勢いだった数年前には,ずいぶんとアナクロで新鮮味に欠けるサービスだと,多くの投資家には受け取られていたようだ。DVDという物理的なメディアを介するのではなく,ネットを通して直接コンテンツの配信が行われる日も目前だと考えれていたからだ。コンテンツのネット配信の方がビジネスとしての将来性を見込まれていたのだ。

 同じことは,オフラインのレンタルショップにも当てはまる。

 全米最大のレンタルビデオ・DVDチェーンは,Blockbusterだ。第2位のチェーンであるHollywood Videoを展開するHollywood Entertainmentの4倍もの売上規模を誇っている。

 このBlockbusterも,つい2-3年前には,ネットによって,程なく置き換えられる犠牲者となると思われていた。同社の親会社であるViacomにとってのお荷物会社と見なされ,株価も低迷していた。店まだわざわざ顧客に足を運ばせ,VHSのビデオテープで映画を貸し出すのは,もはや時代遅れということだった。

 ところがどうだろう。21世紀の初めの年も暮れようとする今もBlockbusterは快調だ。同社の株価も年初来,右肩上がりに推移している。

 確かに,ネットのブロードバンド化は進みつつある。Nielsen/NetRatingsの調査によると2000年11月から2001年11月の1年間に米国での家庭からのブロードバンドによるネットアクセスが90%増加し,2130万人となったという。

 ネットによるビデオ・オン・デマンドでの映画配信も,ソニーとディズニーという2大陣営によって,どうにか始まりつつある。

 いずれは映画も,DVDやVHSのレンタルよりは,ネット配信で楽しむことが主流になるであろう。

 しかし残念ながら,家庭でオーディオ・ビジュアル機器を通じて,気軽に映像配信が楽しめるようになるのは,ゆうに数年は先の話となるはずだ。そのためのインフラ整備に,まだまだ時間がかかるからだ。

 それまで,NetflixやBlockbusterがビジネスを拡大する余地は十分にある。さらに言えば,コンテンツを運ぶ技術は,手段に過ぎないのだ。新たな技術が消費者にとってより利便性の高いものになる機が目前に迫れば,サービス提供業者は技術を乗り換えれば良い。

 その時までには,NetflixやBlockbusterには,顧客リストと好みの映画の膨大なデータベース,そしてCRMのノウハウが築かれているはずだ。特にNetflixには,すでに顧客の嗜好に合わせて映画を推薦する秀逸なウェブもある。顧客とのインターフェースもすでにウェブ上だ。

 後は,コンテンツを郵便が運ぶか,ネットが運ぶか,という違いのみとなる。家庭で映画を楽しむというバリューを得るには,今はまだ,郵便の帯域(バンド)の方が,ネットよりも広い(ブロード)ということは確実だ。

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[小田康之, ITmedia]

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