News 2001年12月31日 04:56 PM 更新

“自作派”に捧げる「CPU&チップセット」回顧と展望〜2001年回顧編

不況不況と言いながら,自作派向けのCPUやマザーボードは売れている。CPUの世代交代をベースに落ち着いた1年になると見られた2001年だが,意外な展開が相次ぎ,予想外に面白い年になった。

 やれIT業界の停滞だ,やれ不景気だ……と世間の話題も暗くなる話ばかりだ。しかし,アキバや全国のパーツショップでは,確かにダメージは受けているものの,なんだかんだと言われながらも高価な製品がどんどん売れていく。まことに不思議な空間である。

 そうした中にあって,こちらもなんだかんだと言われつつも,CPUやマザーボードは中心商品であり続けた。まずはこのCPUとチップセットについて,主に自作派の立場から見た2001年の総括をまとめてみよう。

盛り上がった(?)2001年のCPU業界

 まず,2001年のCPU“ギョーカイ”だが,全体的な流れはCPUメーカーの思惑通りだった。とくに2001年のメインイベントであった,Pentium 4とAthlon XPの世代交代が成功した点は,見事と言うほかない。

 しかし,年初の見通しが狂ったこともある。それは,CPU全体の価格帯が予想を超えて大きく下落したことだ。その直接的な原因となったのは,言うまでもなく,IntelのPentium 4(以下,P4)普及戦略である。P4に対してここまで急激な値下げが行われるとは,従来のIntelの戦略からは考えられなかった。

 AMDもこの価格競争では負けていなかった。一時期はモデルナンバーで(良くも悪くも)大きな話題を提供したAthlon XPだが,実際の店頭販売が開始されれば,そんな噂はどこ吹く風。対抗する(とAMDが位置づけている)クロックのP4より,ほとんどの局面で高性能,かつ低価格とあって,販売実績は非常に好調だ。

 価格の下落もかなりのもので,XPのローエンドとDuronのハイエンドの間で,製品価値がすでに低くなってしまった1GHz以上のAthlon(無印)が,急速に店頭から消えているほどだ。

特筆されるSiSの復活とVIAの性能向上――チップセット

 2巨頭体制に変化がなかったCPUに対して,チップセットは激戦の年となった。サードパーティ製チップセットがIntel/AMD製品に迫る,または超える性能を叩き出すようになり,(ある意味では初めて)健全な競争が可能な土壌が整ったからだ。

 中でも健闘したのは,SiS(Silicon Integrated Systems)だ。同社初のDDR SDRAM対応チップセット「SiS635T」から始まった快進撃は,同社がこれまで暖めてきたロードバランシング(負荷分散)の思想を発展させた,高速内部接続アーキテクチャー「MuTIOL」(Multi-Threaded I/O Link)と合わせ,SiSを一気にトップメーカーに復活させた。

 DOS/V草創期から自作市場を見てきたユーザーにとっては,(当時の)ナンバーワンメーカーの復権を目の当たりにしていることになる。パソコン/半導体業界では“一度落ちたメーカーは二度と這い上がれない”というジンクスがあるが,それをこれだけ派手に打ち破ったメーカーは前例がないだろう。

 本当にしっかりした製品を適切なタイミングで投入できれば,一度落ちたメーカーでも復活できる――この事実には,救われる思いをしている業界関係者も少なくないに違いない。

 同社はさらにIntelよりPentium 4のバスライセンスを獲得し,サポートメーカーを着々と拡大している。その製品であるSiS645も,サードパーティ製P4チップセットのスタンダードにふさわしい出来だ。

 また本来得意とするビデオ統合チップセットに来る激戦に備え,ミドルレンジとして十分な実力を持ったビデオチップ「SiS315」を開発し,これを搭載することで真っ正面から戦う構えを見せている。

 一方の雄,VIA Technologiesは,P4バスライセンス問題や販売戦略ばかりが話題となった感があるが,2001年の同社は,そうした表面上の動きに反するかのように,主力製品を執念深く改良し続けた。その意味で,2001年のVIAについて,業界ベースのニュースと自作派の評価は大きく乖離している。

 これはあくまでも私見だが,2001年のVIA製品は,ついにトップシェアのメーカーにふさわしい性能を持つようになったと言えるのではないだろうか。リファレンスBIOSの改良などでさらなる安定性を獲得できれば,Intelを超えることも本当に夢物語ではない。創業当時から見てきたユーザーにとっては,苦労した思い出の多いVIA製チップセットだが,そうした思い出はもう少しで過去のものとなりそうだ。

 チップセットには“性能が良くない製品はなぜか安定性も今ひとつ(=性能が悪くて安定性のみが高い製品はない)”という不思議なジンクスがあるが,最近のVIAの性能と安定性の向上も,このジンクスに則っているようだ。

 ただし,そうした執拗な製品改良を行うあまりか,リビジョンアップの速度が速くなった感は否めない。実際,パワーユーザーの間では“VIAチップセットは「A」が付いてからが本番”という,どこかで聞いたような格言も出来ている。

i845がi850の人気をもたらした?

 もっとも,IT業界の見方と自作派の評価が乖離してしまったという点では,VIAをもまったく寄せ付けなかったのがIntelだ。その対象になったのが,主力のP4用チップセットである。

 SDRAMの搭載を可能にした“P4のメインストリームチップセット”Intel 845の登場により,なんと(IT業界の間では)寿命近しと見られていたIntel 850とDirect Rambus DRAM(RDRAM)が再評価され,ハイエンド製品として圧倒的な(後述するが,まさに圧倒的な)地位を築いたからだ。

 原因はいくつかあるが,やはり大きいのは,P4用チップセットで初めて性能比較が可能になった点だろう。i845の登場以前は,i850の他にはP4用チップセットが存在しなかったため,i850=高性能という図式の検証が不可能だった。

 ところが比較が出来るようになって,i850はパワーユーザーに受け入れられるまでの性能差を発揮した。おかげでi850は予想できなかった大人気となったのである(ただし,これはP4の主力と見られるSocket 478を搭載した製品に限られたが)。現役の間はあまり人気がなかったのに,(価格帯は異なるとはいえ)新製品が登場してから,突然旧製品の人気が高まった格好で,面白くも皮肉な現象である。

 また,一時期は人気の落ち着いたi845に関しても,今冬の大手メーカー製デスクトップパソコンが多く採用し,さらにDDR SDRAMに対応したことで,自作派向けの製品としても人気を博している。一時期不調だったIntel製チップセットは,年末に来て完全に落ち着きを取り戻したといえるだろう。

2002年展望編に続く

[橋本新義, ITmedia]

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