News 2002年3月25日 10:41 PM 更新

「娘の入園式」――ユニークなアプローチを見せる花少女「Posy」

「PINO」のデザイナーである松井龍哉氏が手がけたもう1つのロボット「Posy」。フラワーガールをイメージしたという可愛らしいデザインは,ファッション業界からも支持を得ている。

 日本SGIとロボットデザイナーの松井龍哉氏が共同開発したロボット「Posy」(ポージー)が正式発表された。


既に各方面で活躍中のPosyだが,これが正式デビューとなる

 2足歩行ロボット「PINO」の妹分にして,フラワーガール(3歳の女の子)をイメージしたというPosyは,昨年5月にウェアラブルコンピュータのファッションショーに登場したのをはじめ,12月にはルイヴィトン札幌店のオープニングイベントでバレリーナの島添亮子さんと共演するなど,各方面で活躍した実績がある。

 今回,正式にデビューすることになったのは,日本SGIのCIキャラクターとして,「全面的にプッシュしていくことになった」(日本SGIの和泉法夫社長)からである。「ブロードバンド時代のナビゲーターとして,Posyというキャラクターを活用していく」。

「受付ロボット」と「フラワーガール」

 Posyのプロジェクトは今から1年半前,東京・恵比寿ガーデンプレイスにある日本SGI本社の受付ロボットを開発する目的で立ち上がった。受付ロボットとフラワーガール。一見,関連性のなさそうな2つのキーワードであるが,松井氏はPosyの生い立ちについてこう説明する。

 「日本SGIのオフィスの空間容積率から,身長90センチという設定になった。日本SGIに最適化されており,Posyが手を広げたときでも,入り口を通ることができる。Posyは,来客に“未来についてミーティングする”という印象を与えるロボット。フラワーガールのように彼らを導く」(松井氏)。

 また,松井氏などが調査したところ,日本SGIを訪れる人の“目線”はだいたい160〜170センチのところにある。Posyを見るには,かがまなければいけないわけだが,「そのときに,人は非常にいい笑顔を見せる。経験的に,このくらいのサイズがかわいいということを知っているのだ。Posyのプロポーション設定には特に気を使った」(同氏)。

 また,こうした開発背景があるだけに,日本SGIロボット事業推進室の大塚寛室長は,「ファッションショーなどへの出演は,われわれにとって嬉しい誤算」と明かした。なお,Posyは今年の秋より,日本SGIのオフィスに導入される予定だ。


ファッション業界に強いPosy。高級化粧品メーカーのゲランの香水「ラブチェリーブロッサム」のイメージガールもこなす。こちらはその衣装。チェリーブロッサムのサイトはこちら。ちゃんと,下着も用意されている

「入園式に娘を連れていくお父さんの気分」

 Posyの発表会は,ROBODEX2002の開催を前にラッシュが続いてるそのほかのロボットの発表会とは,少し趣が異なっていた。何しろ,テクニカルな説明がほとんどないのだ。ニュースリリースにもPosyのスペックシートなどは入っていない。

 大塚氏によれば,これは「戦略的な理由」によるものだという。「Posyはテクノロジーのロボットではなく,新しいマーケティングを展開するためのロボット。テクノロジーを感じさせない雰囲気もそのためだ」(同氏)。

 さらに,大塚氏はPosyが海外のファッションショーに出演したことを,冗談まじりに「海外留学」と呼び,バレリーナと共演したことを「お稽古ごと」と表現した。まるで,大塚氏の目には,Posyが本物の女の子のように映っているようである。


Posyと記念撮影する松井氏(左)と和泉社長。和泉社長によれば,現時点で,Posyをビジネス的に利用しようという考えはないという。「ホンダやソニーのロボットと競合するつもりはない」(同社長)とアプローチの違いを強調した

 さらに,生みの親とも言える松井氏は「今日の記者会見は,入園式に娘を連れていくお父さんの気分」とコメント。ロボットの記者会見なら当然予想される「スペックはどうなっているのか?」という報道陣の質問に対しては,「3歳の女の子の中身に付いてはあまり話したくない。海外では,そういった質問は出ない。日本のマスコミだけ」と答えるなど,徹底してPosyを“女の子”として扱った。

 また,Posyのデザインについて「一部で,顔が恐いという意見もあると思うが」という質問が出ると,「それは知っている。だが,誰もが可愛いと思うようなデザインなどあり得ない。まあ,そういった意見があるのも面白いと思うだけ」(松井氏)とPosyへの溢れんばかりの愛情を示した。

 「技術開発と同時に,人間と関わりあう“仕掛け”が必要。大きな意味でソフトウェアを開発しなければならない。ロボットだからといって,何かをしてくれるとか,何かを手伝ってくれるというコンセプトではない。Posyは,夢をカタチにする技術。幸福に導くための技術でなければならない。これからもいろいろロボットは登場するだろうが,Posyで大事なのは,“世界観”を作り込んでいくこと。これまで,いろいろなアニメキャラクターが登場したが,(世界観のあるキャラクターは)ミッキーマウスしか残っていない」(松井氏)。

 世界観を作り込むために,Posyをロボットとしてではなく,1人の女の子として扱う。松井氏が「今日,この場で感じたことをそのまま表現してほしい」と話したように,「人間とかかわっていくロボット」を徹底的に追及するPosyの存在には,技術的な仕様やビジネス戦略よりも,もっと大事な意味があるのかもしれない。

 実際,最初はロボットを女の子として扱うことに,多少の違和感を感じていたものの,Posyを眺めていると,それが自然に感じられるようにもなってきたから不思議だ。これがPosyの魅力なのだろうか。ただ,それでもやっぱり見てみたいものである。3歳の女の子の中身を――。


と,いうわけで,スペックの話をすると,Posyの材料はFRP。熱を放出するために,メッシュ素材のバージョンもある(写真)。ハードウェアについては,「まだまだ発展途上」(日本SGI)とのこと。今後,音声認識や被写体立体視の機能なども搭載する計画もあるという。ただ,音声合成については「実際にPosyに喋らせることはないと思う」(大塚室長)。自由度は14である

関連記事
▼ 日本SGIがプロデュースするロボットは,「美」を追及する?
▼ SGIと松井氏の“花少女”「Posy」正式デビュー
▼ ロボット社会の伝道師──その名は「PINO」

関連リンク
▼ 日本SGI

[中村琢磨,ITmedia]

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.