News 2002年4月18日 11:59 PM 更新

E-Inkと凸版印刷の“電子ペーパー”――その課題と可能性

電子ディスプレイフォーラム2002のセッションで,E-Inkから電子ペーパーの課題と可能性が語られた。また,ブックフェアでは,E-Inkと共同で電子ペーパーを開発している凸版印刷が,電子ペーパー応用製品の展示を行った。

 新しいテクノロジーの登場によって,これまでになかった新しい市場が生まれていく――特に,成長著しいディスプレイ分野は,このようなブレイクスルーを何度も繰り返してきた。そして今,「電子ペーパー」という次世代ディスプレイに注目が集まっている。

 電子ディスプレイフォーラム2002のセッション「新しいマーケットを創造する新デバイスの動向」の中で,E-Inkアジア地区担当ディレクターの栞田良輔氏が,新市場の創出が期待される電子ペーパーについて語った。

 紙のように薄く・軽く,インクで書いたように読みやすく,さらに電子ディスプレイのように書き換えも可能という電子ペーパーは,さまざまなメーカーが研究開発を行っている。E-Inkの電子ペーパーは「マイクロカプセル型電気泳動方式」という独自の表示方式を使っている。ZDNetでも,何度か紹介しているが,その表示の仕組みはこうだ。

 マイクロカプセルが,透明電極と背面電極との間に敷き詰められている。このマイクロカプセルには,オイルが封入されており,その中に正(+)に帯電した白い粒子(酸化チタン)と,負(−)に帯電した黒い粒子(カーボンブラック)とが入れられている。電極に電圧をかけると,正の電極側には黒い粒子,負の電極側には白い粒子が引き寄せられるのだ。これにより,白黒を表現する。


E-Inkの電子ペーパーの仕組み

 E-Inkの方式では,白黒の2値表現で他のディスプレイ方式を圧倒する表現力を発揮する。「新聞紙(Wall Street Journal紙)の白反射率は64.1%だが,液晶は4%前後。これが,紙のほうが文字が読みやすいといわれる理由だが,E-Ink方式では現時点で31.7%の白反射率を実現している。さらに,コントラストでは新聞紙を上回っている」(栞田氏)。

 紙に匹敵する見やすさを誇るE-Ink方式だが,課題は「階調表現」だ。新聞や雑誌などは,文字とともに写真や絵図が重要な情報源となっている。紙の置き換えを狙うならば,モノクロでも写真や絵の表現ができなければ,使い物にはならない。「絵や図版では最低4階調,写真になると少なくとも16階調以上ないと表現できない」(栞田氏)。

 E-Ink方式では,マイクロカプセル内で黒の粒子と白の粒子とを混ぜることによって階調表現を行う。粒子自体は30〜80マイクロメートルと小さいため,黒と白の粒子の混ぜる比率を変えれば理論的には無限の階調表現ができる。


黒と白の粒子の混ぜる比率を変えることで階調表現を行う

 しかし,粒子に電圧をかけて移動させる際にオイルの中を浮遊するため,電圧を切っても慣性の法則が働いて思うような場所に留めることが難しい。「階調表現が,現在,開発で一番四苦八苦している部分」(栞田氏)。

 オイルの中を粒子が移動するというE-Ink方式は,階調表現のネックとなっているだけでなく,応答速度にも影響している。液晶が10〜30ミリ秒という応答速度に対して,E-Ink方式は150ミリ秒とケタが1つ多い。「しかし,紙の置き換えとしての電子ペーパー用途ならば,この速度でも十分実用レベル。むしろ,電子ペーパー実用化には,階調表現のほうが重要」(栞田氏)。

 E-Inkではこれらの課題をクリアして,2003年の第2四半期までに1〜2種類,そして2003年末までには3〜5種類の電子ペーパー製品を市場に投入する予定。2004年には凸版印刷からカラー対応製品が登場し,2005年までに基板のフレキシブル化を目指している。

ブックフェアで注目を集める電子ペーパー

 電子ディスプレイフォーラムが行われたTFTホールの隣にある東京ビッグサイトでは,東京国際ブックフェア2002が4月18日から開催されている。デジタルパブリッシングのフロアにある凸版印刷のブースでは,E-Inkと共同で開発している電子ペーパーの展示が行われていた。


来場者の注目を集める凸版印刷の電子ペーパー

 階調表現が課題といわれるE-Ink方式だが,ブースでは4階調表現でマンガを表示するデモンストレーションが行われていた。Philipsと共同開発のパネルは,5型(QVGA)で80dpiの解像度を持つ。「遠まきならば4階調でもなんとか見られるが,電子ブックとして手に持つ距離で読むと画面の粗さが目立つ。マンガのスクリーントーンまで表現するには,やはり16階調は最低限必要」(凸版印刷)。


4階調表現でマンガを表示。「スクリーントーンまで表現するには,16階調は必要」(凸版印刷)

 また,電子ブックリーダーのコンセプトモデルも展示していた。ショーケースの隠れた場所に駆動部や電源を置くといった参考展示モデルにありがちなカタチではなく,バッテリーや駆動部を本体に内蔵して単体で動作するという製品化に近いモデルが紹介されていた。画面の大きさは7.5型で,解像度は約170dpi。電子ペーパーならではのコントラストの高さや視野角の広さに,来場者も高い関心を示していた。


電子ブックリーダーのコンセプトモデル


バッテリーや駆動部を本体に内蔵して単体で動作していた

 そのほか,PDA用ディスプレイへの応用例や凸版印刷が得意とするカラーフィルタを使ったカラー表示のデモも行われていた。「2003年に予定されている電子ペーパー応用製品第1弾は,ガラス基板を使ったPDAのようなものになる予定。単なる紙の置き換えだけでなく,さまざまな分野の製品へ応用していきたい」(凸版印刷)。


PDA用ディスプレイへの応用やカラー表示のデモも行われた

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[西坂真人,ITmedia]

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