News 2002年4月26日 07:43 PM 更新

セコムが日本初の食事支援ロボット「マイスプーン」を発表

セコムとセコム医療システムが,さまざまな障害によって手が使えないために介助無しでは食事ができない人をサポートする食事支援ロボット「マイスプーン」を発表した。

 セコムとセコム医療システムは4月26日,日本初の食事支援ロボット「マイスプーン」を発表した。頚髄損傷や筋ジストロフィー,慢性関節リウマチなどさまざまな障害によって手が使えず,介助無しでは食事ができない人をサポートする“福祉ロボット”だ。5月1日から販売を開始する。価格は38万円〜43万6000円で,月額6100円からのレンタル方式も選べる。


日本初の食事支援ロボット「マイスプーン」

 ロボットが実用化されている分野として,福祉(介護)の世界がある。例えば,アゴや口の動きだけで操作できる車椅子は福祉ロボットの1つと言えるし,机などに設置してモノを取ったり本のページをめくったりするアーム型ロボットもある。また,障害者向けだけでなく,介護者側の作業を支援する介護用パワーアシストスーツといったものも,研究されている。

 セコムでは,社会にとって安心・便利・快適なサービスの創造を図るための基盤技術の開発を,同社の研究機関であるセコムIS(インテリジェント・システムズ)研究所で行っている。今回のマイスプーンは,同研究所のロボット研究室で開発されたもの。「1991年から行ってきた医療福祉分野におけるロボット研究の中で生まれた。多くの方の支援を受けながら,実に11年という長い期間を経て,商品化に至った」(同社)。

 “食事支援ロボットでは日本初”というマイスプーンだが,イギリスではRehab Robotics社から「Handy1」という食事支援ロボットがすでに販売されており,多くの障害者がこのロボットを使って食事をしているという。

 「しかしHandy1はスプーンですくう機能しかないため,移動中にこぼれてしまったり,麺類が苦手だったりと食べ物の種類によって食べにくかった。また,欧米製品特有のサイズが大きいこともあり,日本の家屋事情では使いづらかった」(同社)


イギリスRehab Robotics社の「Handy1」

 マイスプーンでまず注目したいのは,そのサイズだ。280(幅)×370(奥行き)×250(高さ)ミリ,重さは約6キロで,机にB4サイズの広さがあれば置けるようになっている。


B4サイズのスペースがあれば設置できるコンパクト設計

 アームの先には専用のフォークとスプーンが取り付けられており,この2本を使って食べ物をつかむことができる。ちょっとUFOキャッチャーを思わせる仕組みだ。操作モードは,自分で自由にアームを操作して食べ物を選べる「手動モード」,4つに仕切られた専用トレイのどの場所にアームを移動させるかだけ選べる「半自動モード」,ボタンを押すだけで自動的に食べ物をつかんで口元へ持ってくる「自動モード」の3種類が用意されている。


専用のフォークとスプーンで食べ物をつかむことができる

 半自動/自動モードでは,口元の位置を設定するだけで,マイスプーンが食べ物を自動検知してつかみ,利用者の口元まで持ってきて止まる。スプーンを持つハンド部分には感圧センサーが組み込まれており,スプーンに口をつけるとフォークがスライドして引っ込み,食べ物だけがスプーンに残るようになる。はさんだり刺したりしたままでは食べづらいが,これなら食べやすいというわけだ。

 また,手動/半自動モードの操作方法も,アゴや指先で操作する「標準ジョイスティック」,手・腕など大きなアクションで扱う「強化ジョイスティック」,押すだけの「自動モード用ボタン」などがあり,利用者の障害の度合いにあわせて操作を選ぶことができるのも特徴となっている。


利用者の障害の度合いにあわせて操作を選ぶことができる

 「機械で食べ物をつかむのは難しいが,マイスプーンなら,ほぼ全ての食べ物に対応できる。スプーンだけではポロポロ落ちてしまうご飯やカラ揚げも食べることができるし,スプーンでは無理だったおソバなど麺類も大丈夫。さまざまな食べ物に対応したり,障害の度合いによって機能が選べるようにしたところで,長い研究期間を費やした」(同社)。

 今回の発表会では,17年前に交通事故で首の骨を損傷し,肩から下が麻痺してしまったという東京頚髄損傷者連絡会の麩澤孝さんがマイスプーンの実演デモンストレーションを披露してくれた。

 8年前からマイスプーンの研究開発に被験者として協力している麩澤孝さんは,「これまで,食事は全て介護者から一口一口入れてもらっていた。何よりも自分の力で,そして自分のペースで食事ができるのがうれしい」と語る。


マイスプーンの実演デモを披露する麩澤さん

 「1人で食べられるので,介護者も一緒になって食事をとることができる。重度の障害者でも,自分の力で食事ができるという喜びをもっともっと多く人に知ってもらいたい。開発に携わった頃に比べると,だいぶシンプルになってきたが,もっとコンパクトになって,レストランなどに持っていけるともっとうれしい」(麩澤さん)。


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[西坂真人,ITmedia]

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