News | 2002年5月31日 03:58 PM 更新 |
4000ライン級超高精細映像システム
展示のもう一つの目玉。展示スペースが狭かったこともあるのだけど、20分待ちの行列ができてた。
現行ハイビジョンの縦横4倍、4320×7680画素(テレビの分野では縦を先に言う)の表示システムだ。もちろんカメラもある。単純比較はできないのだけど、このクラスになると70mm15pの映画(IMAXのこと)の解像度を超えてしまうということになるらしい*5。
ただし、4320×7680画素あるのは、実は緑のチャンネルだけだ。赤と青はその半分の2048×3840。人間の目が解像度を感じるのは輝度データによるものが大きいので、それにもっとも影響の大きい緑だけを2倍にすれば、事実上4320×7680画素あるようにみえるというわけ。「4000ライン級」って“級”の字がついているのはこのためだ。
表示は、2048×3840画素の液晶プロジェクタ2台による。一方は赤と青、他方は緑1と緑2。緑1は赤や青と同じ位置だけど、緑2はそれと縦横画素半分ずれたところに表示されるようになっている。これによって緑は4320×7680画素になるというわけ。
で、実際、これはきれいです。ただ、デモ画像の多くが映画や静止画(4×5のスチールカメラで撮った銀塩写真)を変換したもので、せっかくの超高精細カメラで撮った画像は20秒しかない。公園の何でもない風景だったんだけど、これがいちばんきれいだし説得力があったのに、なぜ?
聞いてみたら、ちょっと意外なことがわかった。このシステム、カメラとプロジェクタはあるんだけど、録画システムというものが存在しないんだって。だからいまのところハイビジョン用のフレームメモリ4台にためておける量のデータしか録画できない。
もちろんフレームメモリからハードディスクに書き出したり、書き出したデータをフレームメモリに戻すことはできるんだけど、それには時間がかかる。リアルタイムではできないから、録画には使えない。というわけで、いまのところフレームメモリにため込める長さの映像しか再生できないのだそうだ。ちなみに伝送系もハイビジョン用の光ケーブル4本を流用してる。
システムとして作り上げるには、まだクリアしなければいけない問題がいろいろあるわけだ。
インテグラル立体テレビ
NHKはいままでも、メガネなし立体映像を表示させる方式を研究してきたけど、その新しいもの。
撮影のときに被写体とカメラとの間に大きな複眼レンズをはさむ(このレンズは光ファイバーを束ねたもので作られている)。こうやって撮影された画像は、本当に昆虫の複眼(なぜか「蝿の眼」とよばれてた)で見たときのようになる。つまり被写体をいろんな角度(複眼の大きさの範囲だけど)から見た小さな画像がたくさん集まったっていう画像になるわけ。
再生するときには、やっぱり複眼レンズを通してディスプレイを見る。すると、撮影のときの「いろんな角度」からの画像が再現されて、立体的にみえるというわけ。
複眼レンズには縦横の区別はないから、寝転がって見たってちゃんと立体にみえる。原理的には立体にみえる視野角も広い(デモは調整が不十分なために、かなり限られちゃってた)。頭を動かせばそれに伴って見え方も変化する。けっこう気持ちいい。
弱点は解像度をあげるのがむずかしいこと。広い画面を分割して使って立体感を出すわけだから、どうしても解像度が犠牲になる。今年のデモは従来の2倍の解像度を実現ということだったのだけど、それでも100×160程度の解像度しかない。
ぐ〜チョコランタン
デジタル放送では、画像データと一緒にさまざまな付加価値情報を送ることができるのだけど、その応用例。テレビと一緒になって踊るぬいぐるみだ。ここでは、「ぐ〜チョコランタン」のキャラクタのうち「スプー」だけが画面の外に飛び出したという設定のコンテンツをデモしていた。つまり、普段は画面の中にキャラクタが4人いるのだけど、ここではスプーは画面にはうつらない。代わりに外側でリアルな物として踊っているわけ。
日曜日には、子どももずいぶん見学に来てたのだけど、かなり人気はあったらしい。わたしが見ているあいだにも、画面とスプーとの間で視線が行ったり来たりする子がいたりした。
確かにここまではおもしろいのだけど、この後どうするのかはむずかしい。おそらく、チューナーからぬいぐるみにはXML的な方法で、「踊れ」とか「回れ」とか漠然とした情報を流しこんで、それをどう解釈するかはぬいぐるみ側によるなんてことになるんだろうけど(そうすれば、スプーじゃなくても、ハム太郎でもAIBOでもつなげるはずだ)。
SMAPがばら売りになってて、一人ずつ買い足すたびに、画面からそとに出てくるようになるってなったら、売れるかな。どうかな。
シリコンICマイク*6
心臓部が2mm×2mmというサイズの、小さなコンデンサマイクユニット。それにもかかわらず、従来のマイク同等あるいはそれ以上の音質を誇る。
マイクロフォンというのは、音波で薄い膜(ダイアフラム)を振動させ、その振動を電気信号に変えるものだ(コンデンサマイクの場合、膜とバックプレートの間の静電容量の変化を取り出す)。このマイクは、そのダイアフラムにシリコンの単結晶を使用したのだ。
シリコン単結晶っていうと半導体の話かと思っちゃうのだけど、ここではそうではない。実はシリコン単結晶は「引っ張り強度が非常に高い(鋼鉄の15倍)」という特性があるのだそうだ。これはダイアフラムとしてはもってこいの性質である。これを使うことで、極小だけど高性能というマイクがつくれることがわかったのだ。
まだ試作品の段階であり、低域は70Hzまでしか拾えていない。しかしこれはケーシングの設計が吟味されていない(っていうより、ただつめただけみたい)ためで、それをきちんとすれば放送用クオリティが得られるはず。とくにダイナミックレンジについては既存のマイクの10〜100倍程度の特性を持っているのだそうだ*7。
そして、シリコンを使ったことで、LSIの制作ラインと同じような形での量産がきく。従来のマイクを作るのにはある程度職人芸的な技術を必要としたのだけど*8、それがいらなくなった。また、マイクロフォンとアンプやDSPユニットをワンチップにしてしまうというのも簡単だ。ノイズレベルを下げるためにユニットを並べたマイクロフォンアレイICなんていうのも考えられる。また、シリコンであり熱に強いから、基板作成時に他のICと一緒にセッティングできるというのもメリットになるだろう。
NHKの製品なので、放送局仕様の48V動作するものなのだけど、設計さえやりなおせばもっと低い電圧で動くものも作れるそうだ。そうなると、携帯電話やICレコーダーなどの用途にはもってこいのものになりそうだ。
ブラットハラー物語
展示順路の最後のほうには「放送を伝えた機器たち」という昔の機器の展示コーナーがあった。そのなかにあったのがこのドイツ・シーメンス社のスピーカー。
1926年頃の製品で、平らな振動板のうらにボイスコイルをジグザグに固定し、全面が同一の力で駆動するというもの。つまり、平面スピーカーなのだ。
既にドイツにもひとつもなく、完全に失われていたと思われていたこのスピーカーが、NHK放送博物館川口資料庫の奥の棚から発見されたのは、2000年12月28日のこと。ごみを取り、ダンパーの調整をおこなって、再び鳴るようにしたのが、これだ。
これが、いい音なのだ。低音こそでないものの、人間の声あたりの音域はすごく自然な音を出してくれる。みんな思わず聞き入ってしまっていた。
技研の一般公開には、元エンジニアみたいなおじいさんがかなりいらっしゃっる。そういう人がいまの技術について質問をしているのは、脇で見ていてもかっこいい。そして、このスピーカーもそれと同じくらいかっこよかった。
[こばやしゆたか, ITmedia]
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
前のページ | 2/2 | 最初のページ