News | 2002年7月3日 11:59 PM 更新 |
7月3日からビッグサイトで催されている「産業用バーチャルリアリティ展」の基調講演で、本田技術研究所常務の平井和雄氏が、同社のロボット開発の経緯や将来展望を語った。
「なぜ自動車メーカーがロボットを作るのかとよく聞かれるが、そのときは『HONDAは動くものなら何でも興味を持つ“モビリティの企業”だからです』と答えている」(平井氏)
本田技研工業は、このモビリティに関する研究機関として1986年に和光研究センターを設立。ここでは、2次元モビリティの研究として、高度な知能を備えて無人で走行できる「自動運転車」や次世代のパワープラントとなる「燃料電池」を、3次元モビリティでは“空飛ぶ自動車”の基礎研究として「小型航空機」をそれぞれ開発している。
「そうすると“4次元”のモビリティは何かということになる。SFではタイムマシンだろうが、ホンダの考えるそれは、人間の分身として動くもの、つまり“人間型(ヒューマノイド)の2足歩行ロボット”ということになった」(平井氏)。
人間と同じ生活環境で動くものとしては、人間のように2足で歩行するヒューマノイドが最も適しているというのが、同社のロボット開発の基本コンセプトだと平井氏はいう。「地上で人間の行っていないところはない。車輪型とかも考えたが、2足歩行ならどこへでも行けるだろうと考えた。しかし、2足で立って歩くというのは、工学的にみてもバランスのよいものではない。単純に難しいものにチャレンジしたい、究極のモビリティに挑戦しようということから、開発が始まった」(平井氏)。
開発当初の研究モデルは、下半身のみの“足だけ”ロボット。「1号機は1歩踏み出すのに約30秒もかかっていた」(平井氏)という。開発が進むうちに、常に身体の重心が足裏の範囲に入るように歩く「静歩行」から、人間と同じように身体の勢いを使ってスムースに歩く「動歩行」が可能となり、「我々のロボット開発の中で最速」(平井氏)という時速4.7キロのスピード歩行や、階段の上り下りができるようになった。
しかし、ここまでの研究モデルが歩行していた地面は、水平器(水準器)でしっかり水平を測った何の出っ張りもない場所。ちょっとでも傾いていたり、障害物があると、転んでしまうものだった。「たった5ミリの板が敷いてあるだけでも、ダメだった」(平井氏)。
これを解決したのは、逆転の発想だった。「それまでの研究モデルには、倒れそうになったときに体を起こそうとする機構が備わっていたが、これを止めて倒れる方向にもっと体を出してやるシステムを組み込んだ。倒れる方向に慣性が働いているところにさらに前に出すと、反力が起こる。車やバイクが加速するときに、前が浮き上がるのと同じ原理。人間も同じようにして歩行している」(平井氏)。
このようなブレークスルーをいくつか重ねて、階段や斜面でも安定した2足歩行ができるようになり、1996年12月に発表された世界初の人間型自律2足歩行ロボット「P2」、1997年9月の「P3」へと続いていった。
「ロボットの応用」をカタチにしたASIMO
「P2やP3を発表してよく聞かれたのは、『何のために使うロボットなのか』ということ。基礎研究には力を入れていたが、正直いって応用はあまり考えていなかった」(平井氏)。
“ロボットの応用”にあたって定めたのは「人間の役に立ち、社会を豊かにするロボット」という理念。「ただし、人が嫌がるような3K(きつい、汚い、危険)の仕事をやらせるのではなく、人間のパートナーとして協調・共存できる存在を目指した」(平井氏)。
P2やP3といったプロトタイプで培ったノウハウを活かして、より実用化に向けた技術の成果として、2000年11月にASIMOが誕生した。
これまでのロボットは、P2が全高1.8メートルで重さ210キロ、小型化したP3でも全高1.6メートルで重さ130キロと、いずれも大柄で重かった。「人間社会に溶け込んで役に立つサイズ、お父さんと子供とで持ち上げられる重量、それがASIMOの大きさの基準になった」(平井氏)。
小型・軽量化をはかったASIMOは、全高が120センチで重さは43キロ。通過する扉や照明の位置、テーブルの高さなどを考慮して、肩の位置(91センチ)や腕を上げた時の高さ(129センチ)が決められ、公共施設の階段の高さを基準にして股関節の位置(61センチ)が決まった。
「もっと高さのある階段も上れるようにするには、足長ロボットを作ればいいのだが、見た目が気持ち悪くてかっこよくない。人間社会に溶け込むために、何よりも人間のプロポーションを崩さないことを考えた」(平井氏)。
近い将来、実際に人間の生活空間で活動することを想定して、同社のロボットは作られている。
「ロボット研究は人間の研究でもある。その研究が、ロボット以外のいろんなものに役立っていく。いつかは人間社会でヒューマノイドロボットが活躍する日を楽しみにしている」(平井氏)。
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[西坂真人, ITmedia]
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