News 2002年7月5日 03:49 PM 更新

デザインと性能は「二律背反」ではない――morph3開発者インタビュー(3/3)


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このコードも特注なんです

古田:センサ類としては、あと各手足全部とお腹に2軸の加速度計が入っています。(お腹には)ジャイロも入ってますし、地磁気センサーも入ってますし、Bluetooth入ってますし。ブザーとかバイブみたいなのもありますし。さっき言ったIR送受信もある。

 ここにのっかっているCPUモジュールはNECエレクトロンデバイスさんと共同で作った全くのオリジナルで、5cm角の中に、VR5500――ちょっと前のSGIのマシンが使ってたCPU――の400MHzと、PCIバスとオーディオと100BASEと、USBもシリアルも全部載っかってるんです

山中:5cm×5cmにノートパソコンが入っている。

古田:モータもそうですけど、コンピュータも根本のところから全部つくってる。(肘のあたりの外に見えているケーブルをさして)このコードも特注なんです。

ZDNet:え!?

山中:こんなコードどこにも売っていない。ここは隠せない部分だから、コードが見えちゃう。でも、こんなところに赤や黄色のラインが見えていると興ざめ。

古田:美しくない。

山中:3A流せて、繰り返しの曲げにも耐えられるっていう、0.7φのシルバーのコード。

ZDNet:被覆はテフロンですか?

古田:そうです。コードまで作っちゃう。ネジも超超ジュラルミン。やりたい放題。

 (足首から下のパーツをさして)、これ削りだしなんですよ。

ZDNet:うわぁ、この辺(足首の前、足の甲の上の空間)全部削っちゃったわけですね。ジュラルミンを。

古田:9割削っちゃった。このヒートシンクなんかもジュラルミンです。

ZDNet:そういえば特注のモータのパワーは、どのくらいなんですか?

古田:morph2の2倍以上。このモータ1個のトルクが、30kgw・cm。軸に1cmの棒つけて30kgの錘を持ちあげられる。ジャンプだってできるはず。でも、着地するプログラムがない。怖くてまだハイパワーでは動かしていないんです。

新しい生き物をイメージした音楽を

ZDNet:音楽は、どういうふうにプロジェクトに絡んだんですか?

DAJI:話すと長くなるんですが。いわゆるロボットではなく、人間とはまたちがうというか、生物的なもののイメージを……。

山中:ヒューマノイドをなぜ作るのか、っていう哲学的な問題になっちゃうんだけど。

 人工知能を研究するためのプラットフォームとして、つまり「身体を持った脳」というものが、将来、「人」に近づいていくであろうということは考えています。

 でも、よく考えて見ると、このサイズの2足歩行の「人」は存在しないし、既存の生物も存在しない。じゃぁ、このサイズで「人」っぽい形で「人」っぽい動きのものを作って、それの自由度を高めるっていうのはどういう意味だろうって、考えれば考えるほど、新しい生き物作っているんだなっていう実感が湧いてくる。    両手両足があって、関節の曲がる所なんかも人に近いんですけど、やっぱり、筋肉の構造も違うし関節の構造も違う。そういうものの性能を最大限に高めるためにデザインしていくと、必ずしも人と似た形にはならない。

 顔なんか、これべつにカエルに似せているわけじゃなくって、目を最優先した形がこうなった。このくらいのサイズで、ある程度カメラで両眼視して距離を計ろうとすると、目と目の距離が必要になる。そのなかで最適化された形っていうのを考えていくと、こういう平たい顔になる。人間と根本的に違うのは、ここに脳が入っていないってこと。だから、人間みたいに上のほうにでかいかたまりである必要はない。

古田:というふうにやっていたら、生き物ができちゃったわけです。じゃぁその生き物にふさわしい音楽を作ってもらっちゃいましょうっていうわけ。

 彼は、インディーズ系では有名な方なんですよ。スカイパーフェークトTVでは15分の番組も持っているくらい。それで、彼に頼んで。

 最初に曲を作ってっていったときにできてきた曲は、morph2のイメージだった。まだ3ができてなかったんで、あたりまえなんですけど。ビートの効いたテクノなイメージ。でも、「いやぁこれだと違うんで」って、はじめて3をお見せして。山中さんからもこういう不思議な生命体のイメージでって。それから18時間でつくってくださったのが、(音楽の入ったCDをさして)これ。コンサートの翌日に!

DAJI:私は普段は「宇宙博覧会」というのをやってて。

古田:レーベルを主催しているんですよ、彼。

DAJI:シンセサイザーを絶対使わなきゃいけないっていうバンドの団体。どんなにうまくてもシンセサイザー使っていない団体は参加できない。

古田:彼がmorphにぴったりのイメージの曲をがんがん作ってくれるんですよ。うれしくなっちゃって。

DAJI:毎月コンサートやってます。

古田:ほんとに才能あふれてて、ぼくとしてはラッキーなんですよ、こういう形で、morphのテーマつくってもらえて。おいしすぎちゃって。ほとんどボランティア。

ZDNet:(超超ジュラルミンの)ネジ代くらい、出ないんですか?

「すべての機能をenableにしなきゃ」

ZDNet:morph2からmorph3への移行というのはいつからはじまったんですか。

古田:morph2ができたその日か次の日くらい。ほんとにできたてのほやほやのときに(morph2を)山中さんに見てもらって。夜中でしたよね、あれ。12時くらい。

 だから、10月から始まって、本格的には年明けから。山中さんとは、すごく、やりとりやりとりやりとりしてつくっている。

ZDNet:ロボット自体は先鋭的ですけど、そのやり方は、昔ながらですね。

山中:設計とかデザインとかっていう目で見ると恐ろしくオーソドックスなやり方です。逆に、いま黎明期にあるロボットだからこそ、そういうきちっとしたオーソドックスなやり方が通用する。というか、だれもやっていない。意外にね。

 (いまのロボットデザインは)なんとなく惰性で、カバーデザインと中身っていう風にやっているんだけど、黎明期なんだからもっとオーソドックスなやり方でやれるんじゃないかなって。

ZDNet:だんだん、morph3が、鉋(かんな)みたいな「道具」と同じように見えてきました。

古田:いやぁ、でも、これからですよ。ソフトつくって、すべての機能をenableにしなきゃいけない。

ZDNet:それはどのくらいかかるのでしょう?

古田:目標は2〜3週間以内。RoboCupにはまにあわなくて。

ZDNet:全てがenableになったときにまた見たいですね。

古田:ぜひ見に来てください。ポスターつけますから。

 というわけで、morph3のポスター(A3版)を読者プレゼント用として10枚いただいてきました。絵柄は、このサイトにある写真をベースにしたものです。ご希望の方は、編集部宛てに【morph3ポスター応募】という件名でご応募ください。当選は発送をもってかえさせていただきますので、氏名・住所をお忘れなく。

[こばやしゆたか, ITmedia]

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