News | 2002年9月13日 11:16 PM 更新 |
次世代PCの新たなスタイルとして、マイクロソフトが現在最も力を入れている「Tablet PC」。ペンでPCを操作したり、文字や絵を手書きで入力できるペンオペレーションが特徴だ。
このTablet PCで欠かせないキーデバイスが、ディスプレイ上に直接入力できる液晶一体型ペンタブレット。実は、今秋に各PCメーカーが発売するTabletPCに使われているペンタブレットのほとんどが、日本のペン入力タブレットメーカー「ワコム」のデバイスを採用しているのだ。
そのワコムが9月13日、Tablet PCで採用された同社のペンタブレットデバイスに関する技術説明会を開催。同社常務・電子機器カンパニープレジデントの山田正彦氏が、次世代PCに採用された同社デバイスの特徴について語った。
山田氏によると、今秋発売されるTablet PCの中で、同社のペンタブレットデバイスを採用している機種は、Tablet PC全体の約8割を占めるという。「初期ロットでは他メーカーのデバイスを採用したが、次期ロットで当社製に変更するところも含めると、Tablet PC全体の9割近くがワコムのペンタブレットデバイスを採用することになる」(山田氏)。
ペンタブレットには、感圧方式、超音波方式、静電容量方式など、さまざまな入力方式がある。PDAなど携帯情報端末では感圧方式が主流だが、液晶の表面にタッチパネルを装着するため、液晶パネル本来の明るさや鮮やかさ、色あいなどが損なわれてしまう。また、手で触れることにも反応してしまうため、誤動作を招きやすいという問題もあった。
今回、マイクロソフトが提唱するTablet PCの仕様では「電磁誘導方式」と呼ばれる入力方式が採用された。タブレットセンサーと座標指示器(ペン)の間に発生する電磁誘導を利用したこの方式は、液晶の裏側にセンサー基板を装着するため、タッチパネルのように液晶の表示品質を損なうことがない。また、センサー基板が内部に収納されるため、耐久性や信頼性においても優れているのが特徴だ。
「なによりも、電磁誘導方式は専用ペンにしか反応しないため、手で触れたことによる誤動作がなくなる。これが操作画面が大きいTablet PCにとって欠かせない点だ」(山田氏)。
ただ、電磁誘導方式の技術自体はワコム独自のものではない。それではなぜ、同社のペンタブレットデバイスが、多くのPCメーカーの支持を得たのだろうか。
電磁誘導方式では、座標指示器から磁力線を発生させなくてはならない。そのため従来製品は、ペンにコードや電池を組み込む必要があり、使い勝手の悪さやサイズの制限、電池交換の不便さなどがあった。だが、ワコムが開発した独自の電磁誘導方式ペンタブレットでは、ペン側にコードや電池が必要ない。
世界的な特許も有する同社の独自技術の仕組みはこうだ。
センサー基板には複数のセンサーコイルが配置し、ペンにはコイルとコンデンサで構成された共振回路を内蔵。センサーコイルに電流を流すとタブレットの前面に磁界が発生し、それがペンの共振回路にエネルギーを蓄える。次にセンサーコイル側の電流を止めて、ペンに蓄えたエネルギーを使ってペン側から磁界をセンサーコイル側に送り返す。これを高速に繰り返すことにより、位置や角度、操作状態などといったペンからの情報を検出するのだ。
「電池を内蔵しなくていいため、ペンのサイズやカタチを自由に作れる。そのほか、ペンに内蔵した圧力センサーを使った512レベルの筆圧感知機能や、マウスのクリック操作を行えるペンのサイドスイッチ機能といった同社独自技術も評価された」(同社)。
もともと同社では、Cintiqシリーズなどで大画面の液晶一体型ペンタブレット開発技術を培ってきた。さらに、Tablet PC向けに低消費電力のコントロールICを新たに開発し、ペンを検出するセンサー基板も8.4/10.4/12.1インチの3タイプを用意。また、それまでセンサー基板の周囲に設置していたコントロールICの位置を裏側に変更することで、スペースの限られたノートPCの液晶ユニット部に組み込みやすくしている。
「3年前からMicrosoftとTablet PCに関する仕様の意見交換や技術協力を行ってきた。Tablet PCの直感的なペン入力によって、コンピュータが“清書マシン”から“思考を助けるマシン”になる。将来的にはCPUやHDDといったハードスペックが表に出なくなり、“ペン+ディスプレイ=コンピュータ”という世界になっていくのでは。キーボード操作は知らないけれど、コンピュータを扱えるという時代がくる」(山田氏)。
[西坂真人, ITmedia]
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