News 2002年11月1日 04:13 PM 更新

“100インチ以上”を現実にする、プラズマディスプレイの新技術

「大規模な生産設備が必要なので、100インチ以上は非現実的」といわれているPDP。だが、富士通研究所が開発した画期的な手法によって、それも夢ではなくなった

 70−80インチが限界で、100インチ以上はその構造から実現は難しいと言われているPDP。「LCD/PDP International 2002」のセミナーで講演した富士通研究所主任研究員の栗本健司氏は、同研究所で開発を進めている100インチ以上のPDPを可能にする「プラズマチューブアレイ技術」について語った。

 PDPは、薄い2枚のガラスを重ねたシンプル構造を生かして、大画面の薄型ディスプレイを実現している。現在の世界最大サイズは、今年1月にSamsungが発表した63インチだ。それまでは、昨年6月に発表したNECの61インチが最大だった。PDPは1996年あたりから30インチ以上の大画面が登場して、以後40、50インチと順調に画面サイズが広がっていったが、近年はNECの61インチからSamsungの63インチというように、小幅なサイズアップにとどまっている。

 栗本氏は「PDPで100インチというのは技術的には不可能ではないが、その特徴的な構造から大規模な生産設備が必要で、非現実的」と語る。


「PDPで100インチ以上は非現実的」と語る富士通研究所主任研究員の栗本健司氏

 標準的なPDPは、前面板/背面板と呼ばれる2枚のガラス基板を張り合わせて作る。つまり、画面サイズの拡大は、張り合わせるガラス自体が巨大化するということを意味し、それだけのガラス基板を生産できる大規模な生産工場や製造設備が必要となる。またPDPはホコリを嫌うため、封止の際にはクリーンルームも必要だ。100インチ以上となると、ガラス基板サイズは3×2メートルになる。栗本氏は、このような大規模投資を行ってまで100インチ以上を狙うメーカーは出てこないだろうと予測する。

 富士通研究所は、巨大な1枚サイズのガラス基板が必要というPDPの構造が、サイズアップの原因となっている点に着目。ガラス管(チューブ)の中にPDPと同様の構造を作りこみ、それを並列配置することでディスプレイを形成するという画期的な手法を開発した。「直径1ミリのガラスチューブの内側に酸化マグネシウムの膜を形成。RGBの蛍光体を塗布して放電ガスを入れ封止する。PDPと同じ構造を持つこのプラズマチューブを横にズラっと並べることで、100インチ以上の大画面を可能にする」(栗本氏)。


従来のPDPは巨大なガラス基板が必要。プラズマチューブは直径1ミリ(配布資料より作成)

 この方法だと、画面サイズはプラズマチューブの並べる本数によっていくらでも広げることが可能となる。チューブの長さは2−3メートルを目標としているとのことなので、16対9の横長ワイド画面を作るなら、縦にチューブを並べることで150−250インチという超大画面も可能になるのだ。


画面サイズや形状は、チューブの並べ方しだい(配布資料より作成)

 この独自チューブ構造は、大画面以外にもメリットがある。「例えば、チューブを弧を描くように並べれば、湾曲した大型ディスプレイも簡単に作れるなど、画面形状もチューブの並べ方次第で自由にアレンジ可能。また、従来のPDPよりもセルサイズが大きいことから、高い発光効率が期待できるほか、発光方式は従来と変わらないため駆動回路なども流用できる」(栗本氏)。

 そのほか、直径わずか1ミリのプラズマチューブを作ればいいために生産設備も小規模で済む点や、新たな製造装置を作らなくてもいい点、内部にホコリが入りにくい構造なのでクリーンルームも不要な点など、製造面でのメリットも多い。富士通研究所では、現在までにすでに100本以上のプラズマチューブを試作しており、50本×50セル(25センチ)のプラズマチューブアレイを形成して実験を行っているという。

 「課題は、均一なPDP構造を持ったガラスチューブをいかに低コストで作るかという点。また、電極の部分が均一になるようにしなければいけない点も難しい。パネルの寿命は、蛍光体の寿命に依存するため、従来のPDPと同じレベルになる。プラズマチューブアレイを使ったディスプレイ製品化は3年後ぐらいを目標としている」(栗本氏)。

関連記事
▼ 40インチで100ワットも視野に――プラズマディスプレイの「可能性」

関連リンク
▼ 富士通研究所

[西坂真人, ITmedia]

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.