News 2002年11月21日 03:54 PM 更新

“3GHz”と“PCケース”の微妙な関係

PCケースが、Pentium 4/3.06GHzの登場によってさらなる性能向上を求められている。このCPUによって一番大きく変わるPCのパーツは、もしかするとPCケースかもしれない

 最近のインテル製CPUの中でも、Pentium 4/3.06GHzはひさびさの目玉といえる存在だ。クロック周波数の3GHz超えに合わせて、これまではXeonシリーズのみだったハイパースレッディング(Hyper-Threading)機能を搭載。これが大きな話題となっているからだ(11月14日の記事参照)。

 こうした大きな変化のあったCPUを扱う場合、マザーボードや電源、CPUクーラーといった“定番パーツ”がこれに対応しているかどうかをきちんと確認する必要がある。これはPCの自作をする人にとっては常識の部類ともいえることだろう。しかし、今回は、場合によってはPCケース(きょう体)まで、対応を気にしなければならないようだ。というのも、P4/3.06GHzでは、PCケースまでを含めた総合的な熱対策が必要になるからだ。

 このあたりの事情には、若干の説明が必要だろう。

 ここ最近では、CPUがリリースされる時に「TDP」というスペックをよく聞くようになった。これは“Thermal Design Power”の略で、CPUの冷却機構を設計する際に、フル稼働させた場合の目安となる消費電力のことだ。

 P4の場合は、インテルのサイトの「インテル Pentium 4 プロセッサ 製品:プロセッサ 仕様一覧 3」というページに「最大消費電力」として表示されているデータが見やすい。

 これを見てもわかるように、従来のPC向けCPUでTDPが最も大きかったのは、P4/2GHz(Willametteコア版)の75.3ワットだった。しかしP4/3.06GHzでは81.8ワットと、80ワットの大台をついに突破している。Northwoodコアで1ランク下の2.8GHz版では68.4ワットに抑えられていたのだが、クロック周波数と動作電圧の上昇(1.50ボルトから1.55ボルトへ)、それにハイパースレッディング機能の搭載などで、一気に消費電力が増した格好だ。

 この“1ランク上昇した発熱量”を処理するために、インテルではP4/3.06GHzの動作条件では、ケースを含めた総合的な熱対策を求めている。

 こちらの具体的なデータは、米Intelの「Intel Pentium 4 Processor with 512-KB L2 Cache on 0.13 Micron Process Thermal Design Guidelines」という技術文書の16ページに記載されている。

 要約すると、2.8GHz版まではCPU周辺の外気温度は摂氏45度までを許容するが、P4/3.06GHzでは同42度までとなった。いくつかのメディアで報道されている“P4/3.06GHzではCPU周辺の気温を3度下げなければならない”という情報は、この条件から出ているものだ。

 こうした条件の引き上げの結果、いくつかのPCケースメーカーでは、対策を施した製品を用意している――というわけだ。そのため、ここ数カ月のPCケースのトレンドは、“P4/3.06GHz(以上)対応”ともいうべき、冷却性能(というより放熱性能)の向上になりそうなのである。

“左側面に穴”が一般的に?

 水冷・液冷を使わない一般的なPCケースにおいて放熱性能を向上させるには、基本的にはいかにスムーズな空冷を行えるかによって決まる。つまり、いかに多く・素早く外気(=冷たい空気)を取り入れ、反対に内部で熱された空気をどれだけスムーズに排出できるかが重要となるわけだ。

 実際の対策として有効なのは、冷却ファンの数を多くすることだ。ただしこれは、当然稼働音を大きくする。また、内部のエアフロー(空気の流れ)が効率的になるように設計しなければ、逆効果となることもある。冷却ファンをケース内に多数設置した場合、ファンの風向きを考慮しなければ、対流が起きない“熱だまり”を作ることにもなるからだ。

 では、メーカーは、具体的にどんな対策を講じようとしているのだろうか? それは、ベーシックながら、力業でCPU周辺の通気性を可能な限り確保する方法らしい。

 CPUクーラーや高級ケースで知られる台湾Cooler Master社の新製品「ATC-201A-SX1」の写真を見れば、これは一目瞭然だ。従来のケースではあまり見られなかった、巨大な冷却口が左側面に開けられているからだ。従来もサーバ用ケースや小型のケースなどでは、左側面にファンが装着されている製品もあったが、ある程度、放熱性能に余裕のある一般的なタワーケースで、ここまでの対策がされるのは非常に珍しい。

 同製品のリーフレットには“Best Solution for INTEL P4 3.2GHz & Above”とのキャッチコピーが掲げられていることから、さらに次世代を見据え、余裕を持たせた設計であるようだ。


ATC-201A-SX1。左横に設けられた10センチ角の冷却口が非常に目立つデザインだ

 また、同社がこのケースとの実質的なコンビ製品として位置づけているCPUクーラー「Cool Canon」の製品紹介(現在、このページの下方にある)には、「Intel推奨の側板にダクト孔のついたケースに最適です」という一文もある。これを信じるとすると、どうやらこうした冷却口の設置は、Intelが推奨する策なのらしい。

 だとすれば、この“左側面に穴”――つまりケースのCPUにあたる位置に穴が開けられた同種のケースが、今後急増する可能性が大きいといえる。

 ただしこの解決策は、デザイン面で難色を示すユーザーが多いのではないかと思われる点(個人的にも、あまり格好いいものとは思えない)や、設置場所に対する制限が加わる(この冷却口をふさがないように設置する必要がある)点から、ある意味“やむを得えず”やっているという印象を受ける。

 また、メーカー製PCでは、エプソンダイレクトの「MT7000」などのように、背面の排気ファンのみで定格範囲の熱設計を実現している製品もある。そのため、余裕度を追求するのでなければ、必ずしもP4/3.06GHzの搭載に際して、こうした大胆な放熱構造が必要というわけではないようだ。

 ただし、だからといって、全く対策を行わなくてもいいという話では絶対にない。これからのCPUの発熱(P4だけでなく、Athlon XPも例外ではない)に対して、どれだけ効率的な放熱機構を提供できるのか――これは、ケースメーカーの目前に突きつけられたひとつの大きな課題であることは間違いない。

 当然、この問題はPCを自作するユーザーにも降りかかってくる。ケースの選定をこれまでにも増して慎重に行う必要が出てくるからだ(ただ、逆にこうした大きな変革期は、通例では面白い製品が多数登場してくることが多い)。

 P4/3.06GHzの登場で最も影響が大きいパーツはPCケースである――筆者がこう考える理由を、これでお分かりいただけただろうか。

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[橋本新義, ITmedia]

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