News 2002年12月3日 11:33 PM 更新

ゲーム機のワイヤレスコントローラが少ない理由

ゲーム機コントローラのワイヤレス化ニーズは高いにもかかわらず、製品は少ない。そこにはデータ伝送の遅延の克服や、省電力化、コスト面などさまざまな理由がある。その中には、普及が進まない“Bluetooth”が抱える問題も含まれている

 “ワイヤレス”が全盛だ。無線LANは急速に普及しており、マウスやキーボードもワイヤレスが増えてきた。コードレス電話はもはや当たり前だし、AV機器や空調設備だけでなく照明にもリモコンが付き始めている。ソニーの「エアボード」のように、TVもワイヤレスで視聴する時代になっている。

 そんな中、邪魔なケーブルをいつまでも引きずっているのが、ゲーム機だ。1994年12月の発売から今年で8周年を迎えるシェアナンバー1ゲーム機のプレイステーションでさえ、純正品でのワイヤレスコントローラはこれまで発売されなかった。サードパーティから赤外線方式などでいくつか発売されてはいるが、いずれもソニー・コンピュータエンタテインメント(SCE)のプレイステーションロゴライセンスを取得した認定品ではない。

 そのプレイステーション用のワイヤレスゲームコントローラ「CORDLESS CONTROLLER」が、いよいよ12月12日にロジクールから発売される。「SCEのプレイステーションロゴライセンスを取得した初めてのワイヤレスゲームコントローラ」(同社)だ。


プレイステーション用のワイヤレスゲームコントローラ「CORDLESS CONTROLLER」

 この新製品の特徴は、ワイヤレス通信方式に独自の2.4GHz帯無線周波数技術 「2.4GHz Cordless Freedom」を採用している点。ロジクール インタラクティブエンタテインメント事業部の堀田正幸氏に、新製品に搭載された最新無線技術の詳細や、ゲーム機コントローラのワイヤレス化の難しさについて聞いた。

 「家庭用ゲーム機のワイヤレス化は、むしろPCのマウスやキーボードよりもニーズが高かった」と堀田氏は語る。PCはある程度決まった場所で操作するため、マウスのケーブルに足を引っ掛けるということは少ないが、リビングのTVで楽しむゲーム機はケーブルにつまづくというケースは多い。

 「遊んでいくうちにエキサイトしてコントローラをつい振り回してしまうこともゲーム機にはよくあること。逆にマウスやキーボードでエキサイトすることは少ない。ゲーム機こそ、ワイヤレスによる恩恵が一番ハッキリ表れる」(堀田氏)。

 それでは、なぜ今までワイヤレス化がなされなかったのか。

 「一番の問題は、ワイヤレス化にしたときのデータ伝送の“遅延”。ゲーム機では、それが致命傷となる」と堀田氏はいう。

 マウスなどは少々の遅延があってもさほど気にならないものだ。それでも、同社が先日発売したコードレスマウス「MX700」などは、Fast RFという無線技術を使って、できるだけ遅延をなくしてレスポンスを高める努力が施されている。

 それが、ワンボタンで勝負が決まるゲームの世界になると、遅延の問題はさらにシビアになる。ボタンを押したときに画面上のキャラクタに素早く反映されなければ、アクションゲームなどでクリアできないという問題も発生するからだ。


 「海外では、900MHz帯を使ったワイヤレスコントローラも出ているが、この周波数帯域ではビットレートが低くてレスポンスが悪くなってしまう。また、900MHz帯は家電製品のコードレス機器も使っているので、干渉したりノイズが発生してそれが遅延となる。ましてや、伝送速度が遅く、見通しが無ければ通信できない赤外線方式は論外」(堀田氏)。

Bluetoothが抱える問題

 伝送速度が速く、ノイズなどにも強い無線通信方式がないわけではない。例えば、IEEE802.11bなどの無線LANやBluetoothなどだ。それでは、なぜこれらの無線通信方式を使わないのか。

 「やはり、コストの問題が大きい。Bluetoothや無線LANを使うと、コントローラの価格が数万円レベルになってしまう」(堀田氏)。

 本来、Bluetooth技術は、ゲーム機コントローラのようなコンシューマー機器のワイヤレス化を促進するためのものだったはずだ。しかし、実際にはBluetoothを搭載するとコスト高になってしまう点がネックとなり、普及は遅々として進んでいない(別記事を参照)。

 同社でも、Bluetoothを使ったワイヤレス製品として、プレゼン用ポインティングデバイスを発売している。だが、その価格は実売で3万円弱と決して安くない。堀田氏は、マウスではなくコントローラとなるとさらに部品点数も多くなり、3万円は確実に超えてしまうという。

 もう1つ問題なのは、消費電力。プレイステーションシリーズはコストを抑えたハード設計を行っているため、電源ユニットも必要最小限のものしか搭載されていない。そのため、コントローラへの電力供給も少なく、SCEの規格としてコントローラの電力消費は20ミリアンペア以下にすることが定められている。

 「20ミリアンペアという少ない電力では、ワイヤレスコントローラを操作できるだけの電波を飛ばすのが非常に困難。このコントローラへの供給電力の少なさが、ワイヤレス化を阻害する原因だった」(堀田氏)。

 実は、同社のワイヤレスコントローラ新製品には、Texas InstrumentsのBluetooth用省電力型トランシーバチップ「TRF6001」が使われている。ただし、Bluetoothのプロトコルは使わず、毎秒250回の速さで周波数ホッピング(自動切換え)を行う独自のプロトコルを採用している。

 「独自プロトコル採用の理由は、やはり“コスト”と“消費電力”。Bluetoothプロトコルを使わないことでロイヤリティコストを抑えられる。またゲーム機のコントローラにBluetooth方式の仕様はオーバースペックで、その分消費電力も多くなっている。独自プロトコルでは、電力をできるだけ抑える仕様にしている」(堀田氏)。

 ただし、周波数ホッピングなど、基本的にはBluetoothの技術を踏襲しており、PS2のコントローラに要求されるデータタイミング(16ミリ秒)の4倍のスペックを確保している。

 「ワイヤードコントローラと同等のリフレッシュレートを可能にし、動きの速いゲームでも安心して使用できる。ホッピングによってノイズの干渉にも強くなっている。操作可能距離も、公称では受信機から半径6メートルとなっているが、実際には10メートルぐらいは届く」(堀田氏)。

 コンシューマー向け製品の近距離無線技術として期待されているBluetooth。しかし、今回のワイヤレスコントローラ新製品には、Bluetooth用の部品を使っているにもかかわらず、Bluetoothライクな通信プロトコルを採用しなければいけなかった。ここにBluetoothが抱える問題が見え隠れする。

 「将来的にはBluetoothに収束されていくだろうし、当社もBluetoothは推進している。だが、コスト面や消費電力の面で、現時点でプレイステーション用ワイヤレスコントローラなどにBluetoothが採用されるのは難しい」(堀田氏)。

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[西坂真人, ITmedia]

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