News 2002年12月6日 11:40 PM 更新

世界初の「成層圏無線中継」で見えてきた通信・放送の“新たなプラットフォーム”(1/2)

通信総合研究所(CRL)が6日行った研究報告会で、HDTVデジタル放送やIMT-2000通信が実証された世界初の「成層圏無線中継」の実験概要や、成層圏プラットフォームの有効性などが紹介された

 通信総合研究所(CRL)は12月6日、横須賀リサーチパーク(YRP)ホールを会場に研究成果を一般に紹介する「CRL第103回研究報告会」を開催。今年6−7月に行った世界初の「成層圏無線中継」の実験概要と、成層圏プラットフォームの有効性が紹介された。

 広帯域アクセスネットワークや移動体通信、デジタル放送システムなど通信・放送の最先端分野で、「成層圏プラットフォーム」が注目されている(詳細は昨日の記事を参照)。国内では、省庁が連携して成層圏プラットフォームに取り組んでいるが、CRLでは省庁連携プロジェクトで掲げられている「成層圏を利用した無線通信・放送ネットワーク」の研究を行っている。

成層圏プラットフォームは“地上20キロにある電波タワー”

 なぜ成層圏プラットフォームが、通信や放送の分野で期待されているのか。

 通信総合研究所(CRL)横須賀無線通信研究センターの三浦龍氏は、既存の無線通信システムの問題点について「静止衛星や非静止衛星による無線通信は、地上から距離があるため伝播の遅延・減衰が大きい。また、地上に基地局を設置していく現在の方法では、通信エリアを確保するためのインフラ整備にコストと時間がかかる」と指摘する。


通信総合研究所(CRL)横須賀無線通信研究センターの三浦龍氏

 それが、成層圏プラットフォームでは、地上から20キロメートル程度の成層圏に飛行船など高高度飛行体を滞空させて中継させるため、電波の減衰や遅延が少なく地上インフラと同等の伝送品質を得られるほか、高高度飛行体1機で広範囲をカバーできるのが特徴。

 「空には電波を遮蔽するものがないため、地上設備に比べて圧倒的に電波の見通しがきく。そのため、非常に小さな送信でも、広いエリアに電波が届く。例えば、東京タワーから出力されるTV電波の送信出力は50キロワットだが、成層圏プラットフォームではその約1000分の1、わずか数十ワット程度で東京タワーと同じぐらいのカバレッジ性能がある。成層圏プラットフォームは“地上20キロにある電波タワー”なのだ」(三浦氏)。

「HDTVのデジタル放送」と「IMT-2000通信」で成層圏プラットフォームの有効性を実証

 米国NASAと共同で行われた今回の成層圏無線中継プロジェクトは、NASAとAeroVironment社が開発したソーラープレーン「Pathfinder Plus」が使われた。これは、2001年8月に高度約30キロメートルのフライトを成功させた「Helios」の前身となったソーラープレーンで、Pathfinder Plus自身も高度24キロメートルの成層圏飛行が行える立派な“高高度飛行体”だ。


実験に使用したソーラープレーン「Pathfinder Plus」

 ハワイのカウアイ島上空で行われた今回の実験で用意されたミッションは「HDTVのデジタル放送」と「IMT-2000通信」という2つのみ。「世界初の実験なので、シンプルな実験システムで臨んだ。6月24日、6月28日、7月20日の計3回の飛行テストが行われた」(三浦氏)。


翼の下に設置してあるのが無線中継器

 Pathfinder Plusが積載できる重量は、わずか50キログラム。それもバランスをとるために両翼に分散しなければならないため、実験機材は25キログラム以下に抑えなければならない。CRLでは、デジタルTV放送用とIMT-2000用(フォワードリンク用とリターンリンク用)の計3台の無線中継器を特注。中継器の重量は3台とも18キログラムに抑えた。


CRLが用意した実験用無線中継器

 「デジタルTV放送の実験では無線中継器は片方のみだったので、もう一方には同じパッケージングの中にPC(マッキントッシュ)や携帯電話、ボールペンなどをオモシ代わりに積んだ。成層圏では気温もマイナス数十度になるなど過酷な条件となるが、フライト後も搭載した機器は問題なく使えた」(三浦氏)。

実験は2勝1敗。だが、失敗から大きな収穫も

 計3回のフライトでは、初回がHDTVデジタル放送、あとの2回でIMT-2000通信の実験が行われた。

[西坂真人, ITmedia]

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