News 2002年12月10日 05:44 PM 更新

CD-Rの「音」を考える
「良い音のCD」はどうやって作るか(1/2)

ユーザーが耳にするオリジナル音源といえば、市販の音楽CDが一般的だ。しかし、これもその製造工程で大きく音が変化することは、意外と知られていない。CD-Rの音を考える上でのヒントとして、高音質のCD製造で知られるビクターに、どこにこだわり、何がCDの音に影響を与えるのかを聞いた

 「自分たちがこだわって作ったマスターテープにできるだけ忠実にCDができてほしい。(できあがったCDの音がマスターテープと)変わっていて当然なんですが、できるだけ差を少なくしたいという思いが常にあります」。

 ビクターエンタテインメント ソフト技術部長 高田英男氏(ビクタースタジオ長)は、同社の音楽CD制作に対する考えかたをこう話す。そこには、常に良い音をユーザーに聞いてもらいたいという“質”に対する“こだわり”がある。

 「それは当然あります。アーティストの方から含めると、オーディオ的にこだわる人もいますし、音楽的にこだわる人もいます。その辺はすべてつながっています」(高田氏)。

 同氏の音への姿勢は、スタジオにも生かされている。「この部屋(スタジオ)もそうですが、すごい細かい部分にこだわっているんです。それはなぜかというと、やっぱり良い音にしたいというのがあって。われわれは、マスターテープを作るまでは、ほんとにこだわってこだわってこだわってやっているんです。ですから、(プレスしたCDも)できるだけ忠実に作りたい。実際、われわれは印刷したCDとマスターテープをもう一度聞き比べてます」。

 この“CDの音をマスターテープに近づける”ため、ビクターとビクターエンタテインメントでは最近、「エンコードK2(ENC K2)」という技術を共同開発している。

 その開発責任者でもあるビクター AV&マルチメディアカンパニー AVM商品開発研究所主任技師の桑岡俊治氏も、「音楽のクオリティをできるだけ良い形でお客様に伝えることを手助けするのが、われわれの技術」と、口をそろえる。

 では、どういった手法を用いて音楽CDの音質向上を図ったのだろうか。

市販の音楽CDのプレス原盤作成までの3つの工程

 桑岡氏によると市販のプレス原盤作成までには3つの工程があるという。「まず、マスターテープを再生するプロセス。これは、マスターテープをUマチックで再生してPCMのデータを落とすというプロセスです。次が、そのデータ(PCMのデータ)をCDのフォーマットに組み立てなおすというプロセス。これは、EFM信号に組み立てなおすというエンコーダプロセスです。最後が、そのEFM信号をガラス原盤に“切る”というレーザーカッティングのプロセスです」。

 CDは、この3つのプロセスを経て、ガラスマスターの作成が行われ、実際のプレス工程に進む。同社では、長年かけて、少しずつこの3つの工程に手を加え、音質向上を図ってきている。

 「マスターテープに起因する問題を解決する技術がデジタルK2。CDフォーマットエンコーダに起因する要因を除去するのが今回のENC K2、それから受けた信号を高精度高精細に切るためにK2レーザーカッティングがあります」(桑岡氏)。

 これら3つの技術は、いずれもプレスCDの音質を向上させるノウハウの集合体だ。両社はガラスマスター作成までの工程の中にある音質変動の要因を取り除き、最終的には、マスターテープそのままの音質を持った音楽CDを作成する「マスターダイレクト構想」を掲げている。

 すでに導入されていたデジタルK2、K2レーザーカッティングに続き、新たに導入された「ENC K2」もその一環というわけだ。


ビクターが考える「マスターダイレクト構想」。その中核を担うのが、デジタルK2、ENC K2、K2レーザーカッティングの3つの技術

符号のみを伝えるENC K2

 このENC K2とは、マスターテープから吸出したデータをレーザーカッティングプロセスに伝送するときに乗ってしまう「リップル」や「ジッタ」と呼ばれる符号外成分を限りなく減らし、正確な符号(0と1の信号)のみを送ることができるように考えたシステムである。

[北川達也, ITmedia]

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