News:アンカーデスク | 2003年3月17日 07:35 AM 更新 |
Enterキーは、日本語入力の際必ず文字を確定する際に押下する必要のある、重要なキーである。多くの人はこのキーを右手の小指で押すことだろう。このキーの幅が狭くなったことで、当然コントロールの甘い小指のことであるから、狙いが外れることが多くなるだろう。
アローキーはそれほど重要視されていないかもしれないが、試しにある程度の長文をアローキーなしで作文してみるといい。文字を入力する際の癖にもよるが、連文節変換を行なうときなどに変換範囲を指定したり、誤変換した部分に戻ったり、上または下の文章にスクロールするのに使ったりと、無意識のうちにかなりの頻度で使っているものだ。
これらの点を新バイオUの開発者にぶつけてみたところ、前作までのキー配列は、ユーザーにあまり評判が良くなかったのだという。多くの不満は、記号キーのが特殊なのが困る、ということであったそうだ。それならば、ということで、なるべく標準に近いキーボードの搭載が命題となった。
記号キーが重要だという意見もわからなくもない。プログラムや数式を多く扱う人なら、キーのサイズよりも記号キーの位置が違うことにストレスを感じるだろう。
しかし相対的な数で言えば、キーボードで行なうのは普通の文章の入力のほうが圧倒的ではないだろうか。だってバイオUだぜ?
PCG-U101は、このサイズでキーボードを標準に近くしたことで、普通のPCとのコンパチビリティがより強まったと言える。それと同時に、普通のキー入力スタイルを諦めたPCということになる。そしてこれがバイオUの進んでゆく特異な方向性をより浮き彫りにする。すなわち双方向のコミュニティツールではなく、「受け取り上手なPC」である。
その極端な例として、PCG-U101では画面の向きを90度回転させて、本のようなスタイルにする機能がある。もちろんキーボードも一緒に縦に持ち替えることになるので、当然文字を入力することは不可能だ。可能なのはポインティングデバイス操作と左右クリック、アローキー操作となる。
WEBのブラウジングや他サーバからのビデオストリームを見るだけならば、これで全然構わない。しかもハードウェア的にはノーマルなPCなので、今後出てくるであろう多くのPC用テクノロジーに対して限りなくツブシが効くというわけだ。
ソニーはかつて、バイオ用デバイスとして、「インフォキャリー」というのを発売したことがある。最大の特徴は「見るだけ」のデバイスであり、ユーザーからの入力を持たなかった点だ。
現在では既に製造完了となっている。これをクリエの前身と見ることもできるだろうが、今にして思えば、あまりにもコンセプトとして早すぎた製品であった。バイオ専用だったことも広がりを持たなかった要因だろう。筆者はどうもPCG-U101が、このコンセプトの「江戸の仇を長崎で」というべき製品のように思えてならない。
まだPCでやりたいこととできることに差があった時代、PCはとにかく速く広く大容量であれば、どんな用途にもマッチした。しかしPCが家電並みに普及し、すべての人が万能な機械を求めているわけではない昨今では、目的意識というか性格のはっきりしたPCが必要とされるのは、時代の趨勢というものである。
そんな中。キーボードのサイズぐらいでガタガタ言っているような筆者は、PCは何かを作り出すものという考え方に未だ囚われいてる、旧体制の人間ということになるのだろう。
小寺信良氏は映像系エンジニア/アナリスト。テレビ番組の編集者としてバラエティ、報道、コマーシャルなどを手がけたのち、CGアーティストとして独立。そのユニークな文章と鋭いツッコミが人気を博し、さまざまな媒体で執筆活動を行っている。
[小寺信良, ITmedia]
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