News 2003年4月7日 12:59 PM 更新

太陽誘電の新「電波暗室棟」を見てきました

Bluetoothの認定作業はBQTFというBluetooth SIGの定めた施設で行われる。今月その最新にして国内最大の施設がオープンするという。早速、その施設の様子を取材してきた

 群馬県高崎駅からタクシーに乗車して約40分、のどかな榛名山ろくに近代的な建物が、突然現れる。太陽誘電が誇る、国内最大規模だろう“電波暗室棟”である。


群馬県榛名山ろくに新築された太陽誘電の電波暗室棟。まだ稼動前だが、太陽誘電EMCセンターのご好意で、今回特別に取材させていただいた

 この電波暗室棟は新築されたばかりで、今月オープン予定。というわけで、各種電波測定用の機材は、ほとんど搬入されておらず、測定用アンテナのチューニング用機材や、一部実験室などが部分的に稼動しているだけだった。

 ここで電波暗室とは何なのかを簡単に説明しておくと、各種電波機器(無線LAN、Bluetooth、携帯電話等)の電磁波特性を測定するために、外界からの電磁波を完全に遮断した、測定用の特別な部屋のことだ。シールドルームとも呼ばれている。

 外界からの電磁波の影響を少しでも軽減するために、立地条件も厳しく選択される。榛名山のふもとという、お世辞にも交通の便が良いとはいえない場所に、あえて建設されているのもこうした理由からだ。

 それでも、開発の波は、榛名山ろくにも容赦なく押し寄せている。高崎市との間を遮る山が、毎年削られており、都市のノイズの影響も次第に強くなってきているという。

 太陽誘電が今回取材した新電波暗室棟を建設したのも、こうした環境変化を見据えたもの。現在稼動中のEMCセンターや、Bluetooth認定用の、BQTF(Bluetooth Qualification Test Facility)が、この新施設に移設される。

 電波暗室の内部はというと、完全に電波を吸収してしまう環境や、大地の電波反射を想定した環境など、大小さまざまな電波暗室がある。室内の壁面にあるのは、一見すると普通の発泡スチロールだが、実は特殊な電波吸収効果を持った発泡材だ。特殊な形状をした電波無反射構造体で囲み、不要な電波反射が起こらないようにしているのだ。いわば、壁面や底面が、レーダに探知されない“ステルス”構造になっているわけだ。


電波暗室内部の壁面には、特殊な電波吸収素材の発泡材と、不要な電波反射を防ぐ形状をした無反射材がある。これによって、被測定物の電磁波を完全に測定できる


この電波暗室の底面は、大地と同じように電波を反射できる構造となっている。被測定物をターンテーブル上へ設置して、リモコンによって回転させ、反射波を含むあらゆる方向の輻射電磁波を測定できる


測定環境のチューニングを行っていたスペクトラムアナライザーやシグナルジェネレータ。これらはすべて、PCから制御できるようになっている


測定に用いられるソフトウェアの表示例。電磁波のスペクトラムや、輻射パターンなどが、一元管理されて測定できるようになっている

 近傍界測定室という特殊な電波暗室では、まるで、映画“スターゲート”(CS放送ではTV版も放映中)に登場するような、巨大なリング型をした円形のモニュメントのごときものが目を引く。これは被測定物から放射される電磁波を正確に測定するための機材で、電波測定センサーが内蔵されている。


近傍界暗室内に設置された電磁波近傍界専用センサー


近傍界電波暗室内の壁面には、黒や白ではなくカラフルな無反射電波吸収材が設置されているので、より芸術的?な雰囲気だ

 電波暗室のドアには、暗室内と外界を完全に電磁シールドするために、ドアのエッジ部分に銅やリン青銅などのフランジが隙間なく装着され、ドアを閉めるとそれまでアンテナが3本立っていた携帯電話も、瞬時に圏外表示に変わってしまう。

 また、この電波暗室棟は太陽誘電の施設ではあるが、Bluetooth認定などの目的で、同社以外の企業が発表前の機材を持ち込んで測定などを行う。このため、企業秘密をより完全にするため、セキュリティシールドも万全の対策が施されており、各部屋には暗証番号によるセキュリティロック機能が装備されていた。


電波暗室内を完全に外界から電磁波シールドするために、金属製のドアには、壁面と電気的に接続されるように、金属製フランジがびっしりと装着されている


クライアント企業の機密保持のために、暗証番号によるセキュリティロック機能が、ドアに設置されている

 電波暗室には、スターゲートのような特殊なセンサーのほかに、広帯域の電波を受信可能なコニカルアンテナや、周波数帯によって正確な測定を行うための高周波分配装置やアッテネータ、バンドパスフィルターなどの各種高周波機器が設置されており、これらのセンサーを必要に応じて切り換えたり移動させたりする。もちろん、これらの機器は、電波暗室内部へ入らずとも、そのほとんどを外部からリモートコントロールできるようになっている。


広帯域アンテナの代名詞とも言えるコニカルダイポールアンテナが、受信用センサーとして使用されていた


高周波用のフィルターやプリアンプ、アッテネータなどが、測定内容に応じて使用される


分厚い金属製ドアには、驚かされる。まるで銀行の金庫のようだ


今回、電波暗室棟を案内していただいた、太陽誘電 EMCセンター長の井狩英孝氏(右)と、エンジニアの加藤博史氏

 この新築された電波暗室棟には、研究者などのオフィス空間もあるが、言うまでもなく無線LANは使用禁止。ネットワークはメタルワイヤーのイーサネットだ。ケーブルワイヤーは厳選された電磁波輻射の少ないケーブルが使われているそうだが、予算が許せば光ファイバーによる100BASE-FXネットワークがベストなのだとか。細部にまでこだわり、ノイズを可能な限り排除しようとする担当者のこうした話が印象的だった。



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