News:アンカーデスク 2003年5月7日 07:28 PM 更新

ウェブログに見る日米個人サイトコミュニティ事情(2/3)


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ブログツールの登場

 この時点ではネットマニアによる箱庭的なムーブメントに過ぎなかったウェブログだが、この流れを大きく変えたのが、1999年8月に登場したCGIによるウェブログ作成ツール「Blogger」である。

 BloggerがそれまでのWeb日記作成ツールに比べ画期的だったのは、商用オンラインマガジンや企業ニュースサイトに近いインタフェースを提供していたことだ。

 トップページを3つのエリアに分け、ヘッダとページ横のナビゲーションバーがメインコンテンツエリアを取り囲むという、今では個人サイトでもおなじみのレイアウトは、1996年に「HotWired」が編み出し、他のオンラインマガジンやニュースサイトも相次いで採用したインタフェースである。

 初期に登場したいくつかのブログもこのデザインを踏襲しており、Bloggerがデフォルトでこのレイアウトのテンプレートを提供したことは、同ツールが私的な日記ツールではなく、企業サイトと肩を並べうる個人用パブリッシングツールであることを印象付けた。

 また、テンプレートを変更するだけでほぼ思い通りのスタイリッシュなデザインを構築できる柔軟性も人気を呼んだ。このデザインの柔軟性はその後登場したほとんどのウェブログ作成ツールに共通している特徴である。

 Bloggerの登場はウェブログ人口を爆発的に増やし、もはやウェブログはネットマニアだけのものではなくなった。結果、Bloggerを用いて運営されるごく私的な日記がウェブログの大部分を占めるようになり、本来「日々更新される興味深いWebページへのリンクリスト」の意味合いで使われていたウェブログの定義は混乱した。

 ジャーナリストたちはいくつかのウェブログを見て、「ウェブログは個人の日記である」と結論づけた。これに反発するウェブログもあったが、2000年に入ると英国のガーディアン紙のように自サイト内でウェブログを運営したり、ウェブログの記事を情報源として活用するメディアも現れ、両者は次第に歩み寄りを見せるようになった。同時に、高機能なウェブログ作成ツールが続々と産み出され、Webページの紹介にとどまらないさまざまなスタイルのウェブログが登場し、ブログ界(blogosphere)は多様化していった。

米国同時多発テロ事件とウェブログ

 2001年、ウェブログの認知度を一般レベルまで引き上げる大事件が起こった。9月11日の米国同時多発テロ事件である。

 不安にかられた人々は情報を追い求め、各マスメディアは連日連夜、事件に関するあたうる限りの報道を行った。情報の洪水の中で、人々は真に読むに値する良質な情報のみを欲するようになった。そこで脚光を浴びたのがウェブログである。

 事件が勃発するやいなや、いくつものウェブログがテロ事件のリンク集を作成した。そこにはリテラシーの高い個人の眼で選ばれた良質な情報へのリンクがあり、人々はこうしたウェブログへ殺到した。

 さらに自らのテロ体験を生々しく記録したレポート、現地住民が撮影した動画、血液提供の呼びかけ、無事を知らせる短い書き込みといったマスメディアでは得られない情報がウェブログ上を飛び交い、さらなる情報を求める人々に応えた。

 事態が落ち着くにつれ、ウェブログ界に2つの動きが現れた。まずは「warblog(ウォーブログ)」と呼ばれる新しいタイプのウェブログの登場だ。これはテロ関連、戦争関連のトピックを中心とするウェブログ一般を指し、国家的な事件に際して自身の意見を述べずにはいられない人々によって運営されていた。

 もう1つはプロのライターや学者、ジャーナリストたちの参入だ。テロのときに見せたウェブログの機動性は、すでに発表媒体を持つプロの書き手たちにとっても魅力的に映ったのだ。このようなウェブログにスポットライトをあて、ウェブログ現象をテロに対する反応として結論づけるメディアや、「ウェブログは新しいジャーナリズムである」と主張する人々も現れた。

 多くのウェブログ管理人たちは「ウェブログ=ジャーナリズム」説に否定的な態度を取っているが、このような言説が現れること自体、ウェブログがネット内のムーブメントにとどまらず、社会的な意義を帯びるものとして認知されていることは明らかだ。ウェブログは、「ウェブログ現象」という言葉が生まれるほどに、もはやメディアに関わるだれにとっても看過しがたい大きなムーブメントとなった。

 ウェブログ現象を社会的・文化的な側面から考察する『The Weblog Handbook』の著者、Rebecca Blood 氏は、ウェブログとジャーナリズムの違いを説きながら、ウェブログとは、リンクによって力を持たない個人が情報の伝播に関わることができる民主的なムーブメントだと主張している。

 リンクを張ってコメントを付けるというウェブログ運営の手軽さは、マスコミ関係者や学者のみならず、さまざまなバックグラウンドと知識を持つ多様な個人の声を表出させ、集約し、広めることを可能にし、よりよい情報が個人の選択眼により広がるようになった、と彼女は言う。

ウェブログムーブメントの現在

 ウェブログの社会的な認知度が上がったことで、ビジネス用途でウェブログを活用する企業も増えてきた。

[堀越英美, ITmedia]

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