News 2003年5月7日 08:57 PM 更新

WinHEC 2003基調講演
「開発者たちとの協力関係」に再び目を向けるBill Gates

WinHEC 2003でのBill Gates氏の講演は、目新しい話はなにもなかった。同氏の講演の中で「5指に入るほど」凡庸だったと酷評する人もあったほどだ。だが、集まった技術者たちに彼が訴え続けたのは、Longhornをはじめとする次世代技術への協力。Windows王国を築く上での基盤になった“開発者たちとの良好な関係”に、同社は再び力を入れようとしているのかもしれない

 5月6日から米国ルイジアナ州ニューオーリンズで始まったMicrosoft主催のハードウェア開発者向け会議WinHEC 2003。その初日には、同社CSA(Chief Software Architect)のBill Gates氏が基調講演を行い、Windows関連のハードウェア開発者たちに次世代のPCにおいて、より多きな飛躍を遂げるための協力を要請した。


 Microsoftは2004年後半から2005年前半までの間に、次世代Windows(コードネームLonghorn)をリリースする見込み。Longhornではカーネルの上に構成されているWindowsの構成要素を一度分解し、今後考えられる新しい使われ方においてパフォーマンスや機能に制限を受けないよう、さまざまな部分でシステムの再構築を図るとされている。

 その中には次世代のハードウェアをサポートするためのハードウェアドライバのアーキテクチャ変更や、コードネームで「Paladium」と呼ばれていた次世代セキュリティ技術「NGSCB」も含まれる。いずれもハードウェアベンダーとの密な連携を行えるか否かが、成功への鍵となる。

 Microsoftは今年、ソフトウェア開発者向け会議の「Professinal Developers Conference」(PDC)も秋に開催する。PDCではさらに細かなLonghornの技術的内容が公開される見込み。Microsoftは2003年を、Longhornに向けて開発者たちと本格的に協力しながら基盤を作り上げる年と考えているようだ。

 Gates氏は現状のPCをさらに魅力的なものへと昇華させるためのブレークスルーになるものが、市場の中ではすでにいくつも見つかっていると話す。それは、無線LAN、デジタルカメラや高画質プリンタによるデジタルイメージング、Windows Media 9に代表されるインターネットを通じた高品質コンテンツの流通技術。あるいはサイズやコスト、表示品質などで格段の進化を遂げようとしているディスプレイ技術やWebサービス、クライアントPC向け64ビット技術などといったものだ。

 一方、プラットフォーム技術も多様化が進んでいる。Microsoftはこの半年、Media Center PC、Tablet PC、Smart Displayといったフォームファクタを提案し、SPOTのようなネットワークサービスを受け取る非常に小さなデバイスにまで、自身の技術が組み込まれる分野の幅を広げようとしている。Gates氏は「新しく生まれているユーザーシナリオに対して、プラットフォームの機能を改善することでビジネスチャンスの幅は大きく広がる」と話した。

 これら一連の動きは、ユーザーの多様性やネットワークで接続された環境下において求められる、新しいコンピューティング環境を見据えたものだ。そこでは新しいハードウェア、新しいソフトウェアに対する要件があり、それらを上手に実装することで新しいビジネスチャンスを生み出す。

 Gates氏によると、2003年は3GHzレベルのプロセッサが、2005年には10GHz、2007年には20〜30GHzに、ムーアの法則に沿って向上すると予測。さらにグラフィックプロセッサのパワーに関しては、マイクロプロセッサをはるかに上回るペースで向上する。

 そのパワーを基盤部分で支えるストレージやネットワークの能力も順調に向上し、今年は200Gバイトハードディスク(モバイルは80Gバイト)、100Mbps有線LAN、11〜54Mbps無線LANといった主流のスペックが、2005年にはそれぞれ500Gバイト、1Gbps、54Mbpsになり、さらに2007年にはハードディスク容量が1T(テラ)バイトへと向上する。

 また、手書き認識技術、音声認識技術、リモコンの操作性、SPOTなど小型デバイスへの情報配信技術など、生産性や使い勝手を向上させる、いくつかの技術的な要件も実用レベルに達してきた。新しいPCへと足を踏み出すための基礎的な条件は揃いつつある、というわけだ。


ゲイツ氏の示したPCハードウェア進化のロードマップ

 そのために新しいタイプの開発ツールを提供し、さらに開発段階で必要となるあらゆる技術を統合。また、Windows CE.NETコアOSランタイムのライセンス料金を3ドルにまで引き下げる。これにより、SmartDisplayをはじめとするWindows環境に適合する情報アプライアンスの増加を狙う。

 このほかGates氏は、システム構成モデルを定義することで、サーバやネットワーク機器、その上で動作するソフトウェアなどが動的に構成変更する機能を組み込むためのDynamic Systems Initiativeについて言及した。DSIにより、アプリケーションの状況に応じて動的に構成変更をかけられるDynamic Data Centerを、非常に簡単な管理ツールで実現可能になる。DSIは先日、その概要が発表されていたが、今回のWinHECではDSIに対応したネットワーク機器についてもテクニカルセッションの中で言及される。

 また64ビットコンピューティングに関し、デモなどを通じてクライアントレベルにまで64ビットコンピューティング環境が広がり、それが将来の可能性を広げていることに言及。今回、来場者向けてAMD64命令に対応したWindows XP、Windows Server 2003のプレリリース版が配布された。

 今回の基調講演でGates氏は、すでに手元に存在する技術の話に終始した。基調講演あとには、Gates氏の基調講演の中でも5指に入るぐらいに平凡な内容と批判する人もいたほどだ。

 しかし、Gates氏はこれまでも、WinHECやPDCなどのMicrosoftのパートナーに向けた講演では、元気よく将来のビジョンを語って開発者たちを鼓舞する、といった態度を取ってこなかった。

 さらに昨年ぐらいから、IT景気、PC売り上げの減退基調を受け、派手なビジョンをブチ上げるよりも、もっと身近な製品や技術に関して語ることが多くなってきている。Microsoftは元々、開発ツールや開発情報の提供、開発者たちからのフィードバックの素早い反映などに力を入れ、開発者たちとの良好な関係を保つことでWindows王国を築き上げた。Windows Server 2003、Longhornをはじめとする次世代技術の投入を控えた今、Microsoftは再び原点に回帰する大切さを認識しているのかもしれない。


なぜかゲイツ氏のあとに講演を担当したSegwayの発明家であるDean Kamen氏。1時間の間、手放し運転を交えつつ、一度もSegwayを降りずに発明を生み出す手法について話した



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[本田雅一, ITmedia]

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