News | 2003年5月8日 09:17 PM 更新 |
5月1−5日まで、ロボカップジャパンオープン2003が新潟「朱鷺(とき)メッセ」で開催された。今回は、そのうちの中型ロボットリーグのレポートだ。
中型ロボットリーグの予選は、初日の5月1日にスタートした。なのだけど、わたしが観戦することができたのは2日目からになってしまった。もうしわけない。
参加したのは全部で8チーム(*1)。予選は、総当たりじゃないリーグ戦(各チーム4試合しかしない)。勝ち点制(勝=3、分=1、負=0)で上位4チームが、3日目に行われる決勝トーナメントに進出となる。
中型ロボットリーグは、日本が世界の最高水準に達しているリーグだ。なんていったって、昨年の世界大会では、決勝戦を日本のチーム同士が戦ったのだ。そして、その2チーム、慶應義塾大学の「EIGEN(アイゲンと読む)」と、金沢工業大学の「WinKIT」は、この大会にもちゃんと出場している。期待は高まるのだ。
ところが、予選でのこの2チームの対戦は、わたしが見られなかった1日目にすでに終わってしまっていた。結果は4対4の引き分け。やはり実力伯仲のようだ。
注目のMuratec FC
今回はとても気になるチームがある。社会人チームである村田機械の「Muratec FC」だ。こいつは、ループシュートをやってくるのだ。
いままでのロボカップサッカーは、中型リーグに限らず、平面の戦いだった(これは、シミュレーションリーグでもそう)。ボールは基本的にはフィールドの平面からは離れない。ときどき、シュートの力があまりに強いために、ボールが勝手に浮き上がるということはあったけど、それはロボットのサイズに比べたら誤差の範囲だ。
ところが、Muratec FCのマシンは、ボールを浮かせてゴールキーパーの頭上をこえるシュートを打ってくるのである。しかも、ループの角度も自由に変えられる(*2)。平面攻撃を想定しているキーパーは手も足も出ない。いつかは出てくるだろうけど、出てきたらいやだな……と思われていたマシンが登場してしまったのだ。
実は、「いや」な理由はもう1つある。いまの中型マシンは、最上部に全周囲カメラ(*3)を装着しているのがトレンドだ。これは高い。うっかりループシュートのボールがこの上に振ってきちゃったら、大変なことになる。カメラ以外にもマシン上部には基板などの壊れやすい部品が置かれがちなのだ(いままで、上部は安全だったから)。EIGENなどは、カメラをアクリルで作った筒でガードするという対策をとっていたが、今後はこのような対策を含めた設計の変更が迫られることになるだろう(*4)。
Muratec FCのマシンにはもう1つ特徴がある。マシンの前部にローラーが付いていてこれでボールを運ぶのだけど、このローラーが内側に回転するのだ。このことによって、ボールはマシンに吸いついたようになり、ボールと一緒に後退するということができるようになる。もちろん、ホールディングの反則にならないギリギリの線を狙っているのだ。
ところで、去年の世界大会には爆発的な破壊力のシュートをもったPhilipsチームというのが出場していたんだけど(昨年の記事参照)、Muratec FCチームは、ちょっとそれを髣髴とさせるところがある。つまり、その、社会人だけあって、おっさんくさいのだ(*5)。一見怖いけど、話をしてみると、とっても面白い人たちだというのも共通。最大の特徴がシュートにあることを含めて、なんか似ているの。
EIGEN vs Muratec FC
予選2日目には、このMuratec FCと、昨年のワールドチャンピオンEIGENとの試合があった。ここまでEIGENもMuratec FCもここまでWinKITと引き分けた以外はすべて勝っている。どちらも下馬評通り強い(その両方と引き分けのWinKITというのもすごいけど)。そして、この試合、期待に違わずとても面白かったのだ。他のチームには申し訳ないけど、特に詳しく取り上げさせてもらう。
EIGENは、非常にクレバーなチームだ。マシンの特徴は高速性だ。現在、中型リーグのマシンの運動機構には、大きく分けて、普通の車輪を使うものと、全方向車輪を使うものの2種類がある。全方向車輪(*6)を使うと、ロボットは向きを変えることなく任意の方向に動くこと(全方向移動)ができる。いきなり真横に行ったりナナメに下がったりなどができるわけ。
これはサッカーにはありがたい性能なのだけど、その代わりまっすぐ走るときの速度が若干落ちる。普通の車輪の場合は、全方向移動はできないけど、まっすぐ走るときのスピードは高い。どっちを選ぶかは、設計者の意図によって変わってくるが、EIGENは普通の車輪を選んだ。ちなみにMuratec FCもそう。ボールをキープしてドリブルでフィールドを駆け抜け、そのまま身体ごとゴールに突っ込むプレイは美しい。
また、マシン同士の連携もよくとられていて、1台がボールをもってゴールに接近し、キーパーを引きつけておいてから反対側のマシンにパスなんていう技も見せてくれる。ハードウェア性能とソフトウェアのバランスがとてもいい。これに比べると、Muratec FCはハードウェア偏重に感じられてしまう(それはそれで魅力なんだけど)。
Muratec FC vs EIGENは、13時38分に開始された。水色のマーカーを付けたのがMuratec FC、紫のマーカーを付けたのがEIGENだ。このマーカーは、観客だけではなく、ロボット自身が敵味方を識別するのにも使われる。
前半(10分)は、EIGENのキックオフで始まった。直後、ボールを蹴りだしたEIGENのプレーヤーが、ボールをキープし、ドリブルでゴールに突入。キックオフからわずか6秒。Muratec FCが体制を作る間もない、見事な速攻である。
Muratec FCのキーパーは決して無能ではない(これは、あとでわかる)。だけど、彼をしてもなにもできなかったのだ。
さて、今度はMuratec FCのキックオフ。きちんとボールをキープし、ゴール近くまで運ぶが、EIGENはがっちりディフェンスを組んで中に入れさせない。観客はもうループシュートの存在を知っているから、いつ打つか、いつ打つかとワクワクしてするのだけど、そこまで持ち込むことができない。
ついに膠着状態となり、主審(人間)がボールを取り上げ、ニュートラルポジションに戻す(ロボカップにはこういうルールがあるのだ)。一度はEIGENが守り勝った。しかし、Muratec FCはこのボールを再度キープ。今度は、キーパーと1対1になることに成功。間合いを慎重に計って、見事にループシュートを決める。
それぞれの1点目が、互いの特徴を見事に表現したものだった。ここまでで、まだ試合は2分たっていない。やっぱりすごい試合になりそうな予感が、会場を包む。
その後、EIGEN、Muratec FCそれぞれ1点ずつを追加。その次に今度はMuratec FCが得点。3−2で、この試合初めてのリードを奪う。そしてこのあと、試合の流れを変えるような大きなプレイが出る。
[こばやしゆたか, ITmedia]
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