News 2003年5月9日 09:27 PM 更新

モジュラーコンピューティングの要はリソース管理にあり

負荷は増大するのにIT投資予算が削減されていく現代のサーバシステム。そこで注目されるのがモジュラーコンピューティングだ。オートノミックコンピューティングと異なり、既存技術でもシステムリソースを動的にアサインできるのがポイントだ

 野村総合研究所(NRI)と伊藤忠テクノサイエンス(CTC)は5月9日、東京で「次世代モジュラーコンピューティング・セミナー」を開催した。このイベントは、先月16日の「大規模サーバにおけるモジュラーコンピューティングに関する協業」の発表を受け、両社の取り組みについて業界関係者に説明するのが目的だ。

 セミナーには、インテルのプラットフォーム&ソリューションマーケティング本部 エンタープライズ・ソリューションズグループ統括部長の平野浩介氏も講演者として登壇。インテルのサーバ系CPUのロードマップやIAアーキテクチャにおける、モジュラーコンピューティングの方向性などについて説明を行った。

 モジュラーコンピューティングは、ブレードサーバの登場に合わせて提唱されるようになった概念。ハードウェアベンダーやSI企業などが、独自にこの言葉を使っているが、「その定義はベンダーによってそれぞれ異なっており、統一していない」(NRI プロダクツ・ソリューション事業本部 副主任コンサルタント高野裕一氏)状況だ。

 たしかにモジュールを構成するシステムにしても、ブレードサーバで構成するベンダーや、パフォーマンスを重視したデスクトップサイズPCで構成するベンダーなどさまざま。ただし、各ベンダーで共通しているのは、複数のサーバマシンを一元的に管理して、ストレージなどのリソースを共有利用し、システムにかかる負荷に合わせて、サービスを動的にアサインできる機能を持たせるものとしている。

 今回のセミナーでNRIは、モジュラーコンピューティングの定義として、「メーカーからの考え方ではなく、エンドユーザーのメリットという視点から考えると、処理量に応じてコンピュータリソースを動的に変更できる仕組みを持ったもの、と定義できる」(高野氏)と緩やかな考え方を示した。

 その上で、モジュラーコンピューティングの構成で最も重視すべき要素として、ストレージ、CPU、高速ネットワークといった個々のパーツではなく、サーバシステム全体のリソースを有効に活用するリソース管理・仮想化技術「PAN」(Processing Area Network)を提唱した。リソース管理は、ユーザーが設定したタイムチャートに従って、個別のサーバに割り当てる機能を切り替え、使用するストレージ、ディスプレイ、電源ユニットを管理するもの。仮想化は、物理的な一台のサーバの中にサーバタスクを複数立ち上げ、一台のサーバを仮想的に複数のサーバに仕立てるものだ。


PAN(Processing Area Network)は、SAN(Storage Area Network)のプロセッサバージョンとも言うべきアーキテクチャ。InterConnectは光ファイバーで構成され2.5Gbpsの帯域を確保している


リソース管理ソフト「PAN Manager」。画面左にはBladeFrameに実装されている各ブレードが表示され、青は稼動中、オレンジはサービスの再割り当て中を表す。画面右のリストは各ブレードで動作しているサービス。このほかにも、各ブレードが利用する電源ユニットやディスプレイの割り当てを設定できる

 CTCからは、PANを実装したサーバ製品として、Egeneraが開発した「Egenera BladeFrame」が紹介された。このマシンはブレードサーバを実装するBladeFrameに外付けのデータストレージを組み合わせたもの。外付けのストレージユニットはSAMを光ファイバーで接続する。実装するブレードサーバは機能によって「pBlade」「cBlade」「sBlade」の3種類に分けられる。


Egenera BladeFrame。pBladeを24台、cBlade、sBladeをそれぞれ2台搭載できる。pBladeは最大4wayなので、これ一台で96wayのプロセッサを収納可能。CTCによると、ある導入事例において、サーバのCPU利用率が20%から50%に向上したとしている


cBladeに設けられた外部インタフェース。下部に配置された4つのブラケットは左の2つがギガビットイーサ。右の2つがSAMと接続する光ファイバーコネクタ。上のLANとシリアルはモニタ用マシンを接続する

 「pBlade」はアプリケーションを動作させ、演算処理を担当する一般的イメージのサーバ機能。Xeonを最大4way実装し、OSには現在RedHat7.2をインストールしているが、Windows 2003 Serverへの対応も予定されている。「cBlade」はPAN Managerやステータス監視スクリプトがインストールされた、BladeFrame管理サーバの役割を受け持つEgenera BladeFrameの中枢部。sBladeはBladeFrame内部のデータフローをコントロールするインテリジェンススイッチングHub的機能をカバーする。BladeFrame内の各ブレードは光ケーブルで接続され、「帯域2.5Gbpsを実現している」(伊藤忠テクノサイエンス プロジェクトEgenera プロジェクトリーダー浦川隆氏)。

 モジュラーコンピューティングの導入目的は、最近のサーバシステム発表会で必ず聞かされる「マシンリソースの利用効率向上」だ。サーバ構築では、想定されるピーク負荷をカバーできるシステムリソースを準備しなければならないが、利用期間トータルで考えたCPU利用率は「5%程度」(浦川氏)と試算されている。この状態を「Web、アプリケーション、データベースといった3つのサービスをブレードサーバに動的にアサインすることで、リソースの使用効率を向上させる」(浦川氏)。同じ目的で現在開発が進められている「オートノミックコンピューティング」はリソースのアサインをサーバの状態から自律的に判断して行えるが、実用化はまだ先。タイムチャートなどユーザーの設定した内容に従って行われる他律的アサインであるが、動的なリソース配分という機能を限定的に利用できるのがモジュラーコンピューティングのメリットとNRIとCTCは説明している。


Egenera BladeFrameにおける動的アサインの例。演算を担当するpBladeに割り当てるサービスをユーザーが設定したタイムチャートに従って変更する。画面では、Webサービス×3、Mailサービス×3だった割り当てをWebサービス×5、Mailサービス×1に変更している


pBladeに障害が発生した場合は、事前にFail-Over Poolに割り当てていたpBladeに、障害発生のpBladeで行っていたサービスを移行させる。CTCはこの移行に要する時間は10数秒で可能としている

 また、ほかのベンダーで開発、販売されているモジュラーコンピューティング対応製品と比較して、PANを実装したEgenera BladeFrameは「ストレージをすべて外付けユニットにしたDisklessであることと、PANによってサーバを仮想的に立ち上げられるので、Fail-Overやサーバ再割り当てなどで、ブレードサーバの構成を変更するときに、10数秒といった短い時間で対応できる利点がある」(浦川氏)と述べている。

 最近サンマイクロシステムズが、大規模サーバシステム構築におけるオープンプラットフォームのメリットを盛んにアピールしている。ところが、今回のセミナーでNRIは「オープンプラットフォームで構築すると、各機能ごとにOSやハードウェアの互換性が保てない。そのような状況では、試験運用時に判明したボトルネックの解消に必要な、機材変更に対応できなくなる」(高野氏)とオープンアーキテクチャを否定し、ビジネスパートナーである、インテルのCPUでサーバシステムを構築するメリットをアピールしていた。このあたり、サンとインテルの代理戦争、という感がなきにしも非ず、という印象であるがいかがだろうか。


NRIが主張する大規模サーバシステム構築におけるオープンシステムの問題点。多数のベンダーから提供される製品でシステムを構成すると互換性が低くなる、というのがその理由だ。「オープンシステムによって互換性が維持される」というサンの主張と真っ向から対立しているのは、セミナーで講演してくれたインテルの意向を反映したものだろうか

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[長浜和也, ITmedia]

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