News | 2003年5月21日 00:13 AM 更新 |
“ユビキタスの伝道師”――東京大学大学院 情報学環・学際情報学府教授の坂村健氏が、近ごろ絶好調だ。
2003年4月16日、あの「プロジェクトX〜挑戦者たち〜」で、TRONプロジェクトが紹介された。同月の28日には、計算機科学研究分野における功績が認められて紫綬褒章を受賞。52歳の坂村氏は、今回受賞した中では当然最年少なのだが、50歳代での叙勲自体も、極めて異例のことだ。
そして5月20日に行われた情報処理振興事業協会(IPA)主催の「IPA Spring2003」では、「ユビキタスコンピューティングとオープンアーキテクチャ/組み込み」と題して基調講演を行った。もっとも、坂村氏の基調講演など、それほど珍しくはない。注目は、午後の講演に“誰”が登場したかだ。
“特別講演”とされていたものの、結局はキーノート後の“2番手”に甘んじたのが、あの慶應義塾大学教授、村井純氏だったからだ。講演テーマも「次世代インターネットとユビキタスコンピューティング」。それだけに、なおさらその印象が強かった。村井氏よりも3時間ほど早く“どこでもコンピュータ論”を展開した坂村氏の基調講演は、いつにも増して冗舌だった。
「マスコミはいつも、私と村井氏とを対立関係に仕立てるのが好きだが、争う気などまったくないし、お互いに迷惑をこうむっている」(坂村氏)。
こう予防線を張った坂村氏だが、村井氏が米マサチューセッツ工科大(MIT)と組んで日本での規格標準化を目指す米国主導のユビキタス技術「オートID」に対しては、やはり反旗を翻す。
「ユビキタスにはインターネットも重要だが、装置間のプロトコルがIPになるわけがない。すべてのものがつながるユビキタス環境では、セキュアなシステムがリアルタイムで動く必要がある。その時にIPというプロトコルは重た過ぎる。ネットワークに対して負担をかけなくても、端末に負担がかかるのだ。インターネットにすべてのものが直接つながるなんて考えられない」(坂村氏)。
坂村氏はまた、ユビキタスコンピューティングが普及する上での欧米と日本の環境や考え方の違いを指摘し、日本独自のインフラ開発の重要性を訴える。
「米国防総省では、カーゴコンテナ27万個にRFIDをつけて配備するなど、軍事分野でユビキタス技術が積極的に取り入れられている。また、欧米でのRFIDの関心の高さは、“モノがなくなる”ことに対しての経済的損失を解決するための手段として利用したいという背景がある」(坂村氏)。
このような欧米での“商品減少問題”は深刻で、米国の2001年統計によると、全売上げの1.8%(約332億ドル)が窃盗などで損失し、英国でも内部および外部による窃盗によって2001年のGross Margin(売上高総利益率)が7%から1.7%に減少したとの調査報告があるという。
「欧米では、こういった被害を未然に防ぐためにIT技術が使われている。窃盗防止など、健全とはいえないモノがキラーアプリケーションになっていくのだ。ただし、内部の窃盗など考えられない日本では、このようなアプローチでは、コンセンサスが得られない。ユビキタスコンピューティングへの期待が高まる中、どういったインフラを作っていくか。利便性だけで勝負する日本では、普及にある程度の時間が必要かもしれない」(坂村氏)。
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[西坂真人, ITmedia]
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