News 2003年5月27日 09:37 PM 更新

量子コンピュータの基礎の基礎「量子重ね合わせ状態」に挑戦する

量子コンピュータは直感では把握できない「量子力学」の理屈で動作する。おかげで動作原理の理解に多大な労力が求められる。最初にでてくる「量子重ね合わせ」で挫折するのはお約束だ。国立情報学研究所オープンハウスの特別講演では、この「はじめの一歩」が懇切丁寧にレクチャーされた

 国立情報学研究所オープンハウスの特別講演で登場した山本喜久氏は、電子工学を修め、量子工学や量子力学の研究に従事し、現在は量子ゆらぎプロジェクトの統括責任者として活動している。NIIの紹介によると「量子コンピュータに多大な貢献をされ、ノーベル賞の可能性も高い」。


「NTT基礎研究所材料物性研究部主席研究員」と「スタンフォード大学応用物理学科電気工学科教授」が現職の山本喜久氏。近々「国立情報学研究所教授」という肩書きが加わる予定だ

 今回の講演は「量子コンピュータの最前線」と題されていたが、最新の研究成果の紹介より最初のハードルになる「量子の重なり合い」など、量子コンピュータの基礎概念の概念を中心に解説が行われた。

 量子コンピュータの最も基本的で、かつ最も大きな特徴が「一つのビットが0であり1である状態を共存できる」という量子ビットの存在だ。0と1の状態を共存させる状態を「量子の重なり合い」と呼んでいるが、これが「古典的な世界で生まれ育った我々には直感的に理解しにくい」(山本氏)と、量子コンピュータを知る上で最初のハードルとなっている。

 山本氏は「量子コンピュータは多粒子の干渉計」と、基本的な仕組みは干渉計であると述べる。干渉計とは、複数の経路を経て到達した波の重なり合いで発生する「干渉縞」を測定するもの。古典物理の世界では、波紋が直感的で分かりやすいが、量子力学の対象である電子でも、同じような現象を測定できる。


古典物理の世界で説明された波と電子の干渉効果

 古典物理で登場する「防波堤にあけた2個の隙間から進入する波で出来る干渉縞」と、量子力学で登場する「2つのスリットのどちらかから進入する電子1個による干渉縞」。電子は「検出器に電子が到達する確率」として表現される。波の干渉縞は“穴1”から進入した“波1”と、“穴2”を進入した“波2”の合成で発生する。しかし電子では、どちらのスリットを通過したかを知ることは出来ない。

 この現象を実験的に発生させたのが「2光子光源を用いたダブルスリット実験」だ。入力した「ポンプ光」をパラメトリック2光子光源で「信号光」「アイドラー光」に分裂、それぞれダブルスリットを通して検出器に到達した回数を計測する。


量子的な干渉を実証する「ダブルスリット実験」の装置概要。2種類のスリットを設けたスリットに向けてアイドラー光と信号光に分離された光子を発射、アイドラー検出器を固定し、かつ、信号検出器を移動した場合の光子到達回数をカウントする。信号検出器の位置によって、同時にカウントできる確率が干渉縞として観測され、2つの光子は相関関係にあることが判明した

 この実験で、アイドラー光子と信号光子は相関関係にあることが判明する。また、入力した「ポンプ」と「信号」「アイドラー」の各光子は「運動量保存の関係が成立するので、同じスリットを通ることになる」(山本氏)。

 この場合、検出される光子は「どちらもスリット1と通ってきた」可能性と「どちらもスリット2を通ってきた」可能性がありえることになる。この「どちらのケースもありえる」状態が「重ね合わせ」と呼ばれているのである。

 講演では、量子ビットや量子ゲートの概要、量子コンピュータの演算部を実現する「量子アルゴリズム」の研究経緯、そして、現在進められている量子コンピュータのハードウェア開発の現状が紹介された。


量子コンピュータの代表的な問題「ドイチェ-ジョザ問題」を解決したアルゴリズムの概要。一度に2のN乗個(Nは量子ビットの数)の演算を処理できる量子コンピュータは、解も2のN乗個のパターンを出力する。しかし、求める回答はその中のたった一つ。正しい解答に到達するためには、結局2の(N-1)乗+1回だけ演算しなければならない。これが「ドイチェ-ジョザ問題」と呼ばれ、量子コンピュータが実現できない根拠とされてきた。この問題を位相シフトゲートの導入で解決したのがドイチェ-ジョザアルゴリズムだ

 講演の最後に山本氏は「量子コンピュータの研究は、従来のPCと根本的に異なる、まったく新しいパラダイムに挑戦する面白さがあるが、量子コンピュータ研究の先駆者たちは、実現不可能の研究は止めるべきと言い始めている」と、量子コンピュータ開発者の心理的危機を取り上げた。しかし「だからこそ量子コンピュータの研究は若い研究者にとってビッグチャンスが待っている」と、山本氏は考えている。

 「新しい技術の開発において、その分野の先駆者は必ず同じようなことを言っていた。しかし、たいていの場合、その予想は外れるものだ。いつ実現するか、という話になると、古株の研究者は悲観的に、若い研究者は楽観的に考える。そして、困難な研究を成功させるのは、楽観的な若い研究者たちなのだ」(山本氏)

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[長浜和也, ITmedia]

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