News 2003年5月29日 05:03 PM 更新

MOBILITY RADEON 9800は登場するのか?

MOBILITY RADEON 9600にPentium M対応のMOBILITY RADEON 7000 IGP。注目を集めた製品発表会からはや1カ月半。搭載製品は未だに姿を見せていない。製品の出荷状況からこれからの製品について、来日中のモバイルマーケティングトップに直撃した

 ATI TechnologiesのMobile Business Unitマーケティングディレクター Reuven Soraya氏が、ビジネスパートナーとのミーティングのために来日した。

 ATIが先ごろ行った組織改変で、それまでデスクトップ部隊とモバイル部隊の両方に分かれていた統合型チップセットの管理を、モバイル部隊に吸収。そのためSoraya氏は、現在、MOBILITY RADEONシリーズ、RADEON IPGシリーズのマーケティングリーダーという立場にある。

 Soraya氏は、今回の来日にあわせてZDNetの取材に応じ、モバイル用グラフィックチップと統合型チップセットビジネスの現状とこれからの製品展開について述べ、また、投入が遅れているMOBILITY RADEON 9600の状況を説明した。


ATIの取材に行くと必ず登場するこの手のストーリー。今回は3DMark03のpatch3.3.0に関する記述もプラスされている。「ライバルは、発表から出荷まで時間がかかり、かつ、最新製品のパフォーマンスは我々の一年前の製品より劣っている」。当事者たちは否定しているが、外部の人間には、この手の応酬、最近ますますヒートアップしているように思えるのだが

 今でこそ、RADEON 9XXXシリーズが「最高パフォーマンスを発揮するデスクトップ向けビデオカード」として、多くのユーザーから支持されているが、RADEONシリーズが登場した当初、NVIDIAのRIVAシリーズとその後継のGeForceシリーズに苦戦を強いられていた時期があったことを、多くのユーザーは覚えていると思う。

 当時、苦境にあるATIを支えていたのが、「RAGE MOBILITY」「RAGE LT PRO」といったノートPC向けグラフィックチップだ。当時、NeoMagicなどほとんどノートPC専用グラフィックチップは、ハードウェアによる3D描画機能をサポートしていなかった。そのような状況で唯一サポートしていたのがRAGE MOBILITY。デスクトップ向け製品と比べて、かなり低いパフォーマンスであったけれども、多くのノートPCユーザー、そしてノートPCベンダーに受け入れられ、ATIは一躍トップに踊り出た。

 その後、NVIDIAのGeForce Goシリーズなど、強力なライバルが出現したが、「ノートPC向けグラフィックチップの4割はATIの製品が占めている」(Soraya氏)と、依然としてトップベンダーの地位を確保している。

 このようにして、「強力なパフォーマンスを持った専用グラフィックチップベンダー」というイメージを確立したATIのノートPC向け製品売り上げ構成は「デスクリートチップが6割」(Soraya氏)となっている。

 しかし、Soraya氏はこの状態が早いうちに変化すると分析している。「ノートPCのバリューゾーンは低価格化が進んでおり、そのようなノートPCには必ず統合型チップセットが搭載されている。ATIのビジネスもデスクリート主体から統合型チップセットへ移行するようになるだろう」

 現在の統合型チップセットに対して、多くのユーザーが感じているのが「ビデオ描画を初めとする貧弱な性能に対する不満」(Soraya氏)だ。ATIはその不満に答えるべく、FSB 533MHz、PC2700に対応したMOBILITY RADEON 7000 IGPをすでに発表している。このチップセットは、Pentium Mのサポートのライセンスをインテルから正式に受けた、唯一のサードパーティ製チップセットというだけでなく、Intel 855GMに搭載されたインテル・エクストリーム・グラフィック2を上回る描画性能でも期待されていた。

 しかし、Intel 855GM搭載製品がようやく登場した今年の夏モデルにおいて、MOBILITY RADEON 7000 IGPは採用されていない。この点についてSoraya氏は「IGPがターゲットとしているバリュークラスのノートPCは依然としてPC2100以下のメモリバスが主流となっている。また、Pentium Mに対してはライセンスの許可がPentium M発表直前だったため、ノートPCベンダーは夏モデルの開発に間に合わなかった」と説明した。


ATIの統合型チップセットのシッピング状況。最新機種として紹介されているのはRADEON IGP 340Mを搭載したThinkPad R40eとRADEON IGP 320Mを搭載した富士通のBIBLO MG17D/A。どちらも5月に発表されたばかりの製品だがMOBILITY RADEON 7000 IGPは搭載していない

 搭載製品の遅れで、やはり気になるのがMOBILITY RADEON 9600の状況だ。発表会では「デスクトップの最新機能をいち早くノートPCでも実現した」とアピールし、NECや富士通などから搭載ノートPCが5月に登場する予定になっていた。しかし、5月になって実際に登場したのは、ライバルのGeForce FX Go 5600を搭載したソニーや東芝の製品だ。

 MOBILITY RADEON 9600は、ビデオメモリに「GDDR2-M」をサポートしている。GDDR2-Mは基本的にDDRであるが、省電力とパフォーマンスを両立させるために配線パターンの最適化を行っている。このGDDR2-Mの生産がネックになっているのだろうか。

 Soraya氏はこの可能性を即座に否定した。MOBILITY RADEON 9600の搭載製品が遅れている理由として「ATIはほかのベンダーとは違い、開発スケジュールをかなり正確に、かつ細かくベンダーに伝えている。そのためちょっとしたタイミングの違いで、開発中の製品に搭載できないケースが発生する。日本におけるノートPCの開発期間は長期に渡るので、ほんのちょっとの違いが、ノートPCの出荷時期としては夏から秋と、大きく動いてしまう」と答えた。

 また、現在「9600」が最上位となっているMOBILITY RADEONシリーズで、RADEON 9700、もしくはRADEON 9800相当の製品が登場する可能性については、「当然検討は行っている。登場時期は明らかにできないが、これまでのRADEONシリーズとMOBILITY RADEONシリーズの関係を振り返れば、予想は付くだろう」と、モバイル版最上位機チップが登場する可能性を示唆した。

 気になる熱の処理については、「強力な省電力管理で行う(Soraya氏)と、現在のPOWERPLAY 4.0による省電力化で熱を抑える考えを示した。ただし、90ナノプロセスチップの採用についてはコメントを避けている。

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[長浜和也, ITmedia]

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