News:アンカーデスク | 2003年6月6日 11:59 PM 更新 |
省エネという観点からは少しずれるが、エコロジー、つまり環境負荷の低い電源として、燃料電池(Fuel Cell)が脚光を浴びて久しい。
この燃料電池は当初、病院や緊急施設のバックアップ電源や電気自動車の実現など、主として大容量電源が必要な用途を想定して開発が進められていた。しかし、数年前から携帯電話やノートPCなど、携帯情報機器の分野でも利用が検討されており、実際、東芝やNECなど実用を目前に感じさせる発表が次々と行われたことは記憶に新しい。燃料電池では、メタノールなどの燃料を数十CC程度補充すれば、ノートPCを数十時間動作できるとされている。
携帯電話の連続通話可能時間やノートPCの連続使用可能時間は、これまで紹介してきたさまざまな工夫により、かなり長時間になった。とはいえ、それでも十分に長いとは言えない。出張ともなれば、充電器やACアダプターが欠かせないのが現状である。
その上、こうした長時間化は、バッテリーの材料の改善や仕組みの細かな改良によって、少しずつ改善されてきたものだ。しかし、これ以上、CPUやシステムの消費電力が上がると、バッテリー技術が追い付かなくなってしまうという懸念が常にある。
その意味で、自動車用でかなり実用化に近づいた燃料電池を、こうした状況の打開に利用するというのは、ごく素直な発想だといえるだろう。
ちなみに、燃料電池の本質は、いわゆるニッカドやリチウムイオンなど、充電して利用する二次電池とは少し異なり、むしろ発電装置といったほうが正しい。
分かりやすく言えば、水の電気分解の逆反応である。具体的には、メタノールやエタノールなど水素を多く含む「燃料」から水素を分離し、空気中の酸素と結びつけて水を生成させる。この過程を進めるため、触媒によって水素が陽子と電子に分離する。これを利用して電子を取り出せば、電流が得られるという仕組みだ。
燃料電池をPCなど情報機器で使えるようになる日はそう遠くないはずだ。だが、最大の難関は小型化だろう。
もちろん、原理的に燃料電池自体の小型化は、そう難しくはない。ここで問題になるのは、燃料電池が発電できる電流の大きさなのだ。前述したような原理なので、少ない燃料から多くの電流を取り出すことができるため、電池としての容量は大きい。だが、同時に取り出せる電流が少ないのが問題となる。
これは専門的に言えば、電源としての「出力密度が低い」という問題になる。
解決策としては、より多くの電子を触媒経由で同時に取り出せるよう、触媒の表面積を増やす、電極の構造や表面積を増やすなどの工夫はもちろん、数多くの燃料電池のセルを束ねて電流を取り出すなどの必要もある。
また、燃料を効率的に触媒反応させるため、燃料を循環させるポンプを使う、希釈しないで使える燃料などで改善を図ろうとするメーカーもある(関連記事)。
もちろん、燃料となる水素を多く含む物質の安全性や、パッケージとしての完成度を高める必要もある。「発電」の過程で出る水の処理や、既存の二次電池との併用の可否によって、PC側の電源システムの改良などが必要になるからだ。このように、さまざまな課題をクリアして初めて商品化が可能になるので、残念ながら普及までにはあと数年はかかるだろう。
ただ、付け加えれば、コンピュータPC関連への燃料電池の応用として、なぜあまり検討されていないのか、筆者がむしろ不思議に思っているものがある。それは燃料電池のUPSへの応用だ。
燃料電池の用途というと最初に触れたビル全体のバックアップや自動車用、あるいは携帯情報機器用と、なぜか極端に大きいか小さいかに偏っており、これをサーバシステムのUPSとして利用する方法については、あまり聞いたことがないからだ。
もちろん、課題は少なくない。しかし、現在の夏場の電力供給の問題を考えると、燃料電池のそういう使い方は、もっと検討されても良いのではないだろうか。うまくいけば、将来の包括的な省エネ対策(電気代の節約)にもなる――そう考えるのは甘いだろうか。
もっとも、そうなると、今度はUPSの信頼性が問題になるのだが……。
[宇野俊夫, ITmedia]
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