News 2003年6月11日 07:14 AM 更新

“ソニーのバイオ”はどこに行く?――彼らが目指す“ホンモノ”(3/4)


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 「ソニーがパソコンをやると決めた94年当時、本当に独自の価値をパソコンに見い出せるかをさんざん議論しました。そのときに、標準OSであるWindowsを使っていくことを決めました。こうした議論はこれからも続けます」

 「AV/ITコンセプトを立てた当時、社内にも、社外にも、賛同してくれる者はいなかった。しかし今では、AVとパソコンの融合はコンシューマー向けパソコンの主流になっています。自分たちは正しかった」

 しかしAV/ITが業界の主流になるに従い、バイオは唯一のユニークな存在ではなくなってしまった。

 「新しい市場カテゴリを創り出しても、有望な方向には業界全体が追いついてくる。これはずっと続くことで、終わることはありません。パソコンだけでなく、あらゆる分野で競争があります。だから、追いつかれたから別の方向を向くのではなく、自分たちも前へと進めばいい」

 「AVとパソコンの融合といっても、当初のオーディオやビジュアルのクオリティは本当に陳腐なものでした。“パソコンとしては”スゴイものでも、高品質のAV機器に慣れたエンドユーザーがAV機器と同じ基準で比較すると、パソコンの画質や音質は非常に悪いものだったんです」

 「それが数年前の話。その後、改良を重ねることで、一般向けAV機器に対しては、ある意味追いつくことができたし、機能面では追い越すこともできたと考えています。AV機器としてのクオリティは、パソコンの中で一番だという自負はあります」

 「しかし、これで終わりではありません。AV機器に追いつくだけではなく、追い越せるポテンシャルがあると考えています。バイオというプラットフォームの上で、どれだけ付加価値の高いAV機能を届けることができるのか? そこがバイオが向かう次のターゲットの一つです

 AVベンダーの作る、AV機器としてのパソコンという主張をするのであれば、バイオには“ソニーの作るテレビ画質”、“ソニーのオーディオクオリティ”、“AV機器そのものの使い勝手”や“質感”が求められるのではないか。

 パソコンに付属するオマケテレビやオマケオーディオの域から脱するには、例えばベガエンジンと同様の、バイオならではの画質が求められる。

 「テレビとしてのパソコン、ビデオレコーダーとしてのパソコン、オーディオ機器としてのパソコン。これらの質を高め、決してオマケではないものに仕上げなければなりません。ハードウェアではありませんが、この春には『SonicStage Mastering Studio』というソフトウェアをバンドルしています。この中には、本当の録音スタジオで使われているSony Oxfordのコンソールに組み込まれている技術を、すべてソフトウェアに書き換えて実装しました」

 「今まで専用ハードウェアじゃなければできなかったことを、汎用パソコンで実現していく。こうした“ホンモノ”の機能を、もっともっと一般のユーザーに使ってもらえるようにアレンジしながら組み込んで行きます」

 バイオのために、新しい付加価値となり得るような内製デバイスは利用しないのか? AV機器の分野では内製化比率を高めることで、他社製品との差別化を行う戦略を実行している。

 「パソコンのキーデバイスは、ソニー自身はほとんど持っていません。このため、カムコーダーやクリエに比べると、一般的に垂直統合度は低い。バイオの中で言えば、内蔵カメラなどが独自のデバイスということになります。しかし、アイディアはありますが、内製化比率を上げるといったアプローチを取るつもりはありません」

 ソニーだけのキーデバイスなしで、ユニークな魅力ある製品に仕上げることができるのだろうか? ユニークなデバイスなしでは、結局、スペック表だけでの比較をされかねない。実物を見ずにスペック表と写真だけで、製品の力を判断しようとしている購入層はインターネットの普及に伴って増えてきた。

 「スペック表しか見ずに買う購入層が増えてくることは、パソコンという商品がコモディティになっていく中で仕方がない。しかし、コモディティ化されたパソコン市場がすべてというわけでもありません。今のAVパソコンは、パソコンにオマケAV機能が付いているだけかもしれない。しかし、本当に素晴らしい製品が一つ出てくれば、ユーザーはパソコンであることの素晴らしさや可能性をきっと分かってくれます。(バイオ復活の)鍵はオマケではなく、“ホンモノ”の品質を持つことです」

ホームネットワークに向けて、ソニーならでは世界を構築

 バイオのAV/ITコンセプトに、他社製品が急速に近付いてきた背景には、IntelやMicrosoftが、バイオ的な製品を作るためのプラットフォームを推進したことも一因としてある。さらにMicrosoftは「Media Center Edition」をリリースし、今年は大きな改良を加えて秋にもホームネットワーク対応のMedia Center PCを提案する。

 ソニーが得意とするAV家電の領域にMicrosoftが入り込んできた形だ。

[本田雅一, ITmedia]

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