News:アンカーデスク 2003年6月23日 10:18 PM 更新

米富士通PCに学ぶ「不況下のPC販売」のコツ(2/2)


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 このため景気がよくモラル意識の高い時期に販売店にとって有利な契約をしていたPCベンダーは、最近の店頭販売の落ち込みによるモラル低下(カラ販売)のに悩んでいるという。

 「梱包を空けて返してくるだけならマシ。中には返品するためにワザとと壊したり、メモリモジュールを盗んだ上で、不良品として返品させることも珍しくはない」(諸星氏)。ここ数年の景気の良さが、米国におけるPC販売の陰の部分を薄めていた感があるが、業界が不景気になるにつれて、かつて大きな問題だった返品処理が再度、PCベンダーに重くのしかかってきている。

 こうした中でFujitsu PCが選択したのは、販売店に依存しないことである。例えば大きな売り場面積を確保している米Sony Electronicsは、販売店に11%前後のマージンを与えた上に、手厚い販売報奨金を支給することで、コンシューマー向けに大規模なPCの販売を行っている。しかしFujitsu PCは販売店マージンを8%に抑え、販売報奨金にも積極的ではない。その代わりに、販売店への依存度が低いことを活かしたやり方を目指している。

 元々、米国企業でもなく流通チャネルに大きく依存した販売体制を取っていなかったFujitsu PCは、ダイレクトマーケティングを行う上でのしがらみがほとんどない。損をする可能性があり、不景気によるモラル低下が発生すると大きな痛手を被る可能性のある店頭市場には執心せず、デル的な無駄のないダイレクト販売のモデルを作った。

 「われわれは日本と欧州で大量のPCを販売している。このスケールメリットを活かすため、米ローカルの仕様を極力避けることにした。Fujitsu PCは非常に小さなビジネスユニットを保ち販売量も少ないながら、生産コストの面では日本や欧州向けと同等を実現できている」と話す。

 米国のバイヤーがFujitsu PCのWebサイトでPCを発注すると、発注ログだけをサンタクララのオフィスに残し、直接、島根にある島根富士通のPC生産工場に注文が入る。島根で生産されたPCはFujitsu PCの手を経ずにユーザーの手元に直接届けられる。Web販売を行う上で必要なFujitsu PCのオペレーションコストは、ほとんど無に等しい。

 もっとも、これでは単に“ミニ・デルモデル”を実践しているだけに過ぎない。確かに損をする確率は低くなるかもしれないが、事業としての拡大も望めない。何がFujitsu PCのアドバンテージになるのか?

日本的品質の高さと米国的合理主義の融合

 そのカギは品質にあると諸星氏はいう。大量の製品展示を全米の販売店で行ったり、大規模な宣伝戦略を展開するといった手法は用いず、確実な成長を見込めるからだという。

 例えば購入後1年でPCが故障する確率は、米国内における全PCベンダー平均で21%程度にも達する。これは初期不良などの基本的な問題ではなく、米国人の使い方の荒さが主因だという。これに対して富士通の故障発生率は8%、デルの故障発生率は29%。故障率の低さが顧客に認められているという。

 ただし、デルは故障発生率こそ高いものの、顧客満足度は高い。なぜなら、電話や電子メールなどによるサポートが手厚く、故障時の修理が迅速なためだ。簡単なパーツレベルの故障ならば、エンドユーザーから報告を受けた時点で新しいパーツをユーザーの手元に送り、翌日にはユーザー自身が問題部分を交換して修理を完了できる。

 もちろん、すべてのケースがこのパターンに当てはまるわけではないが、PCの返送コストやオンサイト修理の派遣コストなどを考えると、修理期間とコストの両面で非常に有効な手法だ。この手法は多くのPCベンダーが真似をし始めているが、Fujitsu PCも同様の修理サポートを行っているという。全故障のうち40%はパーツ送付だけで対応可能なものだった。品質の高さがパーツ送付だけで対応可能な故障の割合を引き上げているためだ。

 Fujitsu PCは米国的(デル的と言った方がいいかもしれないが)合理主義を積極的に導入し、コストを下げ、リスクを最小限に抑える経営をしつつ、日本的品質の高さで勝負する。彼らの事業規模は、富士通全体、PC業界全体から見ると微々たるものだ。

 また堅実に足下を固めたあと、事業をどのように拡大していくのか。現在は小さなビジネスユニットであるが故にうまくいっている部分が、拡大へと向かう中でどのように自社の優位性を維持していくか、大きな課題はある。

 しかし、PC市場、世界経済ともにスローダウンする中で、外様である日本のPCベンダーが米国市場における足場を築いているという事実は評価すべきだ。現在の情勢の中で、PCビジネスで成功できる企業はほんの一握りだ。ましてや米国におけるFujitsuのブランド力は決して高くない。派手さはない彼らのやり方だが、そこには学ぶべき点が数多くある。

 日本のベンダーがPC販売で利益を挙げる時代ではない? 確かにPC販売はうま味のあるビジネスではなくなってしまった。しかし勝負の舞台がPCからPC以外の分野に移り変わったとしても、ビジネスの基本的なルールや考え方が変わるわけではない。

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[本田雅一, ITmedia]

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