News 2003年7月10日 09:34 PM 更新

再生マグネシウム利用率「9割」を実現した「FMV-BIBLO」

再生品と聞くとちょっと不安を感じるかもしれない。しかし、塗料乖離液を新規に開発し成分調整も施された富士通の再生品は、産地直送の新鮮なマグネシウムと比べてもほとんど遜色ないらしい。

 「PCのリサイクル再利用」と聞くと、「中古PC」を連想する読者も多いと思うが、メーカーではこれを「リユース」と呼んでいる。ここでいうリサイクル再利用とは、製造過程で発生した不要物や、産業廃棄物として回収されたPCから取り出した素材を、再び原材料として利用することを意味している。

 富士通は、生分解性樹脂部品をPCの筐体の一部に世界に先駆けて取り入れたり、廃棄PCの回収→素材抽出→PC原料として再利用、というサイクルを確立するなど、環境対応技術に関して積極的に取り組んでいる。

 その富士通は、現在、環境負荷の低減を目指したノートPCの素材研究に力を入れている。ノートPCのリサイクル利用は、製造過程で発生する不要素材を回収して再利用するラインと、廃棄された製品から回収された素材を再利用するラインの、2つの流れで構成される。


ノートPCに使われるマグネシウムの再利用サイクル。成型で発生する不要物と、廃棄製品から回収されたマグネシウムが再利用される

 製造過程で発生する不要素材とは、マグネシウム筐体の成型処理で発生する「バリ」。この部分を再溶解した上で成型前の素材である「ペレット」に加工して、再びPCの原材料として利用する。

 バリの再利用は、余った原材料をそのまま回収して利用するので、技術的にはそれほど難しいことでない。素材としての特性も、原材料からそれほど変化していないので、回収したバリを直接ペレットに加工しても実用上問題はない(実際、再溶解する工程を経るよりもコストと時間を抑えられるが、安全上の理由でいったん再溶解工程をはさんでいる)。  問題になるのは、いったんPCとして生産された製品から素材を回収して再利用する場合だ。マグネシウムの筐体は製造工程で塗装が施されるが、この塗装成分が不純物となって、再利用する素材物性に大きく影響してしまうのだ。

 そのため、塗装が施されているマグネシウムパネルは、再利用のために塗装成分を除去する必要がある。塗装剥離の方法としては、ヤスリや研磨剤で削り落とす物理的剥離と、化学変化を利用して塗装面を乖離させる化学的剥離がある。

 このうち、物理的剥離法は爆発の危険があったり剥離のバラツキが大きいなど、マグネシウムでは問題が多いため、通常は化学的剥離法を採用する。この方法も酸性乖離液を使う方法と、アルカリ性乖離液を使う方法に分かれるが、富士通では、バラツキが少ないもののエッチング作業が必要になる酸性乖離液ではなく、エッチング工程がいらないアルカリ性乖離液を新規に開発して使っている。


エッチング工程がいらないアルカリ性乖離液であるが、酸性と比べ剥離にバラツキが出てしまう。そこで富士通はこの欠点を改良した乖離液を新規に開発。評価テストでは、通常使われる水酸化カリウムベースアルカリ性乖離液のバラツキが±35%だったのに対し、新規開発乖離液は±2.5%という好成績を収めた


塗装を剥離したマグネシウム素材は、再利用する回数を重ねると耐蝕性が劣化する傾向がある。これは、初期原材料と比べて鉄成分が多く含まれてしまうのが原因。そのため、再溶解工程でマンガンを添加し、鉄成分を沈殿させて除去する成分調整が行われる

 現在、富士通のノートPC製造で使われるマグネシウムのうち、製造工程で発生した不要マグネシウムの再生品が50%、廃棄PCから回収した再生マグネシウムが40%となっている。初期原材料として原産地中国からの輸入マグネシウムはわずか1割しか使われていないのだ。

 廃棄ノートPCから回収されるABS樹脂も当然再利用されている。こちらも製造工程で塗装されているため、初期原材料と比べて物理的特性が変化している。とくに問題になるのが、耐衝撃性の劣化と塗料による混色。耐衝撃性の回復には成分調整でブタジェンを添加し、混色に対しては顔料を使って調色する。

 以上のような「ノートPC筐体の再利用研究」を行っているのが、富士通の材料環境技術研究所。研究所の所長代理である河原田元信氏の目標は、長寿命、かつ循環性を実現した、環境負荷を低減する筐体材料の開発だ。昨年FMV-BIBLO NBのIR窓のパーツに採用された「生分解性樹脂」は循環性を実現した素材。

 2004年にはこの素材を全面的に採用したノートPCを出荷する予定になっている。従来、問題とされてきた強度と収縮率については、無機素材であるタルクの添付によって改善されている。


糸状菌で分解される生分解性樹脂。すでに園芸用の鉢などで広く使われており、家電でも携帯再生機で使われている。回収した筐体から分別されたABS樹脂のリサイクルも進めているが、産業廃棄物として埋められてしまっても、二酸化炭素と水に分解して環境負荷を軽減するようにしている

 当面の課題となっているのが難燃性の問題。高温に弱い生分解性樹脂の特性は、最近のハイパフォーマンスノートPCにとって致命的な弱点になる。現在UL94 HBをクリアしている(難燃性規格で最も低レベルのもの。規定の試験において、定められた燃焼速度を越えずに燃焼することが求められる)が、富士通ではUL94 V-0(基板に使われる素材では最もグレードが高い。規定の試験において発火しても10秒で消火する。かつ火種が脱脂綿に落下しても発火しないことが求められる)の実現を目指して開発が行われている。

関連記事
▼ 富士通が取り組む「工場自身の環境負荷低減」活動
▼ 富士通、マグネシウム合金を100%再生する新技術
▼ 富士通、生分解性プラスチック部品をノートPCに採用

関連リンク
▼ 富士通

[長浜和也, ITmedia]

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.