News:アンカーデスク 2003年7月14日 08:02 AM 更新

PCオーディオの鍵を握る「EDIROL」、次の一手(1/2)

PCで音楽を制作するという市場は、安定はしているが今後の成長は望みにくい。そこでメーカー側が注目しているのがPCオーディオ市場。この市場では現在、“ハイエンド”部分が完全に欠落しているが、「EDIROL」はその創造を狙うブランドだ。
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 徐々に様変わりし始めているが、今から15年ほど前なら楽器は「御茶ノ水」、オーディオは「秋葉原」と、東京では相場が決まっていたものだ。その両方をかじってきた人間にとっては、そのあたり一帯にいろいろ集まっているというのは実に便利なもので、学生の頃はなどは御茶ノ水で楽器を見たあと、坂を下ってアキバをうろついて帰るというのが定番コースであった。

 パソコンで音楽制作、いわゆるDTMの黎明期では、Macintosh PlusやATARI Mega STといったところが音楽雑誌広告の定番コースで、PC-98は理系の人、Amiga2000はマニア過ぎ、といった感じであったろう。しかしそのような胎動が、物流的にも顧客的にも御茶ノ水と秋葉原の距離を縮めていく動きとなっていったのは、興味深い。

 そんなアキバと御茶ノ水の両方にほど近い千代田区神田須田町に、ローランドの東京営業所はある。ローランドといえば楽器メーカーではあるものの、昔からかなり電気系で、シンセサイザーやギターアンプの老舗、そしてDTMでは「ミュージ郎シリーズ」でお馴染みである。そのローランドが最近、「EDIROL」というブランドを立ち上げ、なかなか面白い製品を出してきている。

 筆者が最初にEDIROLの名前を意識したのは、某CATV局にお邪魔したときだ。そこでは編集システムとして、EDIROLのDV-7Rを導入していた。ネットワークとかに全然つながらない完全スタンドアロン機なのだが、これがまたマニアックにもBeOSで動くマシンなのである。

 今回は名門ローランドの中でもPC系のブランドという位置づけの、エディロール株式会社に取材させて頂くことができた。お話を伺ったのは、同社国内営業グループの蓑輪雅弘氏である。

EDIROLとは

 ローランドは基本的には楽器メーカーなのであるが、楽器系の製品スパンというのは、だいたい2年ぐらいである。ところがこのスパンでモノを作っていっては、とてもPCのように1年で4回も新機種が投入されるような展開の早い業界にはついて行けない。

 「そこで、会社としてもっと身軽に動けるように、コンピュータとつながる周辺機器のブランドを切り分ける必要が出てきたんです。最初はRolandEDという中間ブランドがあったんですが、これだとPC系のお客様もローランドの楽器系サポートセンターに連絡して来ちゃって、混乱したんですね。そこで“編集する製品群”という意味のEdit Rolandから、EDIROLというブランド名へつながっていったわけです」(蓑輪氏)

 エディロール株式会社は、発足してまだ1年半。製品の製造と開発はローランドが行ない、エディロールはマーケティングと販売を担当する。ローランドには古くからギターのエフェクターなどでお馴染みの“BOSS”というブランドがあるが、これも“EDIROL”もローランドのマルチブランド戦略である。

 EDIROL総合カタログのトップを飾るのは、「ミュージ郎ネットスタジオ」という製品だ。ミュージ郎という製品は、楽譜ベースで音楽を作っていくツールなので、どうしても敷居が高い。そこでネットスタジオでは、新たにMIDIファイルを切り張りして音楽が制作できるツールを搭載した。オーディオファイルを切り張りできるACIDというソフトが一時期流行ったことがあるが、これのMIDI版である。

 「コンシューマーのDTM市場というのは、実は国内しかないんです。ミュージ郎シリーズは出荷数が安定して横ばいなので、マーケットとしては成立しているんですが、ここ数年のパソコン普及台数の増加率を考えれば、音楽をやる人というのは減少傾向にあると言っていいでしょうね」(蓑輪氏)

 まだインターネットが一般に普及しておらず、「ネット」といえばパソコン通信を指していた頃、音楽も映像も、ゼロからモノを作る人というのはたくさんいたものである。あの当時はすでにアナログで何らかの制作をやっていて、それをデジタル化してゆく作業の過渡期であったろう。アナログベースのクリエイティブ要素とPCのデジタル技術が混然一体となって、モノを作っていった時代だったのだ。

 当時パソコンでやりたいこととして、みんなそれぞれが何らかの目標を持っていた。ところがインターネットの出現によって、そのモチベーションがWEBを見るとかメールを書くとかいったことで消化されてしまっているんじゃないか、というのが蓑輪氏と筆者の共通した思いだ。

EDIROLの打つ布石

 「PCで音楽制作」という市場はある程度安定してはいるが、今後拡大していく見込みは薄い。それに変わる市場としてEDIROLが注目しているのは、「PCオーディオ」の市場だ。先日のコラムでもVAIOのSonicStage MasteringStudioを扱ったが、このパートナーとなっているのがEDIROLのUA-5というUSBオーディオデバイスである。

[小寺信良, ITmedia]

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