News:アンカーデスク | 2003年7月14日 08:04 AM 更新 |
そしてEDIROLが今月25日に発売する「UA-3FX」は、同モデル3世代目になる製品である。UA-5のようなバランス入力はないが、オーディオ入出力およびマイクやギター入力を備えたUSBレコーディング機器だ。WindowsXP標準ドライバで動作する機器としては初めて24bitレコーディングに対応した。
「一般に製品というのはリリース直後に大きく売れて、あとは次第に下降線を描くものですが、UA-3は最初の発売以来、下げ止まらないんですよね。置いたときの安定感とか操作のしやすさが受けたという部分もありますので、デザインは踏襲しました。もちろんその分でコストダウンした資金を、新機能に投入することができるというメリットもあります」(蓑輪氏)
UA-3FXではさらに、エフェクトも装備した。コーラスやディレイといった楽器用途のものから、ノイズリダクションやEQといった音質補正用途のものもある。蓑輪氏はこの製品を、PCのハイエンドオーディオ市場につながる布石と位置づける。
「単にオーディオをPCに録音するだけじゃなく、エフェクトをいじってみて、あっ面白いな、という“気付き”の製品になるんじゃないかと思ってるんです」(蓑輪氏)
比較的堅調な製品をベースに、音をいじる要素を足すことで、少しでもクリエイティブなモチベーションを持ってもらいたいという思いが伝わってくる。そうすることで、少しでも音に対する改善欲を刺激してやれば、今後ハイエンド製品の投入が楽になるだろう。そしてこうまで布石が必要なのには、訳がある。
最終的な着地点
音楽制作では、ある一線を越えた時点でプロの世界に突入する。したがってハイエンド製品はプロが使うので、市場が存在することになる。しかしリスニング系は、どんなにハイエンドに昇っても、プロというのがいない。どこまっていっても、アマチュアしかないのである。
従ってハイエンドコンシューマーということになるわけだが、PCでリスニング系のハイエンドという市場は、今のところ存在しないのだ。これを開拓していく初の試みが、VAIOの「SonicStage MasteringStudio」であるわけだ。
市場がないところに対して一気に資本を投下できるかとなると、ハードウェアメーカーとしては厳しいところだ。従って製品アプローチとしては、PCリスニング系の下の方から徐々に底上げしていく方向になるだろう。
それよりもさらに安全なのは、既に市場がある音楽制作系ツールをリスニング系に横スライドさせていくという作戦だ。これがUA-5にあたる。
ユーザーの底上げプランに関しては、筆者は別の意見を持っている。つたない経験から言わせていただければ、世の中の大半の人は、ちょっとぐらいクオリティの上がった音を聴かせても、ほとんどその差がわからない。
例えばアナログソースを16bitでサンプリングしたものと、24bitでサンプリングしたものを聞き分けろなんていうのはもう全然無理で、なんとなく「音が違うネ」ぐらいがわかればいいほうである。どっちが良い音かに関しても、「まあ好みのモンダイだから」で終わりだ。
音に対してあまり執着を持たない人にも明確に音の違いをわかってもらうには、その人にははるかにオーバースペックぐらいのクオリティを持ってこなければならない。そうでないと、全然聴き取れない、というのが筆者の意見だ。聴き取れなければ価値を見いだせない。だからお金を出す気になれないのである。
またそのお金に関しても、この不景気なご時世、費用対効果を考えなければ市場は育たない。誰だって30万円のSACDプレーヤーと120万円のスピーカーを聴かせれば、そりゃあイイのはわかる。そして同時に、ここまでしないと違いがわからないんじゃ、全然コストに見合わないとも思っているのもまた事実だ。
だがPCでは、ローコストでスタンドアロンのオーディオを凌駕できるスペックが実現できる可能性を秘めている。閉塞感漂うPC市場の活性化は、「ユーザーの手作り感」をうまく刺激しながら、潤沢なデジタルリソースを使っていかにリッチなアウトプットを表現してみせるか、というところにかかっている。
それにはまずいろいろな下準備が必要だ。まずはオーディオの96kHz/24bit化技術、デジタル伝送、そしてオーディオ的にちゃんとしたPC用モニタスピーカーの存在だ。そしてEDIROLはその全部を保有する、数少ない国産メーカーなのである。
小寺信良氏は映像系エンジニア/アナリスト。テレビ番組の編集者としてバラエティ、報道、コマーシャルなどを手がけたのち、CGアーティストとして独立。そのユニークな文章と鋭いツッコミが人気を博し、さまざまな媒体で執筆活動を行っている。
[小寺信良, ITmedia]
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