News:アンカーデスク 2003年7月18日 09:10 PM 更新

忘れていたもう一つのセキュリティ(1/2)

ネット上での顧客データベースの流出は社会的な事件として大々的に取り上げられる。だが、そんな話以上にごく単純な形で個人情報が流出し、その悪用で不愉快な思いをさせられてはいないだろうか。その上、筆者には今のところそれに対する抜本的な対抗策が見つからないのだ。
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 時折、ネット上での顧客データベース流出が事件として取り上げられる。もちろんこの原因はずさんな管理体制にあるわけだが、結果的には誰かの通報によってコトが明るみに出るわけだ。だが考えてみれば、明るみになるということは、まだ世の中には善良な人がいるという証明だろう。本気でそのデータベースを悪用する人間は、黙ってそれをコピーするだけだからだ。

 例えばあなたの個人情報が漏えいされてしまったとして、一番被害を被るデータは何だろう。住所を元にダイレクトメール(DM)が送られてくるならば、そいつはゴミ箱に捨てれば済む。メールアドレスなら、発信者を特定して“KILL”すればいい。少なくともそれらは、中身を目にすることなく破棄できる分、マシである。筆者が思うに、漏えいして一番困るデータは、電話番号だろう。

 電話というメディアは、実にぶしつけな存在だ。昼夜を問わずベルを鳴らし、こちらの手が離せなくても、あるいは考え事の最中でも、今やっていることのすべてを放り出して、どこの誰とも事前に分からぬままに応対に出ることを強要する。

 電話のセールスというのは、断わって電話を切るまで、異様に消耗しないだろうか。いったん切っても、性懲りもなくまたかけてくる輩もいる。向こうは指一本の簡単訪問販売だと割り切っているから慣れているかもしれないが、一般人側にとって精神的ダメージは大きいものである。

 個人的な話で恐縮だが、筆者宅の電話はISDNのダイヤルインサービスで、個人用と仕事用の二つの番号を使用している。後から取得した番号の回線を仕事場に引いているのだが、これが思わぬトラブルを引き起こした。

 この番号を取得した当初、なぜか間違い電話が異常に多かったのである。それがすべて学習塾からのセールスなのだ。そもそも間違い電話なので、違いますヨと言えば、しつこく食い下がられることはないのだが、あまりにも数が多い。これはいったいどういう訳かと、電話してきたある業者に聞いてみたところ、驚くべき事実が明らかになった。

 筆者の仕事用番号を以前使っていたお宅には、今度中学3年生になる娘さんがいるんだそうだ。そういった情報が載ったデータベースが、学習塾向けに販売されているのだという。

 「今高校受験だからこうしてどこ(の塾)も電話かけてますけど、いったん落ち着いてもまた3年後(今度は大学受験だ)にいっぱいかかってきますよ」

 彼らは一度入手したリストを、決して手放すことはない。

アナログデータはコピーし放題?

 名簿ビジネスというのは、今やそれほどマイナーな存在ではない。特に名を秘すが、過去に副業としてこの名簿ビジネスを行なっていた人に話を聞かせてもらった。その人は医療器具や薬品メーカーに売るための、日本全国の医療機関の名簿を作成していた。

 官公庁でも、既にデジタル化されているデータベースは、もちろん自由に閲覧したりコピーしたりすることができない。ところがアナログ、すなわち紙ベースの名簿は、実に簡単に閲覧することができる。そこで主婦のパートを集めて交代で厚生労働省に向かわせ、この紙の名簿を閲覧させる。ご丁寧にも、そこには有料だがコピー機まで装備してあり、毎回両手の紙袋いっぱいになるまで名簿をコピーして持ち帰るのである。

 コピーした名簿は、同じく主婦のパートを使って、パソコンにデータ入力し直す。誰でも簡単に名簿入力ができるようなExcelのマクロまで作ったというから、念の入った話だ。ゼロから作ってもおよそ数カ月で、この手の日本全国を網羅した数万件レベルのデータベースができあがるのだという。

 断わっておくが、この方法はもはや使えない。以前は日本全国の医療機関が一括して閲覧可能だったが、情報のデジタル化により、現在はできなくなっているという。それでも各地方の法務局に行けば、登記簿などは500円で閲覧でき、コピーもできるという事実は変わらない。

 もちろん登記簿には、電話番号までは記載されていない。しかし、ある行政書士の知人に取材してみたところ、住所さえ分かれば、別のデータベースと突き合わせて電話番号を割り出すことは難しくないという。

 最も多い例としては、年賀状ソフト内に組み込まれている電話帳データベースを引っこ抜いて使う例だ。年賀状ソフトに限らず、カーナビなどでも電話番号から住所を割り出すシステムを搭載しているものは多い。これらのベースは、電話帳に記載されている電話番号である。

 ただし事業者ならともかく、個人の電話番号を割り出すのは、以前に比べれば難しくなっているという。だが同窓会名簿やなんらかの会員名簿と突き合わせて割り出すケースもある。

迷惑電話に対策を講じる

 話をまた個人的なことに戻す。仕事場の電話は、学習塾の勧誘はひとまず落ち着いたが、今度ははっきり筆者の名指しで不動産会社からセールスの電話が入った。 もちろんこの番号は公に公開しているような、いわゆる「代表番号」のようなものではない。

[小寺信良, ITmedia]

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